【ケガをした患者が来られたとき,傷を洗っていますが,これは必要なんでしょうか?】
実は創洗浄は不要です。創面が異物で汚染されていれば洗浄は必要ですが(この場合,局所麻酔は必須。麻酔しないで洗うと痛い!),血液が付着している程度であれば,洗う必要はありません。
では,なぜ「傷を洗う」と書いているかというと,湿潤治療に最初に触れた医者,患者の大多数にとっては,「傷を消毒しなくていい」というだけで驚天動地だからです。ソビエトの崩壊,江戸幕府の崩壊,アパルトヘイトの放棄と同じくらいのインパクトじゃないかと思います。
こういう人にとっては,「消毒薬を使わないのはいいとしても,その代わりに何か使わないと不安」なんですね。その「代わりの何か」が水道水です。つまり,消毒薬の代替物としての水道水です。だから,「消毒でばい菌を殺す」のではなく「水道水で洗ってばい菌を洗い落とす」と説明すると,こういう人たちは安心して治療を受け入れてくれるようになります。
いずれ,物心ついた頃から「傷は乾かさないのが常識。消毒薬は見たことがない」世代が世の中の多数派を占めるようになれば,「昔は傷を必ず洗っていたんだよ。痛いけど我慢してたのさ。傷が化膿しないようにってね」と昔話のネタになるはずです。
【下腿熱傷の患者さんで時々,非常に痛がる人がいます。感染が起きているわけでもなく,順調に治っているのになぜか痛みがおさまらず,歩行も困難なようです。なぜでしょうか?】
下肢熱傷,特に下腿遠位以遠の熱傷は痛みを訴える患者さんが他の部位より多いです。それも「原因不明の痛み」が多いです。今まで経験したパターンを順不同にあげてみます。こんな具合です。
- 下腿〜足背のV度熱傷。全く痛みがなく経過していたのに,5日目に突然痛くて歩けなくなり,入院。感染症状もなく,ただただ「痛くて歩けない」の一点張り。入院して患肢挙上をしていても痛みは変わらず。しかし熱傷創面は順調に上皮化が進行。そしてある日突然,すたすた歩けるようになりました。
- 女子中学生。広範なU度の下腿熱傷。受傷翌日,部活の顧問から「痛くないなら練習に出ろ」と言われて3時間練習。その日から激痛で歩けなくなり,層の状態も悪化し,一部V度熱傷に移行。
- 男性の足背U度熱傷。安静にするように説明したが,仕事が忙しいために仕事をしていたら,その晩から激痛が。
- 乳児の下肢U度熱傷。創面はほとんど上皮化しているのに,なぜか「痛くて歩けない」と訴え,自宅でもハイハイでのみ移動。その状態がしばらく続いたが,ある日突然,立ち上がって走った。
下腿〜足背熱傷では「痛くなくても仕事を休め。足を上げていなさい」とアドバイスするとこういう「痛み」は防げるようです。また,湿潤治療の最大の長所は「痛みが少ない」ことですが,「痛くないから治った」と勘違いし,普通に歩きまわる患者さんが少なくなく,そういう人に「患部の腫脹⇒痛み」が発生しているような感じです。要するに,「痛くない」ことがアダになっているわけですね。
乳児の「痛みと歩行困難」も理由がよくわかりませんが,なぜかある日突然,歩けるようになるみたいです。多分,「本当に痛くないことを自分で確認(自覚?)する」のに時間がかかるのかもしれません。
なお,上肢熱傷ではこういう痛みを訴える患者さんは少ないので,下肢熱傷特有の現象なのかもしれません。
【刺青(入れ墨,イレズミ)の治療について】
現時点では,刺青の治療(=刺青の除去)には次の方法しかない。
@レーザー治療
A切除縫縮
B刺青を除去して皮膚移植
C刺青を除去して湿潤治療で上皮化
@は刺青の色によって結果が違う。黒がもっとも除去しやすく,その次が青と赤,そして緑や黄色にはレーザーはあまり効かない。つまり,アメリカンなカラフル・タトーは取れないことが多い。値段は刺青の面積によって決まり,治療機関はネットで検索できるが,「どんな刺青も綺麗に取れる」と宣伝しているところは避けた方がいい(明らかに嘘の宣伝をしているから)。
Aは数センチ以下の小さな刺青が対象となるが,傷跡は「怪我をして縫った傷跡」と同じなので不自然さはない。全国各地の形成外科で手術してくれると思う。もちろん,保険は効かない。
Bは以前から行われていた方法。「皮膚を採取する部位」にも傷跡は残るが,うまく行けば1回の手術で広範な刺青が全て除去できる。「入院費,全身麻酔の費用,刺青除去手術の費用,植皮の費用」が全て私費となるため,値段はかなり高いはず。「全身麻酔ができる病院で,デルマトームで刺青を剥ぎ取る技術があり,皮膚移植ができる」医者がいれば治療可能で,多くの総合病院の形成外科がその条件に当てはまると思う。
Cは,私は大昔に一度だけ背中全体の刺青をこの方法で除去したことがある。深いところまで刺青色素が入っていなければ1〜2週間くらいで上皮化し,傷跡も比較的きれいになるはずだ。問題は,「全身麻酔ができる病院で,デルマトームで刺青を剥ぎ取る技術があり,しかも湿潤治療の知識がある」医者がなかなかいないことだ。湿潤治療が「普通の治療」として普及すれば,どこの病院でもできる治療になると思われるが,現時点では,治療をしてくれる医者を見つけるのが最大のネックであろう。
仕上がりのきれいさ(=自然さ)でいうと@>A>C>Bの順である。@はこの中では一番きれいだが,カラフルな刺青の場合にはかなり痕が残るようだ。
いずれの方法にしても保険は利かない。刺青は病気でないのだから当たり前である。「刺青は入れるのは安くて簡単だが,取るのは高額で大変」である。
ちなみに筆者は刺青の治療は行っていない。不慮の事故でケガをしたりヤケドをした人の治療で手一杯だからだ。
【冷え性がひどく湯たんぽが手放せませんが,冷え性って治らないのでしょうか?】
私の経験では,冷え性はドルナー錠,オパルモン錠の内服で治ります(有効率は90%以上という感じです)。1回2錠,1日3回内服させるだけで,2〜5日間連続内服すると手足がポカポカしてきて冷え性がなくなり,あとは内服を止めても冷え性が再発することはないようです。万一,冷え性が再発しても,1錠か2錠,数回内服するだけで大丈夫みたいです。
問題は保険病名がASOなどの「年寄りオヤジの病気」しかないことです。対策は・・・皆さん,ご自分で考えてください。あと,妊娠中の女性への投与もだめだよ。
【既にできたやけどの痕に湿潤治療は効果がないとありますが,例えば傷痕をもう一度火傷させるか切除するかなんらかの方法によって傷を作り,湿潤治療をするというのは無理でしょうか。】
湿潤治療で傷が早く治り,傷跡もきれいなのは創面に残っている皮膚付属器(毛孔や汗管)からの皮膚再生が創面全体から起きるからです。逆に言えば,皮膚付属器が残っていなければ完治までに時間はかかるし,傷跡も「きれい」というほどではありません。この症例を見るとわかるように,受傷後10ヶ月経っても前腕の傷は半分以上残っていて,全ての傷が治るまでにあと半年〜1年はかかると思われます。
昔の熱傷治療で瘢痕治癒した瘢痕を切除したり,皮膚移植を受けた皮膚を切除した場合,皮膚付属器は既に残っていないため,上記の症例のような経過を辿り,面積にもよりますが1年経ってもまだ傷が治らない,という場合が多いと思います。
さらに困るのは,瘢痕や移植皮膚を切り取ったとして,その傷口(創縁)が正常な皮膚でなければ皮膚の再生は起こらない,という問題です。再生に必要な皮膚細胞は正常な皮膚(=瘢痕でない皮膚)から遊離するからです。「創縁が正常皮膚」にするためには,現在の瘢痕を超えて拡大切除しなければならず,傷跡は必然的にかなり大きくなります。
また,瘢痕を切除して上皮化させた状態は,この症例のようになると予想されます。現在の状態とこの写真の状態を見比べ,どちらがましかと言うことです。
この質問者のような悲劇を断ち切るためには,昔ながらの熱傷治療をする医者どもを撲滅するしかありません。この連中が熱傷治療を続ける限り,この質問者のような悲劇が続きます。2010年6月16日の更新記事に紹介した「バカ形成外科医」が悲劇を生み出す諸悪の根源なのです。
【水疱,血疱,皮下血腫の治療方針について】
表皮内水疱,真皮内水疱(血疱)の場合には,水疱膜(血疱膜)はすべて切除してプラスモイストやハイドロサイトで被覆します。水疱膜や血疱膜には神経組織は分布していないので,痛みなく切除できます。
皮下組織(真皮より深い組織。脂肪層や筋肉内など)の血腫の場合には,とりあえず2週間は様子を見ます。ほとんどの場合,2週間以内に自然に吸収されます。吸収されないで残っている場合には局所麻酔下に切開排膿し,ペンローズドレーンを留置して圧迫します。
【「感染管理」エキスパートコースで末梢静脈カテーテルのサーベイランスに取り組んだところ,結果・考察がCDCのガイドライン(72時間から96時間ごとの入れ替えを奨励)に沿っていなかったことで,考察のやり直しを指導されました。
病棟で調べてみると,特殊な事情がある患者(例:静脈炎を誘発する薬剤を点滴,認知症などで安静が保てない)を除き,圧倒的多数では1週間から10日間留置しても問題ないことを確認しています。その結果から現行のまま感染兆候があれば交換することでよいとしたところ,CDCのガイドラインに沿って72〜96時間で交換するよう現場へ啓発が必要だと指導されました。なんだか納得できません。】
もちろん,「CDCに従うように」という指導に納得できないあなたがまともであり,エキスパートコースの指導者がおかしいです。現実を見ずにCDCばかり見ている連中が少なくありませんが,こういうのを「CDCバカ」,「CDC原理主義者」と呼びます。イスラム原理主義者,キリスト教原理主義者並に頭が悪い連中です。頭の悪い連中(要するに馬鹿ですね)の命令に従わなければいけないのは辛いことです。
大体,「72時間から96時間」という数字がおかしいと思いませんか? 72も96も24の倍数です。なぜ24の倍数かといえば,もちろん,看護業務は24時間単位で行っているからです。しかし24時間は人間の生活のサイクルであって,細菌の生活サイクルは24時間単位ではありません。感染対策が細菌を相手にしている以上,細菌の生活サイクルを交換の単位にしなければいけないのに,「人間の勤務サイクル」だけ考えています。だからCDCガイドラインは机上の空論,オバカさんが作ったガイドラインです。
CDCガイドラインを猿まねするだけ,CDCガイドラインをオウム返しにいうだけなら,何も指導者は人間である必要はありません。サルかオウムで十分です。CDC原理主義者の皆様はもしかしたら,オウム並の頭脳しかないので,「CDCのオウム返し」しか芸ができないのかもしれません。
【ゲンタシン軟膏・リンデロン軟膏を傷に塗るのはどうでしょうか?】
どちらも傷に使っても問題ありません。ゲンタシン軟膏の主剤であるゲンタマイシンは0.1%であり,残りの99.9%が基剤,つまり白色ワセリンです。同様に,リンデロン軟膏も99.88%はワセリンです。つまり「ほぼ純粋なワセリン」と言えます。だから,傷に塗っても安全です。
「リンデロンはステロイドだから」と心配する必要もありません。短期間しか使用しないし,もともとステロイドとしての効果は強くないからです。
傷に塗ってもいい軟膏の見分け方は次のとおりです。
- 半透明な軟膏は傷に塗っても安全(⇒基剤がワセリン,あるいはプラスチベースだから)
- 不透明な軟膏は傷に塗ってはいけない(⇒クリーム基剤だから)
【院内勉強会で手指消毒薬の使用量サーベイランスの結果報告を報告し,手指消毒遵守率が低いため手指衛生をきちんと行うようにと発表することになっていますが,いかがでしょうか。】
以前にも説明したとおり,「消毒薬でなければバイキンを殺せない」という発想がおかしいのです。細菌学の初歩を学ぶと判りますが,このような意識は19世紀の生物学の発想です。要するに,WHOもCDCも厚労省も,19世紀の知識で感染症対策を考えています。だから,消毒薬で手洗いすると手が荒れ,その手はMRSAの 巣窟になります。
また,「手洗い遵守率が低い」ことを問題にされていますが,そもそも目的はなにかというと「手洗いをさせる」ことではなく「院内感染を減らす」ことのはずです。目的と手段を混同してはいけません。決まりを守らせることが目的だと混同すると,決まり自体が間違っていたときに全てのシステムが崩壊します。
ではどうするか。病棟を[ひっきりなしに消毒薬で手洗いをさせる]と[水道水のみで頻回に手洗いさせる]と[手指が汚れた場合にだけ水道水で洗浄]の3つに分けて医療処置をさせ,1ヶ月間で各病棟間での院内感染発生数を調べればいいだけのことです。恐らく,3群で発生率に差はないはずです。次に病棟を変えて同じ実験を繰り返せば,「手指消毒と院内感染」の関係が明らかになります。
それで「手指消毒による院内感染発生抑制効果は水道水と同じ」であれば,消毒薬による手指消毒・洗浄を止めます。実に簡単なことだと思います。
【消毒と細菌については理解できたのですが,インフルエンザやノロなどのウイルスには消毒は必要あるのでしょうか?もしくは消毒しなくとも水で洗うだけで落ちるものなのでしょうか?】
ウイルスは核酸(遺伝子)をカプシドというタンパク質の膜が包んでいる構造体です。
また,ウイルスはターゲットとする細胞には結合できますが,健常な皮膚表面とは結合しているわけでなく,皮膚の上に乗っているだけです。だから,洗い流せばウイルスは落とせます。
消毒薬はタンパク質に結合して立体構造を変えるので,もちろん消毒薬を含むあらゆる「タンパク質変性剤」はウイルス除去に有効です。
しかし,その消毒薬(タンパク質変性剤)は人間の細胞も障害します。皮膚表面の角質が正常なら消毒薬のタンパク質変性作用はあまり影響を及ぼしませんが,消毒薬に含まれる界面活性剤は角質に対して害を及ぼします。
つまり,ウイルスがタンパク質で包まれている以上,「ウイルスのみ殺して人間には害のない消毒薬(タンパク質変性剤)」は絶対に作れないと言うことです。
ウイルスを除去するだけでよければ,火炎放射器で皮膚を焼けばウイルスはなくなります。「ウイルスは怖い,ウイルスを何としても除去しなければ」と考えると,最後は火炎放射器に行き着きます。
火炎放射器によるウイルス除去の愚には誰も気がつきますが,消毒薬によるウイルス除去の愚には誰も気がついていません。
【肺癌手術(右上葉切除,第1〜3肋骨切除,胸椎合併部分切除)後に創離開が起こりました。胸腔に通じる深い瘻孔(組織欠損)がありガーゼでドレナージを行っていて,ガーゼ1枚入るくらいのスペースになっています。どんな処置をしたらいいのでしょうか。】
この症例ですが,創内には何もいれず,表面を紙おむつで覆うだけで治るはずです。この症例経過が参考になると思います。創内にはガーゼも何もいれず,表面をラップやハイドロサイトで覆っているだけで根治しています。
なぜガーゼを創内に入れる必要がないのかというと,「傷の表面を何かで覆うこと」そのものが不要だからです。
医者にとって「傷表面は治療材料,治療薬でおおわれていなければいけない。傷表面は何かで直接覆われていなければいけない」という考えは強固なもので,陥没した傷を見るとガーゼか何かを入れたくなるし,軟膏を入れたくなります。しかし「陥没した傷には何かを入れなければ治らない」というのは単なる思い込みで,医学的な根拠はありません。
このような症例では創部に紙おむつをあてて仰向けになってもらって体を動かしておけば,創内にたまった液体は出てきておむつに吸収されます(このドレナージは一日数回程度で十分です)。しかし,吸収される浸出液は余分な分だけで,内部(創面)は乾燥することはなく湿潤に保たれ,その結果深部から肉芽が上がってきて陥没は埋まってきます。
【「湿潤治療をしている医師」と「熱傷治療をしている医師」を分ける意味はないと思います。外傷も熱傷も同じ治療法だからです。】
理由は次のとおりです。現在,熱傷治療を行っている形成外科医・皮膚科医は「熱傷は特殊な病態をもつ特殊な疾患。他の外傷とは全く別物」という教育を受けています。熱傷学会があり,熱傷専門医が認定されているのが何よりの証拠です。専門知識を持っている医者が熱傷治療を行うべき,と考えているわけです。このような教育を受けた世代がいる限り,「外傷と熱傷は別物」という意識は消えないと思います。
- ヤケドをして「湿潤治療をしている病院(医師)」を受診したが,ヤケドは治療していないと断られた,という患者さんからの連絡を受けることが少なくない。
- 「熱傷も外傷も治療法は同じ」ということに気がつくのは,実際に外傷の湿潤治療を初めてうまくいき,おっかなびっくり熱傷治療を始めてみて治療例を重ねたからわかることであり,最初はそこまでわからない。
- 「熱傷は治療している小範囲で軽症の熱傷に限る」という医者が少なくなく,「熱傷を治療している」と公表すると手に負えない重症熱傷患者が受診するかもしれない,と恐れている医者も少なくない。
- 同じ病院内に形成外科・皮膚科があり,熱傷患者は自動的にそれらに振り分けられるため,熱傷治療したくてもできない,という医者も少なくない。
- 専門医として特殊外来を持っていて,熱傷患者の治療に専念できる状態ではない,という医者が少なくない。
- 皮膚移植手術の知識も技術も道具もないため,皮膚移植が必要な熱傷は治療できない。このため「熱傷を治療している」とするには気が引ける,と考えている医者も少なくない。
- 日本形成外科学会の重鎮は「熱傷と外傷は別物」と考えている。現に,四国で講演した際,座長をしていた徳島大学形成外科教授から「外傷の湿潤治療はいいが,熱傷に湿潤治療を行うのは間違っている。こういうことを言い続けるなら,形成外科専門医として認めるわけにいかない」と公衆の面前で恫喝されたことがある。つまり,日本形成外科学会は「熱傷と外傷は別物」と考えている。
このような状況下では,形成外科専門医が「熱傷を湿潤治療している」と名乗りにくいかもしれない
これは要するに,生まれた時に周囲の大人が全てタバコを吸っていた世代(=喫煙の健康被害が知られていない時代,喫煙することが格好いいと思われていた時代)と,喫煙の健康被害がわかってしまった時代に生まれた世代の,喫煙に対する態度の違いと同じです。
1960年代のアメリカ映画,フランス映画,日本映画を見ると,登場人物の大多数が喫煙していますが,1990年以降の映画では喫煙している人物はほとんどいません。この間に喫煙に対する意識が変わったため,映画界も変わったためです。
これと同じように,医学現場で世代交代が起これば自然に「外傷も熱傷も同じで区別するほうがおかしい」というのが常識になるでしょう。現在は過渡期なのです。
【手術前のイソジン手洗いは必要でしょうか。手洗いで手が荒れて困っています】
結論から先に書くと,手術前にイソジンなどによる手洗いは不要である。通常使用している家庭用の石鹸で十分だろうし,理論的に考えれば水道水で洗っただけで十分目的は達成できるはずだ。実際私は,外来で指骨折の観血的整復術,腫瘍切除術を行う際,手洗いはしていないし,使用している手袋も未滅菌のディスポのものであるが,それで感染を起こしたことはない。
これは次のように基礎的事実から演繹できる。
- 手,前椀の皮膚に付着している細菌は皮膚常在菌と通過菌に分けられる。
- 創感染を起こすのは通過菌のみ(例:黄色ブドウ球菌,緑膿菌)であり,皮膚常在菌は創感染を起こさない。従って,手術前の手洗いで除去すべきのターゲットは通過菌である。
- 皮膚常在菌は皮脂腺から分泌される皮脂を栄養源とするが,通過菌にとって皮脂は増殖抑制に作用する(分かりやすくいえば,皮脂は通過菌にとっては毒物である)。
- このため,皮膚表面に皮膚常在菌が皮脂に包まれた状態で生息し,通過菌はその上(=皮脂がない)で生息・付着している。つまり,深部に常在菌,表層に通過菌という住み分けをしているわけである。
- 通過菌は皮膚の上に「ちょっと乗っている」状態であり(通過菌にとって皮膚は本来の生育環境でないから,皮膚と結合するメカニズムを持っていない),洗っただけで除去できる。
- 水道水で手の通過菌を除去してしまえば,通過菌で汚染されている物に直接手を触れない限り,手は通過菌に汚染されることはない。
- 消毒薬で手洗いをして滅菌手袋をはめても,滅菌手袋の下の皮膚は数十分後には元の常在菌叢に戻っていることは実験的に証明されている。ここで重要なのは,手洗い後の皮膚に出現する細菌は皮膚常在菌(=創感染を起こさない)のみであり,通過菌(=創感染を起こす)でないという事実である。通過菌は皮膚にとっては外来生物だからである。
- 手術中に手袋にピンホールができることは実験的に証明されているが,そのピンホールから術野にこぼれ落ちる細菌はすべて皮膚常在菌(=創感染を起こさない)であり,創感染を起こす通過菌ではない。従って,「術中の手袋の損傷,ピンホール」で創感染は起こらない。
- 滅菌手袋表面は無菌であり,「手洗いをしてからはめた手袋表面の細菌数」と「手洗いせずにはめた手袋表面の細菌数」に違いはなく,どちらもゼロである。つまり,イソジン手洗いをしてから手袋をはめようと,全く手洗いせずに手袋をはめようと,手袋表面の細菌数はどちらもゼロであって違いはない。
- 以上から,手術前の手洗いは不要であり,せいぜい,水道の流水か石鹸で洗うだけで十分と結論づけられる。
- イソジンなどのポピドンヨード消毒薬には界面活性剤が添加されている。界面活性剤剤は細胞膜破壊作用を持つため,荒れた手(=角質が損傷している)をイソジン手洗いすると,さらに手荒れが悪化することになる。
- 皮膚常在菌でもっとも優勢なPropionibacterium属は嫌気性菌であり,酸素に触れると増殖がストップする。この細菌を酸素から守っているのが皮脂のワックス成分である。イソジンの界面活性剤剤は皮脂を分解して洗い流すため,Propionibacterium属の生存に必要な嫌気性環境を破壊する。このため皮膚は「好気性の細菌の空白地域」になり,黄色ブドウ球菌やMRSAが定着するようになる。
- どうしてもイソジンで手洗いをしなければ気が済まない,病院の決まりとしてイソジンなどで手洗いをしなければいけないという場合は,手洗い前に白色ワセリンで手をコーティングし,その後に手洗いをするしかない。そうすれば手荒れの発生をある程度予防できるはずだ。
- 細菌は水と栄養源さえあればどんな環境で生活できる生命体だが,水がなければさすがの細菌も増殖不能である。白色ワセリンには純粋な鎖状飽和炭化水素であり水を含んでいないため,白色ワセリン表面に細菌が落下したとしても生存できないことになる。つまり,白色ワセリンで細菌が増殖することはない(ちなみに,水の存在下で鎖状飽和炭化水素を分解する細菌は存在するが,それらはすべて古細菌であり,現在まで,人体に病原性を持つ古細菌は発見されていない)。
- 従って,「手洗いをしたらすぐに白色ワセリンを手に塗り込み,滅菌タオルでゴシゴシとワックス掛けする」ことで手表面の通過菌を除去すると同時に,究極の手荒れ予防になると結論づけられる。
【病院で傷を縫ってもらいましたが,毎日消毒され,ガーゼを当てられています。これでいいのでしょうか?】
きちんと縫合されている傷なら消毒されようとガーゼを当てられようと,ほとんど問題ありません。縫合されている傷の中に消毒薬が入ることはないし,皮膚(創縁)がピッタリと寄っているので乾燥することもないからです。
消毒されたりガーゼを当てられていけないのは,擦りむき傷やヤケドのような皮膚欠損創のみです。
抜糸後の処置については,こちらを御参照下さい。
【子供がヤケドして大学病院形成外科でゲーベンクリームで治療を受けていて,植皮が必要といわれました。】
現時点では,もっとも旧式の熱傷治療をしているのは大学病院形成外科・熱傷センターです。大学病院の先生方はなぜか,前世紀の遺物としか言いようのない旧世代の熱傷治療に執着していらっしゃいます。大学病院形成外科などで旧習的治療は,それらの若手医師からの内部告発的メール,そして,その病院で治療を受けている患者さんからの相談メールに生々しく書かれています。
極端な言い方をすれば,「皮膚移植をして欲しかったら大学病院を受診,皮膚移植しないで治したかったら湿潤治療をしている開業医や小規模病院へ」となります。
これまで,大学病院形成外科で「植皮をしないと治らない,植皮をしないと機能障害が起こる,植皮をしないと敗血症で死ぬ」といわれた患者さんを数十例治療していますが,全例,1週間〜2ヶ月くらいの経過で治癒しています。機能障害も起きていなければ,皆さん,お元気です。皮膚移植が必要だった例は一例もありません。
さらに,大学病院などで「これは3度熱傷で,皮膚移植をしないと治らない」と宣言された患者さんで,本当に3度熱傷だったのは1/5以下でした。
要するに,大学病院形成外科・熱傷センターのお医者様たちは皮膚移植がしたくてしたくてたまらないため,患者(と家族)を恫喝し,嘘をついてまで何が何でも皮膚移植に同意させようとしているのかもしれません(ちなみに筆者は,某大学形成外科教授から「こういう熱傷治療をしていると,形成外科専門医の資格を取り上げる」と恫喝された経験があります)。
では,大学病院などで「皮膚移植しないと治らない」といわれ,簡単に治った症例をご笑覧下さい。 皮膚移植をされるとこういう惨状を呈します。24年たってもこれほどむごい跡を残します。
ちなみにゲーベンは激しい痛みを起こす軟膏で,浅い傷をどんどん深くする「特効薬」で,「白い色のクリーム(=ほぼ間違いなくゲーベンです)」を治療に使われていたら,さっさとその病院から逃げ出したほうがいいです。
湿潤治療での熱傷治療を希望の方は「熱傷を湿潤治療している医師」に直接連絡をとってみてください。
【爪が剥がれそうです。どうしたらいいでしょうか?】
【爪が剥がれて既に爪が無くなっている場合】
ワセリンを塗布したラップ,キズパワーパッド,プラスモイストで覆うと痛みはなくなります。その後は1日1回交換しておけば,7〜10日できれいに皮膚のような組織が覆いますので,あとは爪が生えてくるのを待つだけです。通常は2週間後くらいから,爪半月の部分に新しい爪が顔を出します。
【爪は剥がれたがまだ残っている場合】
この場合は,とりあえず爪を元の位置に戻し,爪の上にティッシュを乗せてから絆創膏で強めに圧迫(ティッシュを置かないと爪に直接絆創膏がくっついてしまい,剥がすと爪も一緒に・・・)。
痛みもなく,爪の色も正常に戻ったら大丈夫です。
爪の色がおかしかったり,痛みが出たり腫れている場合は病院へ。
【口腔内殺菌剤「パーフェクトペリオ」という商品があります。次亜塩素酸と炭酸水素ナトリウムを含んだ電解水で,「うがい10秒で虫歯菌と歯周病菌をほぼ100%殺菌できる」 とうたっています。歯科医療界の二大疾患である虫歯と歯周病はその原因が口腔内の細菌による感染症であり,起因菌をターゲットにする薬剤などが研究されていることも事実です。しかしこの商品は感染症であるならば口腔内を無菌にすればよいという安直きわまりない発想のもと開発され,最近たびたびマスコミでとりあげられたため,最先端治療のごとく誤解され爆発的なヒット商品となりつつあります。悲しいかな,この商品に飛びついている歯科医師が多数いることも事実です。この商品についてどう思いますか?】
絵に描いたようなインチキ商品だと思います。しかし,それを理解するためには恐らく,「歯周病とは何か」という根本概念,根本定義から捉え直す必要があります。
細菌はごくわずかの水とごくわずかの栄養物があれば地球上のどこでも生息できる生物です。そして,人間の皮膚も口腔も口の中にできた傷口も,細菌にとっては「生息可能な環境の一つ」でしかありません。だから,「ごく短時間だけの無菌」は可能でも,「ずっと無菌を保つ」ことは原理的に不可能です。
消毒薬のポピドンヨード(イソジン(R))の中で増殖する細菌もいれば農硫酸の中で生存可能な菌もいます。硫化水素を栄養源とする細菌もいます。PCBでもダイオキシンでも青酸カリウムでもパラチオンでも細菌は分解できます。
だから,歯周ポケットは短時間なら無菌にできますが,それ以上無菌を保つことは不可能です。歯周病は慢性感染ですから,短時間だけ無菌にすることは全く無意味です。
私は,歯周病はある種の爪周囲炎と同じではないかと考えています。爪半月部分の爪甲は爪上皮で覆われていて,ここで皮膚と爪がしっかりとついています。この爪上皮が爪根部への細菌侵入を防ぐバリアになっています。しかし,この部分に主婦手湿疹などが起こり,それが治らずに慢性化すると,正常の爪上皮が再生できずに瘢痕治癒するようになります。このため,爪半月部の爪甲と皮膚の間がくっつかず,その結果,隙間(ポケット)ができます。
こうなると,このポケットから細菌が侵入して炎症を起こすようになります。細菌のバリアである爪上皮が失われたため,この「ポケット」を居場所とする細菌が定着しそれが炎症を起こすからです。
この「隙間」と「歯周ポケット」は基本的に同じだと思うのです。
爪上皮が失われてできたポケットを,消毒しても洗い続けても抗生剤含有軟膏を塗り続けても爪周囲炎の発生は防げません。「細菌が定着できる場」ができ,ここは決して無菌状態を維持できないからです。
この感染を防ぐには,「ポケット」を埋めて,その表面を正常な爪上皮で覆ってしまうことしかありませんが,これは余程の事(=死体の指を丸ごと移植するとか)をしない限り不可能です。「爪上皮を維持するのに必要な場」が瘢痕組織で置き換えられているため,正常組織が再生できないのです。
私の考えでは,歯周病は結果にすぎません。真の原因は「歯牙と歯肉の結合部分が破壊されて瘢痕治癒した」ことにあります。その結果としてポケットが形成され,このポケットが細菌の新たな生息環境になっただけです。だから,細菌を除去しても「ポケット」はそのままですし,そこに定着する細菌は必ず登場します。だから,歯周病を治療しようとして殺菌しようと消毒しようと全く無駄なのです。
このような理由から,私はこの商品はインチキ商品だと断言します。
【熱傷受傷直後の冷却はどのくらいの時間が必要でしょうか】
従来の熱傷治療では「20〜30分の冷却」が常識とされてきましたが,これには次の二つの「冷却」が混在していたと私は考えています。だから,必要以上に長い時間,冷却していたのです。
@熱による変化を防ぐための冷却
A鎮痛のための冷却
@に関しては恐らく3〜5分程度の冷却で十分です。
Aに関しては,そもそも冷却による鎮痛は神経を麻痺させているだけです。従来は冷却しか鎮痛方法がなかったため,@が終わってもさらに長時間,冷却していました。しかし,熱傷の痛みは創面の乾燥を防ぐだけで十分に得られますし,多くの症例で劇的な鎮痛が得られます。
従って,湿潤治療の熱傷治療では,せいぜい5分程度の冷却で十分です。
【現在社会人ラグビー部の練習に顔を出しているのですが,選手は擦り傷など,小さな傷はほっといて治すといった状況です。破傷風の予防接種はチームで行うようなのですが,その他の対策としては水道水による傷の洗浄と湿潤療法で十分でしょうか? 何か他にやるべきことがあればアドバイスしていただきたいと思います。】
というわけで,「破傷風の予防接種はチームで行う」ようなので破傷風が発生する確率は極めて低く,よく洗っておけば大丈夫でしょう。ただ,筋肉が見えるくらい深い裂創の場合は,必ず病院を受診し,局所麻酔をしてもらって十分に洗浄したほうがいいでしょう。
- 破傷風は土の中にいる破傷風菌が傷の中に入って増殖して毒素(神経毒と溶血毒)を産生することで発症します。現在の日本では1年間に30〜50人が発症していますが,死亡率は40%前後と依然として高い感染症です。潜伏期は3〜21日とかなりの幅があります。
- 日本では1968年に三種混合ワクチン(ジフテリア・百日咳・破傷風混合ワクチン)の接種が始まり,15歳で最終接種が行われています。その効果は10年は続きますので25歳以下の場合には,よほどの汚染創でなければ破傷風トキソイドや免疫グロブリン(テタノブリン)の投与は不要と思われます。その根拠はメルクマニュアルの「開放創のある患者に対する破傷風免疫処置ガイドライン」です。
- 破傷風菌は全国の土壌中で見つかる普遍的な細菌で,表面から10センチくらいの深さの土に芽胞という状態で眠っています。それが傷の中に入り,水分に触れることで目を覚まし,増殖を始めます。毒素を出すのは目を覚ましてからなので,とりあえず水でよく洗い流してしまえばいくら芽胞でも洗い流されます。
- ちなみに,牧場の土には破傷風菌が多いようです。
- 以前は「破傷風菌は嫌気性菌なので,過酸化水素を発生させるオキシドールが有効」と言われていましたが,受傷直後に傷に入る破傷風菌は芽胞の状態であり,酸素があっても死ぬわけではありません。また,芽胞は極めて丈夫で,100度で煮ても死なないし,180℃でも30分以上過熱しないと死滅しません。また,消毒薬に対する抵抗性もきわめて強く,通常の消毒薬では死にません。エックス線にも強く,殺そうと思ったらガンマ線が必要です。
つまり,人間が死ぬくらいの条件では死なないということです。だから,消毒薬に頼るのでなく大量の水で洗って物理的に除去すればいいのです。
- 実は,傷がないのに破傷風になった患者が23.6%,つまり1/4の患者は傷と無関係に発症しています。また,深い傷だから発生しているわけでもなく,極めて軽微な傷(イギリスでは薔薇のトゲによる傷から発症した例があるらしい)からの発症もかなりいる。
- 最終免疫から30年以上経過し(つまり免疫はない),農作業中に怪我をしたが病院に行く暇がなく・・・という人は結構いるが,そういう人に破傷風が必ず発症しているわけでもない。しかし,農作業中なので傷は土に汚染されているはず。それなのに破傷風は発症しないという現実をどう説明したらいいのか,私もわかりません。
- 正確に調べたわけではありませんが,破傷風は全国各地であまねく発症しているわけでなく,「○○県ではここ」,「▲▲県ではあのあたり」と発症する地域はかなり限定的らしく(少なくとも,秋田県,山形県,長野県ではそうだった),一生の間で一例も破傷風患者を診たことがない外科医の方がはるかに多いと思われます。
- 以前から,「怪我をしたけれど免疫は持っていない」怪我人の数に比べ,破傷風を発症する人があまりにも少ないのはなぜか,疑問に思っています。
【アルギン酸塩被覆材を使っていて,翌日創部にアルギン酸塩が張り付いて取れないことがあります。無理に取ろうとすると出血しますが,どうしたらいいでしょうか】
こういう場合は無理に剥がさず,くっついている部分を残して余分なアルギン酸塩を切除し,その上をフィルムで覆えば,翌日簡単にはがすことができます。
また,浸出液が少ない場合はアルギン酸表面が乾燥している場合は,キシロカインゼリーを塗布してからフィルムを張ると,翌日きれいに取れます。
【湿潤療法やOpWTで改善を得られず,大学病院で従来のゲーベンガーゼに戻して傷が治ったという話を聞いたことがありますが,どうでしょうか?】
これは次のように考えると説明ができます。
- 肉芽上を遊走し増殖する表皮細胞にとって,肉芽面の浸出液が唯一の栄養源である。
- 浸出液の性状は肉芽の状態によって変化する。
- 上皮化が遅れている慢性創は肉芽が水っぽかったり過剰肉芽だったりして,上皮化がすぐに起こる肉芽と異なっている。
- つまり,前者と後者で浸出液の性状も異なっていて,前者の水っぽい肉芽は表皮細胞の分裂に最善の組成でなく,そのため,表皮細胞の分裂が遅れていると考えられる。
- ゲーベンは恐らく,この「水っぽい肉芽表面」を破壊することで,新たな肉芽面を作る。
- 新たな肉芽から分泌される浸出液が「水っぽい肉芽の浸出液」より表皮細胞分裂に有利に作用しているのではないか。
- もちろん,ゲーベンの細胞障害性はそれを阻害するが,表皮細胞の分裂速度がそれを凌駕すれば,結果的に上皮化が進む。
- 同様の現象は,過剰肉芽の外科的デブリードマンでも観察される。つまり,ゲーベン特有の現象ではない。
- この推論が正しいとすれば,ゲーベンの上皮化促進作用は「薬理作用」ではなく,「ゲーベンの物理的・化学的破壊作用」が奏功していることになり,外科的デブリードマンと本質的に同じであり,ゲーベンの薬効ではない。
- つまり,ゲーベンという薬剤でなくても,破壊作用さえあれば同様の効果が得らることになる。「イソジンで消毒したら治った。カデックス軟膏は治療効果がある」という主張の根拠はこれだろう。
【褥瘡のラップ療法(OpWT療法)を病院で始めようとしたらWOCナース(Wound Ostomy Continence Nurse)の反対で始められません。近隣病院では既に始めていて,良好な治療結果が出ていて,しかも手間が大幅にかからなくなったと説得しても,聞く耳持たずです。どうしたらいいでしょうか?】
WOCナースは死ぬまでラップ療法を認めません。WOCナースがいる限り,その病院ではラップ療法を導入できません。WOCナースは,看護協会が認定したこと以外は正しくない,それ以外のものはすべて間違っていると信じ込んでいるからです。いわば洗脳状態であり,そういう洗脳を受けた人だけがWOCナースの認定を受けるのです。
ゴミ袋でも治るのに,ではなく,穴あきポリ袋やラップだから治療を認めないのです。第一,ラップや穴あきポリ袋でも褥瘡が治ったらWOCナースが不要になってしまいますし,彼女たちの知識は不要のものとなります。1年間の研修を受けて取得したWOCナースの称号(?)が無意味なものになることは絶対に認めるはずがありません。
というわけで,あなたの病院でWOCナースが退職するまで待つしかありません。
【創傷被覆材で,粘着剤のついているもの(デュオアクティブ,テガダームなど)は創部に対して悪影響はないものでしょうか。浸出液がある場合ならば,浸出液で粘着部ははがれてしまい問題はなくなると思いますが,乾燥している創部なら粘着剤は創の上皮化に悪影響を与えるような気がするのですが,いかがでしょうか。】
創面から浸出液が出ていれば,いかに接着剤といえども創面には接着できず,創面への影響はほとんどないと思われます。
湿潤治療で「創面から浸出液が出ていない」状態は上皮化が完了した状態です。従って,皮膚表面の状態と接着剤の関係で考える必要があります。
- 〔上皮化した表面の物理的強度〕<〔接着剤の強度〕であれば上皮化した表面は損傷されます。
- 〔上皮化した表面の物理的強度〕>〔接着剤の強度〕であれば損傷されません。
- 上皮化はしたものの角化していない場合は物理的には極めて脆弱でしょうから,恐らく損傷を受けます。
- 角化が完了した場合は,通常の皮膚と接着剤の関係になり,強力な接着剤の場合には角質損傷が起こるし,数日間貼付し続けて垢と一緒に剥がれるまで待てば角質損傷はありません。
【透析の際のシャント穿刺時の無菌操作や消毒は必要でしょうか?】
透析の穿刺部位の消毒の是非の問題を医学の知識だけで解決するのは不可能です。しかし,基礎的生物学の知識があれば簡単に判断できます。
皮膚の上の細菌は常在菌と通過菌(外来菌)の二つに分けられます。
前者は「皮膚の上でしか生息できず,皮脂とその分解産物のみを栄養源とし,弱酸性でのみ増殖する」細菌であり,後者は「皮脂とその分解産物があると増殖が抑制される」細菌です。
また,前者は基本的に宿主である人間に対して病原性は持ちません。人間に対して病原性を発揮するのは後者の通過菌のうちのごく一部です。
皮膚常在菌は皮下組織,血管内,腹腔内・・・などでは増殖できません。これらの環境には皮脂がなく(皮脂があるのは皮脂腺のある皮膚表面のみ),弱酸性でなく中性環境だからです。
細菌は基本的に,とりあえず必要ない遺伝子は直ちに捨て去ってゲノムサイズを小さくすることを生き残り戦略として選んだ生物です。このため,新しい環境に置かれてもそれに適応できません。
これは,不必要な遺伝子までため込んでいるために新たな環境に適応できる真核生物との最大の違いです。
しかし,皮膚上の通過菌には皮下組織や血管内で生存増殖できる細菌がいます。だから,血管穿刺前に除去すべきは常在菌ではなく通過菌だということになります。常在菌は血管内に入っても生存できないため,血管内に入っても自然にいなくなるからです。
皮膚常在菌でもっとも優勢な細菌であるPropionibacterium属は嫌気性菌で酸素があると増殖をストップします。そのため,皮膚の上では皮脂のワックス膜の下を生存の場としています。その他の嫌気性常在菌も同じです。
一方,皮膚上の通過菌はこのワックス膜の上に付着しています。皮膚常在菌と違い,本来皮膚にいる細菌ではないからです。
このため,皮膚上の通過菌を除去するには,よく洗えばいいということになります。通過菌は皮膚表面に単に付着しているだけだからです。物理的に洗浄すれば通過菌は除去できるし,除去の手段は物理的洗浄ですから,滅菌水で洗う必要もありません。
【下腿全面の皮弁状の挫滅創の治療方針について】
脛骨部の挫滅を伴う皮弁状剥離の治療は難しく,これなら絶対に大丈夫,という方法はないと思います。
私の基本方針は次の通りです。
- 初診時には,明らかに血流のない皮膚でなければ皮弁状皮膚の切除は行わない。
- 皮弁を元の位置に戻し,皮弁下にペンローズドレーン(あるいはナイロン糸ドレナージ)などを挿入し,創縁をテーピングするか縫合固定する。
- 血腫を作らないように皮弁を圧迫する。しかし強すぎると圧迫で壊死するので注意が必要。
- 皮弁が薄く,創縁でない部分が黒くなってきた場合には,その下に血腫形成している可能性が高いので,黒色部分の中央を切開して血腫を外に出し,圧迫を続ける。
- 皮弁が厚く,創縁でない部分が黒くなってきた場合は血流不全による組織壊死なので,黒色壊死になるのを待ってから切除する。
- 創縁が黒色になっている場合は壊死なので,抜糸のころに一緒に切除する。
- 組織壊死の部分はプラスモイストで湿潤治療で上皮化させる。
【数年前に大やけどをしました。やけどの痕は湿潤治療で治るでしょうか?】
残念ですが,湿潤治療でも治りません。湿潤治療とは「痕を残さないようにやけどを治療する」手段ですが,「既にできたやけどの痕を治す治療」ではありません。だから,今から湿潤治療を受けても無駄です。
「消毒して軟膏ガーゼ,駄目なら皮膚移植」という昔ながらの熱傷治療の傷跡(瘢痕)は決して元の状態に戻せません。もちろん,皮膚移植でも元に戻りませんし,きれいにもなりません。形成外科で行う瘢痕拘縮形成術は運動障害(瘢痕拘縮)を改善する手術ですが,見た目の問題はほとんど解決できません。
人間の皮膚の構造,瘢痕の構造から考えると,もとの皮膚に戻すこともできなければ,いったん瘢痕治癒した皮膚をよりきれいにすることも不可能なのです。人間が手を羽ばたいても飛べないのと同じです。
形成外科医・熱傷専門医の「手術できれいになる」という言葉に騙されないで下さい。医者の言う「きれい」と患者が想像している「きれい」は全く違います。「きれいになるはず」と思って手術を受けると失望します。手術で治せるのは機能障害です。
また,巷にあまたいる「やけどの傷跡をきれいに治す名医」はインチキです。彼らは「自然に目立たなくなる」のを「私の治療できれいになった」とすり替えているだけです。
熱傷瘢痕というのは,外見の問題に関しては治療法のない難病のようなものです。しかしそれは,「治療法はないけれど,命にかかわることがない」難病です。また,熱傷瘢痕の見た目の醜形は,何もしなくても数年後にはかなり目立たなくなります。焦らないことです。焦るとインチキ治療の餌食になります。
【縫合糸膿瘍のような創感染を起こしてる創部を見たら,まず感染の源である縫合糸を抜糸し創部を大量の水で洗浄しますがそのあと,その皮膚はまだ発赤,腫脹があり感染症状が残ってる状態でまず,何をどうしたらいいのでしょうか?】
炎症の症状には,有名な四徴候(腫脹,疼痛,発赤,局所熱感)のほかにも血沈,CRP,白血球増多などがあります。しかし,これらは同等な徴候,指標ではありません。
もっとも鋭敏な指標は疼痛です。最初期から痛みがあり,感染源を除去すると速やかに消退します。つまり,最も信頼できる所見・症状は疼痛の有無です。私は疼痛がなくなれば感染創の治療が奏功したと考えます。疼痛が残っていれば,まだどこかに感染源が残っている可能性があると考えます。
発赤は通常,痛みが出てから出現し,痛みが治まってもまだ発赤は続きます。場合によっては,痛みがなくなってから発赤が完全消退するまで数週間かかることがあります。つまり,発赤は炎症の始まりの所見としても,炎症消滞の所見としてもタイムラグがあり鋭敏さに欠けます。このため,「疼痛がない(=感染がおさまった)のに発赤が残っている」という現象が起きますが,こういう場合の発赤は気にする必要はありません。
腫脹と局所熱感は炎症の指標としてはあまり使えません。熱感は客観的データにしにくいし,腫脹は「炎症が起こる前の患部」の様子と比較する必要があり,実際上評価が不可能だからです。
CRPは急性炎症の指標としてはあまり使えません。炎症による痛みが消失してからなお数日間,高値を示しているからです。白血球増多も同様です。
要するに,発赤やCRP,白血球増多は診断の指標ではあるが,治療のターゲットではない,ということです。発赤や白血球増多を治療するのはナンセンスです。治療のターゲットは感染症です。
というわけで,私は「疼痛」以外の指標は見ていません。疼痛がもっとも鋭敏だからです。
感染による炎症の治療には,現在,ベクトルがどちらの方向を向いているかを患者から読み取ることが重要です。ベクトルが悪化の方向に向かっているのか,改善の方向に向いているかの判断です。その判断は「昨日の状態」との比較をすれば簡単にわかります。
しかし,多くの患者さんは「昨日の状態との比較ができない一見のお客さん」です。この場合は,疼痛の有無から「炎症のベクトル」の方向を読み取ります。
【症例は80代の女性で慢性関節リウマチで寝たきり,介護5です。皮膚が非常に脆弱でちょっとしたことから傷を作ります。数ヶ月前に左下腿にできた裂創が潰瘍になり,プラスモイスト貼付でよくなるのですが,潰瘍再発を繰り返しています。どう治療したらいいのでしょうか。】
高齢寝たきりの患者さんの場合,潰瘍を無理に治すこともないと思います。寝たきり患者さんの褥創にしろ難治性潰瘍にしろ,原因は「老衰⇒寝たきり」にあり,潰瘍(褥創)は「老衰の一部分症状」に過ぎません。
老衰になるとさまざまな症状が発生します。意識は混濁し,耳も聞こえなくなり,目は白濁し,そして褥創ができます。これは死への過程です。
寝たきり患者には効率で白内障が見つかりますが,だからといって寝たきり患者に眼内レンズ挿入術はしないと思います(・・・やったら病院はぼろ儲けでしょうが・・・)。寝たきり患者さんの褥創・潰瘍を治療をするのはこの「白内障だから眼内レンズ挿入」というのと同じです。医療の問題ではなく倫理の問題です。
老衰は不可逆性進行性変性疾患の極致です。年齢を若返らせることは現代医学では不可能だからです。である以上,老衰に伴う症状は難治性になるし,治療不能です。治療できたかに見えてもまた再発します。老衰という根本原因が治療できなければ,その部分症状もまた治療できないのです。
回復可能な状態に対しては治療(キュア)が必要ですが,回復不能な状に対してはキュアでなくケアで対処すべきなのです。
私ならどうするか。潰瘍と共存する道を選びます。潰瘍を治したところで,寝たきり患者さんが受けるメリットはないからです。治療法は褥創のOpWT(鳥谷部先生の「穴あきポリ袋と紙おむつ」法)にします。プラスモイストより廉価で治療できるからです。
無理に治療せず,悪化しなかったらよしとする,という風に発想を切り替えることが必要ではないかと思います。
今後日本はさらに高齢化が進み,このような症例はさらに増えると思います。そういう褥同・潰瘍全てを「医療材料と薬剤で治療」したら,日本の医療費はパンクします。褥創は治り,国が滅びます。だから,OpWTで「ケア」するという方向に日本の医療全体を方向転換する必要があると考えます。
根本解決になっていないと批判されるかもしれませんが,私は,全ての病的状態は治療しなければいけないとも考えていないし,根本原因が除去できない病的状態に対してはそれと共存すればいいだけ,と割り切っています。
【助産院で働く助産師です。会陰切開の縫合について疑問を持ちました。病院では会陰切開をして縫合しますが,助産院では医療行為ができないので会陰切開も縫合もできません。でも問題なく治っているような気がします。会陰切開とその後の縫合は必要なのでしょうか?】
とりあえず,次を読んでみてください。
たとえ話をすると,「テレビを見る前に拍手(かしわで)を打つ家があり,その家族は必ず拍手を打ってからテレビをつけ,拍手を打たないとテレビを見られないと信じ込んでいます。しかし,隣の家では拍手を打っていないし,打たなくてもテレビはつきます」「拍手を打ってからテレビの電源を入れるとテレビがつく」のは事実ですが,だからといって「テレビをつけるには拍手が必要である」とはなりません。
同様に,切開して縫合しても治るけれど,切開も縫合もしないのにそれなりに問題なく治っている,というのであれば,切開して縫合するという行為は上述の「テレビと拍手」の「拍手」と同じだということになり,無駄だと結論付けられます。
ちなみに,会陰部の裂創については,整理用ナプキンの患部に当たる部分に接着剤つきフィルム(テガダームやオプサイトなど)を張り,その表面にワセリンを塗ってナプキンを当てると痛みがなくなり,傷もすぐに治るようです。
【薬剤師です。亜鉛華軟膏が有害とありショックを受けています。その他の軟膏類についてはどうなんでしょうか?】
私は,軟膏類・パウダー薬が有害なものかどうかは基剤の種類により判断しています。薬効成分(=主剤)は考慮していません。
- 基剤がクリームの場合はクリーム自体に組織障害性あり ⇒傷には使ってはいけない
- 基剤が吸湿性のもの(亜鉛華軟膏,アクトシン軟膏,イソジンシュガーゲルなど)なら創面を乾燥させ治癒を妨害する ⇒傷には使ってはいけない
- 基剤が油脂性なら基剤による組織障害性はない ⇒傷に使っても問題ない
「主剤は治療効果があるが,基剤が創傷治癒を阻害する」という組み合わせの軟膏類は,「食材に毒物が含まれていなくても,鍋や水に有害物質が含まれていた」というのと同じです。つまり,食材は安全なはずなのに,できた料理には有毒物質が含まれます。今までの皮膚科の軟膏学は主剤のみを問題にして基剤の問題を軽視(無視?)してきたように思います。
【娘がヤケドの治療で○○大学病院形成外科に通院治療中ですが,外来担当医が毎日変わり,治療について尋ねても皆少しずつ説明が異なり,誰を信じていいか不安です。どうしたらいいのでしょうか。】
そもそも大学病院の外来は,怪我やヤケドの患者さんを治療をするのが本来の仕事ではありません。大学病院の外来とは,入院して手術をした患者さんの経過を見るためのものです。
恐らく曜日ごとに医者が決まっていると思いますが,それは手術が終わってそろそろ退院という患者さんに,「私の外来は毎週水曜日なので,水曜日に受診してください」と説明し,確実に来てもらうためです。曜日が決まっていれば患者さんも予定が立てやすいでしょう。こうして,自分が手術した患者さんの経過が追えることになります。
しかしこういうシステムは,外来で毎日通院治療する場合には向いていません。すべての医者が怪我やヤケドの治療に興味があるわけでないし,一人一人で微妙に治療方針が異なっている場合があるからです。また,毎日日替わりの医者が治療をするため,医者側の責任の所在がはっきりしません。だから,何かトラブルが起きた場合,とりあえず応急処置をして翌日の医者に回すことを考えますし,もちろん,翌日診た医者も同じことを考えます。要するに,その診療科の中での患者のたらい回し状態になります。
もちろん,中には責任を持ってみたいという医者もいますが,曜日ごとに外来に出る日が決まっているため,その医者に診てもらうのは週に一日しかありません。
さらに以前にも説明したように,現時点で熱傷の湿潤治療に関する限り,各地の開業医が先頭を走っていて,大学病院や熱傷センターはこの治療を全く行っていないのが現状です。つまり,大学病院や熱傷センターでは古臭い昔ながらの熱傷治療を旧態依然とした方法で行っているわけですから,古臭い治療を希望される方以外は私はお勧めしません。ヤケドの治療を受けるなら湿潤治療を行っている病院(診療所)ですし,小規模病院や診療所でなら,毎日同じ医者が治療をしてくれます。
だからhttp://www.wound-treatment.jp/drs.htmに名前の載っている医者で通院できそうな場所にある医者に片っ端から電話をかけ,熱傷治療をしていることを確認してその病院で治療を受けるのがもっとも安全です。たとえ内科の診療所であっても,大学病院よりはまともな治療をしてくれるはずです。また,形成外科や皮膚科といった診療科にこだわる必要はありません。
【勤務している病院ではいまだにCVカテーテル刺入部にイソジンゲルを塗っています。医師に言っても,文献がなければ変えるつもりはないとのことでした。しかし,文献が見つからないです。もしよろしければ,教えていただけないでしょうか?】
文献があれば変える,文献がなければ変えるつもりはない,というのは要するに,自分の頭で考えていないと表明しているのと同じです。自分の頭で考えていないというのはつまり,脳味噌が空っぽな医者だと自分でいっているようなものです。
このタイプの医者は恐らく,死ぬまでイソジンゲルを塗りたくるタイプです。死んだら棺桶にイソジンゲルを詰め込んであげましょう。イソジンゲルに包まれて心安らかに往生することでしょう。
例えば,ポピドンヨードが生体に及ぼす作用はいくらでも文献があります。皮膚の常在菌は皮下組織では増殖できない生物だというのは生物学の常識です。だから,CVカテ刺入部の消毒は不要です。しかし,この医師はこういう証明は理解せず,「文献をもってこい」の一点張りでしょう。そういう脳味噌の構造だからしょうがないのです。
今後5年で,消毒薬に関する大きなパラダイムシフトが起こるはずです。現在,医者になって4年目以下の人間で,湿潤治療のことを知らない医者はむしろ少数派です。彼らは消毒薬を使わなくても感染予防できることを知っています。どうすれば傷が治るかを知っています。そしてあと5年でこういう人たちが医療現場の先頭にたちます。その時,「イソジン医者」は時代遅れの医者になります。しかしそれでも,彼らは死ぬまでイソジンを止めないでしょう。
これは,天動説から地動説へのパラダイムシフトが起こっても,天動説の専門家は死ぬまで天動説を説いて回ったのと同じです。
現時点では,何が何でも消毒を止めたくない・止められない医者がまだ多数派です。生まれてからずっと消毒をしてきたので,消毒をしないと不安になるし,消毒しない医療というのが信じられないのです。キリスト教信者にとっての聖書,イスラム教徒にとってのコーランに当たるのが,こういう医者にとってのイソジンゲルです。
これは要するに,ネアンデルタール人とクロマニオン人の関係に似ています。ネアンデルタール人とクロマニオン人は遺伝子的に断絶していていて,全く異なった種族でした。それと同じで,消毒医者と非消毒医者では常識というか知識が断絶しています。ネアンデルタール人は頑張ってもクロマニオン人にはなれないのです。
だから,こういうネアンデルタール医者からイソジンゲルを取り上げたりせずに,滅びるのを静かに見守ってあげるのが新人類の態度かと思われます。
【白血病の患者では怪我をして消毒しなかったら感染し,命取りになります。それでも消毒するなと主張されるのでしょうか?】
消毒して細菌が殺せるのは金属のような無機物に付着している細菌だけです。生体(皮膚や傷口)に付着した細菌は大量のタンパク質(傷口の場合には滲出液)に囲まれていて消毒薬から守られています。
消毒薬はタンパク質と見ると結合して立体構造を変える物質です。だから,細菌のタンパク質だろうが傷口のタンパク質だろうが,区別なく変性します。タンパク質の変性で一番わかりやすいのは「生卵をゆでるとゆで卵になる」という現象です。ゆで卵を暖めても雛が生まれないのは,白身と黄身というタンパク質が不可逆性変化を生じたからです。
傷口を消毒すると,ゆで卵と同じ変性が傷口に生じます。ゆで卵との違いは原因が熱によるものか,消毒薬によるものかだけです。
構造的に見ても,細菌はプロテオグリカンを成分とする強固な細胞壁で身を守っています。この細胞壁は親水性の物質は通さないようになっています。だから水溶液である消毒液は細胞壁を通過できず,細菌を殺せません。
一方,人間の細胞は脂質二重膜の細胞膜で包まれているだけですから,消毒薬のタンパク質変成作用が直接及びます。では,消毒で死ぬのは細菌ですか,それとも人間の細胞ですか?
以上のことは白血病の患者でも同じです。なぜかというと,白血病だからといって消毒薬で壊れない特殊な細胞が傷口に集まっているわけでないし,白血病だからといって消毒薬に弱い特殊な細菌が傷口にいるわけでないからです。
では,白血病の子供の傷口をしっかり消毒するとどういう現象が起きるでしょうか。もちろん,傷口はゆで卵状態になり,猛烈な痛みが出現し,傷の感染を防ぐ免疫細胞も死滅します。つまり,傷を化膿させるために消毒薬は最も効果的です。それでもよければ消毒してください。そして,子供を苦しめてあげてください。
ちなみに,消毒薬がどれほど痛いかは自分の体で経験できます。自分の体に傷をつけてそれに消毒すればいいのです。是非,試してみてください。自分の体に傷をつけるのは簡単です。ガムテープがあればできます。子供を消毒で痛めつけるのは,まずこの実験をしてみたからで遅くないと思います。 患者の苦痛を無視して苦痛を与え続けるのは医者でなくサディストの仕事です。あなたは医者ですか,それともサディストですか?
【私の住んでいる地域では,「ひどい火傷がつるりと治った」と,人々が口をそろえる伝説的な軟膏があります。トフメルAです。実際,どうなのでしょうか?】
まず,何と比較してよく治ったのか,何と比較して早く治ったのか,という問題があります。比較対象がない評価は意味がありません。100万円は国家財政からすれば誤差範囲ですが,一人の人間にとっては大金,みたいなもので,評価は条件によって全く異なります。
その地域で自転車しかなければ,自転車は最も速い乗り物ですし最も便利な乗り物です。しかし,車社会では,自転車は手軽な乗り物ですが最も速い乗り物ではありません。つまり,自転車の速度や有用性を論じるのであれば,三輪車と比べたのか,乗用車と比べたのか,飛行機と比べたのか,大八車と比べたのかをまず提示しなければいけません。
例えば,その地域にイソジンゲルで熱傷治療する医者しかいなければ,トフメルAは熱傷の特効薬になりますが,ワセリン・ラップで治療する医者がいたら,トフメルAはあまり効かない軟膏になります。 ちなみに,「熱傷によく効く」伝説的,伝承的軟膏は全国各地にあります。その地域でなら「特効薬」ですが,他の地域でも特効薬かどうかは不明です。
また,トフメルAの薬効成分を見ると,薬理学的にかなりヤバそうな成分が含まれています。
- 酸化亜鉛は蛋白の変性剤です。細胞膜をバシバシ破壊します。
- クロルヘキシジンも蛋白の変性剤で傷口に使用してアナフィラキシーショックから呼吸停止をきたすことがよく知られています。これはアナフィラキシーなのでクロルヘキシジンの濃度,量に拠らず発生します。トフメルAもその例外ではありません。
- ラノリンは羊毛からウールを作るときに出る副産物で,高級アルコールと高級脂肪酸の化合物であり,白色ワセリン同様,軟膏や化粧品の油脂性基剤として使われますが,実際に使ってみると特有の獣臭さがあり,私は好きではありません。その点,ワセリンは無味無臭です。
【某大学耳鼻咽喉科に所属する医師です。上咽頭や中下咽頭の腫瘍に対して,放射線治療を行うことが多いのですが,放射線による粘膜障害が出て,非常に強い咽頭痛が出てしまいます。リドカイン入りの含嗽薬,鎮痛剤,症状がひどいと麻薬も使用します。放射線によるやけどと一緒と思われますが口の中では軟膏をと考えても思いつきません。種々の教科書を参考にいろいろ試しましたがうまくいきません。皮膚のやけどはラップで痛みはなくなりますがどうしても口腔粘膜障害はうまくいきません。何か対処法はあるでしょうか。】
何が上咽頭などで起きているかというと,次のような変化が考えられます。瘢痕化は不可逆性変化であり,肝炎が肝硬変になるのと同じで,そこから正常粘膜組織が再生することはありません。
- 上咽頭などへの放射線照射
- 粘膜が放射線で損傷される
- 損傷がある域値を超えると変化は不可逆となる。
- 粘膜組織は瘢痕組織に置き換えられる。
- 粘液腺がないため乾燥する。
- 乾燥のために疼痛が出現。
咽頭というのは基本的に乾燥しません。粘液で覆われているからです。いわば理想的な湿潤環境といえます,だから,この部分に付いた傷が治らない(=粘膜が再生しない)ということは考えられません。痛みがひどい(=粘膜が覆っていない)としたら,治る能力を完全に失ってしまったからです。 ということは,打てる手はほとんどないということになります。肝硬変になったら肝移植しかないのと同じで,咽頭が瘢痕化してしまったら粘膜全層移植しかないと思います。
要するに,粘膜病変が不可逆的になる前に照射を止めるしか方法はありません。
粘膜は常在菌が生存し,病原菌の侵入を防いでいる生態系です。生態系はある程度の破壊に対しては再生しますが,再生能を完全に失うほど徹底的に破壊してしまえば,もう再生はできません。森で山火事が起きた程度なら数年後に森は再生しますが,ブルドーザーで徹底的に破壊し,枯葉剤を撒いてしまったらもう森は再生できず,荒野になります。
【口腔ケアについては方法が確立していますので,次のケアの対象として鼻腔ケアを看護研究にしようと思っているのですが,鼻腔ケアについていろいろ調べているのですが文献がなく困っています。よきアドバイスをお願いします。】
看護師さんはケアがお好きです。何でもかんでもケアの対象にしたがります。
鼻腔ケアの問題は,「もしも鼻腔ケア法が完成したら次は何をケアするか」と仮定法で考えてみたらわかります。
鼻腔ケアの次は上咽頭ケア,上咽頭ケアの次は中咽頭ケア,中咽頭ケアの次は下咽頭ケア,下咽頭ケアの次は食道ケアか気管支ケア,食堂ケアの次は胃ケア・十二指腸ケア・・・となりませんか? 上咽頭をケアできるでしょうか,食道をケアできるでしょうか,気管支をケアできるでしょうか? できませんよね。だから誰も食道をケアしようとは考えません。
では,上咽頭をケアできないとしたら,鼻腔のケアは必要でしょうか。上咽頭のケアは不可能としても鼻腔の入り口あたりのケアはできそうです。では,鼻腔で「ケアできる部分」と「ケアできない部分」の線引きはどこでしたらいいでしょうか?
つまり,看護師さんたちの「ケア」は要するに,「ケアできるところはケアするが,ケアできない部分はケアしない」ということになり,これは「腸吻合部は消毒しないが,皮膚縫合部は消毒する」のと同じです。腸管吻合部は消毒できないから消毒していない,皮膚は消毒できるから消毒しているだけで,両者を分ける論理的な理由はありません。
だから,鼻腔ケアは必要ありません。
ケアが必要,ケアをしてあげたいと考えるのでなく,そもそもケアが必要なのか,と考えることもたまにはしてみてください。。
【水ぼうそう(水痘)の治療】
水ぼうそう(水痘)の水疱の処置であるが,水疱の状態によって異なる。
- 水疱部分がジュクジュクしている場合
- 水疱部分をよくシャワーで洗い,プラスモイスト(ネット購入できる)を貼付し,一日一回,プラスモイストを交換すると数日で治癒する。
- あるいは,市販のキズパワーパッドを貼付してもよい。もちろん,一日一回は張り替えた方がよい。
- 亜鉛華軟膏(白い軟膏)は傷を乾燥させるため,絶対に使ってはいけない。治癒を妨害し,瘢痕化させるだけだ。同様にソフラチュールガーゼも創面を乾燥させるため,使ってはいけない。
- 創面が既に乾燥している場合
- この場合は既に瘢痕治癒しているため,特に有効は治療法はない。せいぜい,患部を直射日光に当てないようにするくらいだろう。
- 数年以上を経過しても痕が目立ち,患者本人がそれを気にしている場合は形成外科で瘢痕切除術。
- ちなみに私は患者本人の意思が確かめられてから手術するようにしている。患者の親が「手術して欲しい」といっても,患者本人の意思が確認できない場合は手術すべきでないと考えている。
- 理論上は,くぼんだ傷跡(瘢痕)を局所麻酔下に切除し,その後アルギン酸塩やハイドロコロイドで湿潤治療をすると,より目立たない瘢痕になりそうな気はするが,残念ながら治療経験はない。
水ぼうそう(水痘)の水疱は要するに「表皮内水疱」である。だから水疱が潰れるとその部分は「表皮表層欠損創」になっているはずだ。つまり,皮膚欠損創であり,皮膚欠損であれば湿潤治療の出番だろう・・・という発想である。
【カラヤヘッシブとデュオアクティブ,何が違うのですか?】
カラヤヘッシブですが,成分はデュオアクティブと同じで同じ治療効果を持ちますが,両者は治療材料としての区分が違っています。
- カラヤヘッシブ
- 使用した分を保険請求できない(⇒使用した分は病院の持ち出しになる)
- 値段は低く設定されている
- デュオアクティブ
- 使用した分を保険請求できる(⇒持ち出しにならない)
- 値段は高く設定されている
【人前で話す機会がたまにあるのですが,なかなか上手く話せなかったり,なかなか満足できる結果になりません。講演のコツなどがあったら教えてください。】
私は次のような点に気をつけて講演を組み立てています。これら以外にも,眠くなるような講演,つまらない学会発表にぶつかったら,なぜ眠くなるのか,何がつまらなく感じさせるかを自分なりに分析し,それを反面教師にして,そういう講演・発表の真似をしないように心がけることも重要です。
- 講演の冒頭に衝撃的な症例をまず提示して,全聴衆の興味をひきつける。
- 今日の話を聞くと聴衆にとってどういうメリットがあるかを最初に示す。
- その後すぐに理論的な説明をする。
- しかし,理論的な説明はせいぜい5分以内にとどめる。
- 理論的な話,具体的な話を交互に配置し,単調になることを避ける。
- わかりやすい喩えを多用する。
- 5分に一回は笑いを取りに行く。
- 「書き言葉」と「話し言葉」を明確に区別し,なるべく「話し言葉」を使う。同音異義語のある言葉を避ける(例:「右中指」は「みぎちゅうし」でなく,「みぎなかゆび」と発音する)。
- 歯切れよく話す。明確に話す。
- スライドは「7行以下,1行は15〜17字以下」。それ以上行数,字数が増えたら2枚に分ける。
- アニメーションを入れてわかりやすくする。
- スライドは色を使い過ぎない。ブルーバックの場合,明るい黄色がもっとも目立つ。
- ブルーバックで赤い色は見えにくいので使わない。
- グラフを無意味に三次元化しない。読みにくいだけ。
【アテロームの手術はどうしていますか?】
皮膜を有するアテロームの手術ですが,まだ感染していない場合には皮膜表面を丁寧にはがしていけば,ほぼ出血させずに摘出できます。皮膜とその周囲の組織に血管性の結合はほとんどないからです。
感染がなくても皮膜を破いてしまった場合,あるいは既に感染して発赤・疼痛がある場合には,皮膜が皮膚にくっついている部分(臍状に陥凹している)を皮膚割線の方向に切開し(切開の長さは,皮膚がペラペラに薄くなっている部分だけで十分),アテローム内容物を搾り出します。
あとは皮膜を鑷子で摘んで皮膜を丁寧にはがすだけです。出血してまで摘出するのは不要です。
深部の皮膜でうまくとれない場合は敢えて取らずに残しておき,アルギン酸塩を中につめ,接着剤付きフィルムで半分くらい覆い,その上を紙オムツで覆います。全て覆わないようにして紙オムツで吸収するようにしておくと感染が起きません。
翌日,アルギン酸塩を除去して膿瘍腔を観察すると,残った白い皮膜が見えますので,これを鑷子で摘むと簡単に取れます。一日たって皮膜が浮いてくるという感じです。あとはプラスモイストを貼付するだけです。
【主治医の形成外科医から「この傷は植皮をしないと治らない。植皮をするときれいになる」と説明されて手術を受けましたが,移植した皮膚はきれいとは思えないし,縮んできた感じです。植皮術とはこんなものなのでしょうか?】
皮膚移植を受けるとどういう惨状を呈するか,まずこの実例をご覧下さい。
皮膚移植は形成外科医(私も形成外科医ですが)がとても好む手術法です。手技的に簡単で,失敗することが稀で,傷を手っ取り早く閉じることができるからです。だから形成外科医は,何か傷があると植皮をしようと考えるし,植皮できる傷はないかと考えます。
しかし,皮膚移植術には形成外科医が軽視しているさまざまな問題があります。要するに,「移植手術をするときれいになりますよ」と形成外科医がいうようにきれいにならないし,追加手術は必要になるし,余計な傷もつく,ということになります。つまり,手術をした形成外科医にとっては「きれいに皮膚が生着したから手術は成功,移植した皮膚もきれい」と判断しますが,それは手術をした医者にとって「きれい」ということであり,移植された皮膚を見て「これはきれいだ」と思う患者さんはいるんでしょうか。私は疑問に思います。少なくとも,「医者のきれい」と「患者にとってきれい」の間にはものすごいギャップがあります。
- 皮膚は部位により色調,毛の密度と太さ,皮膚の肌理(きめ)が異なっており,移植皮膚は所詮パッチワークに過ぎない。だからとても目立つし,周囲の皮膚になじむこともない。
- 移植皮膚の縫合創縁は必ず縮んでくる(これを瘢痕拘縮という)。だから瘢痕拘縮形成術が後で必要になる。
- 皮膚を採取した部位にも傷が残る。
例えば,自分の前腕の内側(屈側)と外側(伸側)を見てみましょう。屈側の皮膚は白くて毛がほとんどなく,肌理も細やかです。一方,伸側の皮膚は色が濃くて毛が生えていて,肌理も粗く見えます。だから,同じ腕の屈側の皮膚を伸側に移植すると,そこだけ色が白くて毛が生えず肌理も違うということになります。
まして,腹部の皮膚と前腕の皮膚となるともっと違います。だから,腹部の皮膚を腕に移植すると,そこだけ黒ずんできたり,ごわごわの毛が生えてきたりします。これがパッチワークと私が呼ぶ所以です。
植皮された皮膚がどうなるのか,皮膚を取った部分がどうなるのか,主治医にスライドを写真を見せてもらい,その上で「植皮はきれい」という言葉が本当かを自分の目で確かめ,その上で植皮術を受けるかどうかを判断すべきです。
また,形成外科医は恐らく「瘢痕拘縮形成術をすれば傷は目立たなくなりますよ」と説明してくるはずです。もちろん,この手術をすれば「傷が突っ張って動きが悪い」という症状は改善しますが,移植皮膚は所詮移植皮膚に過ぎず,パッチワークはパッチワークのままです。だから,手術で移植皮膚が目立たなくなるわけではありません。
【古くから消毒は,イソジン,ヒビテンが酒精綿より上のように教えられ,手術前の消毒や関節穿刺前の消毒に酒精綿を使用したことはありません。消毒薬の殺菌性として酒精綿のほうが劣るのですか?】
関節穿刺だろうがCVカテーテル刺入時の消毒だろうが,「どの消毒薬がいいのか」と考えると訳がわからなくなります。ここは,皮膚にはどういう細菌がいて,それはどういう生物なのかという側から考えると答えが出てきます。
皮膚に存在する細菌は皮膚常在菌と通過菌です。
常在菌は基本的に皮脂とその分解産物を唯一の栄養源として生きている細菌で,弱酸性の皮膚を唯一の生育環境としている嫌気性菌です。それに対して,通過菌は基本的に皮脂やその分解産物があると増殖が抑制され,弱酸性環境を苦手としています(『人体常在菌 ―共生と病原菌排除能』)。
一方,関節液はpHが中性で,皮脂もなければ皮脂分解産物もありません。つまり,常在菌が入り込んでも生きていけませんので,感染起炎菌にはなりません。感染起炎菌となるとしたら,それは通過菌だということになります。
とすれば,関節穿刺前の処置のターゲットは常在菌でなく通過菌,除去すべきは通過菌です。 常在菌は嫌気性菌ですから,空気に接しないように皮脂のワックス成分に守られている部分に存在し,通過菌はその上に付着していると考えられます(このあたりは私の推論なので正しくないかもしれませんが・・・)。とすれば,「洗えば通過菌は除去できる」ということになりそうです。
従って,よく洗うか,刺入前に皮膚をよくこすることが感染予防に重要という結論になり,消毒薬の種類でなく,物理的洗浄で通過菌を洗い落とすことが重要と思われます。つまり,酒精綿でも十分にこすれば感染起炎菌である通過菌は除去できるはずです。
【人体実験シリーズ,あまりにも痛々しいです。損傷は真皮乳頭層レベルまでのSDBくらいのダメージか,という気がしておりますが,多少の色素沈着きたす恐れもないともいえませんで,もっと遮光もしやすい下腿のふくらはぎなどで実験された方がよろしいそうな気もしてるんですが・・・。】
なぜ,人体実験を腹部や下肢などの非露出部で行わないか,なぜ,露出部である前腕で実験をしているかには次のような理由があります。やむにやまれぬ事情から,主に前腕で実験をしています。
- 私は一人で実験して画像データを撮影しています。このため,下腿外側や上腕伸側を実験部位にするとデジカメで実験部位を撮影できません(実験部位にピントを合わせようがないから)。このため,実験部位は自分で持ったデジカメでマクロ撮影ができる部位に限られます。
- 外来診療の合間を縫って撮影したり軟膏の追加塗布をしているため,衣服の着脱が必要な体幹や大腿部は実験部位にできません。
- 実体顕微鏡のDino-Liteを片手で持って実験部位を撮影するために固定し,もう片方の手でマウスを操作しながらクリックする,という操作をして初めて顕微鏡写真が撮影できます。このため,右利きの私の場合,右前腕遠位屈側では実験ができません。
- 下腿は日常生活で常に垂直に下垂しています。このため,下腿に塗布した軟膏は重力で落ちることになり,実験創面と軟膏の接触を常に維持するためにはかなりの工夫が必要になります。その点,前腕は日常業務では机の上に水平に置かれることが多く,軟膏が落下せず,管理が非常に楽です。
- 体幹や大腿などの非露出部は日常生活では衣服で覆われているため,ここを実験部位にすると塗布した軟膏が衣服に付着してしまうし,何より,創面が衣服に触れると非常に痛いです。前腕を実験部位にすると,こういうトラブルがありません。
【ピロリ菌除菌を勧められていますが,これは必要なんでしょうか?】
ピロリ菌についてですが,ご存知のようにScientific American誌で「除菌により逆流性食道炎が増え,食道癌が増えるのでは」という論文が載ったのが2004年でした。
これを受けて,私見をまとめます。ただし,私はピロリ菌の研究者でもなければ,消化器の専門家でもないため,的外れな考察になっているかも知れませんので,そこらは差し引いてお読み下さい。
ピロリはウレアーゼを分泌することで自分の周囲の胃酸を中和して生存できる環境を作っています。だから,胃酸が強酸に傾けば懸命にウレアーゼを作るし,中性に近づけばウレアーゼ産生を中止します。ピロリにとっては胃酸の酸性度のちょっとした変化が死活問題ですし,かといって,ウレアーゼを作りすぎれば過剰にエネルギーを消費してしまって分裂能が低下するからです。
従って,胃酸の酸性度に応じてウレアーゼの産生を調整しているわけで,この調整がうまくできない(例:胃酸が中性に近づいてもウレアーゼを作り続ける)ピロリ菌は増殖が遅くなり淘汰されます。
このウレアーゼの分泌調節を人間の側から見ると,胃酸の酸性度のコントロールになります。ピロリが調節しているため,胃酸は高すぎず,低すぎずというバランスを維持します。
もしもピロリがいない場合,人間は胃酸の酸性度を全て自前で調節しなければいけなくなります。つまり,胃内の酸性度を常にチェックし,それに応じて胃酸の分泌を調節することになり,それにはエネルギーが必要です。
一方,胃酸の調節をピロリに「外部委託」した場合,人体側は胃酸のチェックをする必要もなければ,細かく胃酸の分泌を調節する必要もなくなり,その結果としてエネルギーは他の機能にまわせます。
このように考えると,胃内にピロリ菌が常在したほうが,人間側は消費エネルギーが少ないことになります。
もちろん,ピロリ菌と人体の関係は,皮膚常在菌と人間の関係ほど密接でないため(その証拠に,すべての人の胃内にピロリ菌がいるわけでない),ピロリ菌は人間に対してある種の病原性をまだ持っていて(皮膚常在菌の場合には病原性はほとんどない),それが胃がんの発生に関連しているのでしょう。
ただ,人間の寿命を他の霊長類から類推すると,本来の寿命は20年から30年程度,最大に見積もっても50年前後ですから,ピロリ菌による胃がんが発生するまえに寿命が尽きてしまうため,「ピロリ菌による発癌」は淘汰の対象にならず,現在まで維持されていると考えることができそうです。
また,全ての人間からピロリ菌が検出されていない理由も,ピロリ菌による胃酸酸性度の調節が,皮膚常在菌や腸管常在菌ほど強烈なメリットではなく,強い淘汰圧を受けるものではなかったから,と考えることもできます。
【鍼灸師ですが,治療前の治療者の手指消毒もあまり意味のないものなのでしょうか?>】
手の表面についている細菌は常在菌と通過菌に分けられます。
だから,除去すべきターゲットは常在菌でなく通過菌です。
- 常在菌
- 「皮脂があって,pH5.5」で生きる生物
- 「皮脂がなく,pH7.4」の皮下組織では生きていけない。
- 傷を化膿させることはなく人間に対する病原性もない。
- 通過菌
- 皮脂があると増殖が抑制される。
- 「皮脂がなく,pH7.4」でも生きていけるものがある。
- 一部の細菌は傷を化膿させるなどの病原性を持っている。
通過菌を除去する方法はいろいろあり,通常行われるのは次のようなものです。これらの除菌法の除菌効果と,それぞれの人体に対する影響は次の通り。
- 消毒薬による除菌
- 石鹸洗浄による除菌
- 熱湯消毒による除菌
- 水道水洗浄による除菌
つまり,除菌効果が高いほど人体に危険,ということになります。
- 除菌効果は次の順序・・・熱湯>消毒薬>石鹸>水道水
- 人体(手)に対する危険性・・・熱湯>消毒薬>石鹸>水道水
これらを踏まえて,医療者側の選択枝は次の通り。さて,あなたならどれを選択しますか?
- 自分の身はどうでもいいから,細菌は徹底除去すべきと考え,手を熱湯消毒
- 熱湯消毒はあまりに危険なので,それより危険性の低い消毒薬や石鹸で除菌。ただし,繰り返し行えば手荒れが起こり,黄色ブドウ球菌が繁殖する。
- 手のバイキンといっても傷を化膿させるような病原菌は極めて少ないなら,水道水でよく洗って細菌を除去し,同時に自分の手も守る
【ワセリンについてネットで調べていたら,「市販の白色ワセリンは紫外線で酸化し易く,油焼けの原因となるので落とす必要がある」とありました(白色ワセリンの光安定性,白色ワセリンの紫外吸収スペクトル)。これが正しいとすると,日光に晒されやすい手にいつもワセリンを塗っておくのは,日焼けの原因になりそうですが,いかがでしょうか。】
要するに,古い時代に使われていた黄色ワセリンには二重結合 [C=C] を有する不純物が含まれ,これが紫外線で変性(酸化)しました。しかし,現在使われている白色ワセリンは非常に純度が高く,特にプロペトという製品は不純物をほとんど含んでいません。だから,現在販売されている白色ワセリンでは光酸化は起こりません。
鎖状飽和炭化水素は炭素原子同士の共有結合 [C-C] と,炭素と水素の共有結合[C-H] からできていますが,[C-C] は極めて強固な結合であり,これを切り離すには大きなエネルギーが必要となります。このため,ワセリンは常温では他の分子とほとんど反応せず,極めて安定した物質です。従って,人体に使用しても人体との間で相互反応は起きないと考えられます。
ちなみに,ワセリンとは鎖状飽和炭化水素(CnH2n+2)のうち n=16〜20 の混合体を指します(C16H34, C17H36, C18H38, C19H40, C20H42)。ちなみに,n=21( C21H44)の鎖状飽和炭化水素は流動パラフィン,n=22( C22H46)は潤滑油と呼ばれています。
【循環障害のある手指潰瘍へのプロスタンディンの使い方について】
「プロスタンディン60μg + ソリタT1 200ml + メイロン1A」の組み合わせで一日一回(理想的には朝夕2回点滴),2時間かけて点滴し,2週間連続投与します。その後1ヶ月間休み,オパルモンなどの内服薬に切り替えます。その後,まだ冷感などの症状が続く場合は,再度プロスタンディンの2週間点滴を再開します。
メイロンは血管痛の予防に入れています。作用機序は不明ですが,なぜかよく効きます。それでも痛みがある場合は,点滴を入れている部位から近位を暖めるなどしてみてください。
【外傷に対する縫合処置前に「創周囲の消毒」は無意味でしょうか? 縫合糸という「異物」を残す行為であり,縫合糸も刺入部皮膚も無菌状態であることにこしたことはないような気もするのですが・・・】
もちろん無効です。私は毎日数例の裂創縫合をしていますが,過去8年間,皮膚消毒なし縫合をしていて,縫合糸膿瘍も創感染も数えるほどしか起きていません。
この問題をどのように考えたらいいか,基礎となる事実を列記しますので,考えてみてください。
- 「皮膚常在菌は皮膚表面だけでなく,毛孔内部にも生息している」
- 皮膚表面だけの消毒をすれば感染しない?
- 皮膚表面を完全に滅菌したとしても,糸針が毛孔をかすめたらどうなる?
- 「異物があるから感染するのでなく,細菌の繁殖場所(液体)があるから感染する」
- 縫合糸の構造(編み糸,モノフィラメント糸)で感染率が違うのはなぜ?
- 使うならどっち?
- その理由は?
- 「皮膚常在菌群は環境がpH5.5前後でパルミチン酸などの皮脂分解産物がある状態で増殖し,pH7.0では増殖が停止する。S.aureusは酸性環境かつパルミチン酸の存在が増殖を抑制する。一方,皮下組織(脂肪組織)は皮脂分解産物が存在せず,pH7.4の環境である」
http://www.wound-treatment.jp/next/wound365.htm, http://www.wound-treatment.jp/next/dokusho279.htm
- 皮下組織で増殖できるのはどの細菌?
- それは皮膚に常在する細菌?
【大学病院や大きな病院で湿潤治療をしているところが少ないのはなぜでしょうか?】
改革には「上からの改革」と「下からの改革」があります。大学病院のように大きな組織は「上からの改革」にはすぐに対応できますが,「下からの改革」には対応できません。それは大組織の宿命であり弱点です。湿潤治療は「下からの改革」ですから大学病院のような巨大組織には広がらないのです。
上からの改革とは厚生省とか学会などからの「新しい制度はこれなので従うように」というようなお達しのことです。この場合,厚生省⇒大学病院トップ⇒各科の教授⇒医局員と上意下達に命令が伝わるため,短期間に新しい制度に対応できます。
一方の下からの改革とは,個人の医者が始めた新しい治療などのことです。この場合,その治療法を知るのは個人としての医者であって組織ではありません。この点,個人医院の場合なら「明日から消毒はやめて乾燥させない治療をしてみるからね」と宣言するだけで,翌日から湿潤治療が始められますし,治療効果を認めたらずっと続けてくれるでしょう。だから,開業医の先生ほどどんどん治療を進められます。
しかし大学病院の場合,一人の医者がこの治療を知ったとしても,それを実践しようとしたら数々の難問が立ちはだかります。まず,外来担当医は毎日変わりますから,月曜日に消毒なしで治療しても翌日の医者は消毒するでしょうし,治療のたびに治療法が違っているため不信感をもたれかねません。それなら医局全体の医者に湿潤治療を普及させたらいいのでは,と思われるかもしれませんが,これはほとんど不可能です。教授なり医局長なりが「そんな治療は俺は聞いたことがない。だからそんな治療を認めるわけにはいかない」の鶴の一声で潰されます。また,全医局員の理解が得られたとしても,大学の医者は出入りが多いため,新しい医者が入るたびに治療法の説明を位置からやり直ししなければいけません。要するに,個人医院の医者と大学病院の医者では,湿潤治療を行う際の障壁は段違いです。
また,大きな組織ほど保守的になるというのは人間社会普遍に見られる現象ですが,これも作用します。つまり,大きな組織になればなるほど変化を嫌い,元通りのやり方に固執します。
このようなわけで,湿潤治療については個人医院や小規模病院が最先端を走り,そのすぐ後を医療の素人(で湿潤治療についての知識がある)人が追い,大学病院や大規模病院が最後尾でまだ走り始めてもいない,という状況です。恐らく,「消毒治療から消毒なし治療へ」のパラダイムシフトが起き,「大学ではまだ消毒しているよ」と言われるようになってから変化するのではないかと思われます。
同様に,熱傷の局所治療についても大学病院や熱傷センターが最も旧習的,因習的な古臭い治療に固執している傾向が強く(実際,いろいろな大学病院や熱傷センターの内部のスタッフから,いまだに一生懸命消毒していて患者さんが可哀想です,というタレコミを多数いただいております),素人より始末に終えないようです。現時点では,全身熱傷でもない限り,湿潤治療をしている個人医院や小規模病院で治療してもらったほうが安全といえます。熱傷専門医ほど古臭い熱傷局所治療に固執しているというのは,結構滑稽ですね。
【ピアスによる耳垂部ケロイドの再建について】
ピアスケロイドに限らず,耳垂部の全層皮膚欠損(前面か後面の皮膚軟部組織は残っている)を保存的治療(湿潤治療)したことはありますが,耳垂部は free border ですので,急速に創は収縮して上皮化しますが,瘢痕はそれなりに目立ちまが,この方法でケロイドが再発したことはありません。どうやら,ピアスに合併する耳垂部のケロイドは部位的な問題というより,金属アレルギーが持続的に起こっていることが大きいのかもしれません。
耳垂部ケロイドを切除して,丸く打ち抜いたように耳垂部全層欠損になった場合,耳垂前面を頭側(上方)からの rotation flap で閉鎖し,頬部(耳垂下部)に作った subcutaneous flap を移植して耳垂後面の欠損部を閉鎖するという手もあります。手技的に面倒ですが結構きれいに治ります。
【擦過創をワセリンとラップで治療していて,赤くなったりトビヒ(膿痂疹)ができることがありますが】
ワセリンとラップで創周囲の皮膚が真っ赤になることがあります。これは滲出液による接触性皮膚炎です。滲出液(細胞成長因子を含む)は傷にとっては薬ですが,皮膚にとっては余計物だからです。理由は
に書いてあるのと同じで,皮膚は本来排泄器官であり,密封されると機能低下をきたすからです。要するに「傷は密封して欲しいが皮膚は密封されたくない」ということになります。
- http://www.wound-treatment.jp/next/titles_situmon.htm#017
- http://www.wound-treatment.jp/wound132.htm
だから,密封型のラップやデュオアクティブでは接触性皮膚炎が起きます。小児でラップを使うととびひができやすいのも同じ理由でしょう。
対策ですが,汗疹やトビヒの部分にステロイド軟膏を塗ってプラスモイストで覆うと,通常は数日でよくなります。ちなみに,プラスモイストは余計な浸出液を吸収しますので,汗疹やトビヒを作りにくいです。
【熱傷水疱はどうしたらいいでしょうか】
熱傷水疱はすべて除去し,その上でワセリンを塗布したラップか,プラスモイストを貼付してください。水疱を残して治療をしていると,水疱の中の水疱液そのものが細菌の培養液になってしまい,細菌感染の原因となるからです。
【腹膜透析チューブの出口部感染の治療法は?】
まず,本当に感染なのかという問題をクリアしなければいけません。私がこれまで医師から「出口部感染だ」と治療を依頼された症例を数十例見ていますが,ほとんど全ては単なる肉芽への細菌常在(colonization)であり,本当に感染はゼロでした。 このような場合の局所治療については下記ページをお読み下さい。
ちなみに抗生剤は全く不要です。colonizationに対しては治療そのものが不要だからです。肉芽を放置して抗生剤を投与すれば菌交代を起こすだけです。意味がありません。しかし,創を治して上皮化させれば肉芽がなくなり,健常な皮膚を再生させれば,肉芽にしか生活できない細菌(S.aureus)は生存できなくなり,健常な皮膚でしか生活できない細菌(皮膚常在菌)に交代します。
地球上では,無菌の傷は存在しませんし,どう頑張っても傷は無菌になりません。無菌室だろうが,宇宙ステーションだろうが,傷という物理的環境ができれば,それに適応した細菌が登場します。
その理由は,そもそも人間を含めたすべての多細胞生物は,細菌との共生体だからです。細菌との共生関係を持たない多細胞生物は地球には存在しないようです。
【腹膜透析チューブの出口部の処置について】
基本的には入浴時によく洗う,表面を覆うものは不要,患者さんが気にするならガーゼなどをあてる,気にしないなら直接下着があたってよい,となります。
CAPD出口部の処置マニュアルを御参照下さい。
また,その根拠については下記のページをお読み下さい。
http://www.wound-treatment.jp/title_shoudoku.htmの「皮膚常在菌からカテーテル刺入部の処置を考える」 要するに,皮膚常在菌の生態と増殖条件,感染起炎菌の生態と増殖条件,カテーテル刺入部と深部の物理的・化学的環境から演繹すると,このような結論になるはずです。
【耳の後ろの数センチの皮下腫瘍切除術を受けました。現在痛みも腫れもありませんが,テニスなどのスポーツはしていいでしょうか?】
ごく一般的な話ですが,術後数日間,異常なく経過しているようですから,特に運動を制限する理由はありません。
私は術後の安静という奴はほとんど眉唾だと思っています。局麻手術で術後に安静が必要なのは,腱縫合後,神経縫合後,骨折整復後,植皮後など限られた手術の術後か,あるいは,動かすことによって出血が予想されたり血腫形成が予想される創(死腔が残っている,死腔面に血管が露出している,関節部にかかっている),そして動かすことで痛みが発生している創だけだと考えます。
運動して痛みがある場合は無理をしないでください。痛みは体が発する警告信号ですから,それを無視してまでがんばってはいけません。
【帯状疱疹の治療】
要するに,ウイルスに対する治療部分と,表皮内水疱に対する治療部分を分離するというのが,治療の基本的な考え方です。表皮内水疱を破ってしまえばそこは表皮の部分欠損となりますので,それに対してプラスモイストで治療するわけです。
- 抗ウイルス薬(バルトレックス,ゾビラックス)の内服。
- 水疱部は洗う。大きな水疱はつぶす。
- 患部をプラスモイストで覆う。
プラスモイストでなくハイドロサイトでも治療できますが,「皮膚欠損創」という病名が必要になります。
【水いぼ(伝染性軟屬腫)の治療】
水いぼ(伝染性軟屬腫)を取るかどうかは専門家の間でも意見が分かれているが,取るのであれば痛くないほうがいいに決まっている。以下の方法なら素人が自宅でも痛くなく取れるはずだ。
- スピール膏(タコやウオノメ治療用絆創膏。薬局で買えます)を水いぼの上に張る。一日一回は張り替える。
- 3〜4日後にスピール膏と一緒に水いぼが取れる。もちろん,痛みは全くない。
- 取れた後は,プラスモイストかデュオアクティブ(あるいはキズパワーパッド)で覆う。翌日にはきれいに治っているはずだ。
【発展途上国の水道で傷を洗っても大丈夫ですか?】
まず,通常の創感染を起こす細菌は水中にはいません。通常の傷を化膿させる細菌は黄色ブドウ球菌ですが,これは好気性菌ですので水中には住めません。
また,水中で生存している細菌にしても水中で暮らしているわけではなく,通常は何かの表面に付着して生活しています。つまり,水中とはもともと細菌が少ない環境です。
もちろん,日本住血吸虫のような皮膚から入り込む原虫もいますが,そのような水はもともと飲用には適しませんので,現地の人も飲用を経験的に避けているはずです。また,特殊条件下の海水中にいるビブリオが感染を起こすことがありますがこれは「温度の高い汽水」というかなり特殊な条件で,真水にはいない細菌です。コレラ菌のように消化器症状を起こす細菌が水に含まれることもありますが,これらの細菌は傷を化膿させる細菌ではありません。
要するに,現地の人間が飲んで安全な水には,感染起炎菌もその他の感染症をおこす菌もいません。従って,現地の人たちが飲んでいる水であれば,傷を洗っても安全です。
また,多少の細菌が水にいたとしても,傷口にいる細菌の方がはるかに多いわけで,このような水で傷口を洗ったとして,細菌は「傷口から水中」に移動しますが,その逆,つまり「水中から傷口へ」の移動は起こりえません。宇宙不変の法則であるエントロピー増大の法則に反するからです。つまり,細菌がいる水で傷口を洗った場合,水が細菌が汚れ,傷口はきれいになります。
【手術やケガの痕の気になります/5年前のケガの痕もきれいになりますか?】
手術の傷跡やケガの痕,やけどの痕をきれいにする治療は形成外科でしていて,より目立たなくすることは可能です。また,5年前の傷でも10年前のものでも動揺に治療できます。これらの治療は原則的に保険診療で行っています。
ただし,「より目立たない傷跡にする」のであって,「完全に傷跡を消す,傷が全くない状態にする」ことではないので(手術は魔法ではありませんから),その点は御了承下さい。
また,美容外科を受診する必要もありません。形成外科を標榜しているところで十分な治療が受けられます。
【肥満女性の腹部手術後の創離開を防ぐには】
ちょっと(?)太目の女性が婦人科などで腹部の手術を受けた後に,手術の傷が化膿したり開いたりすることはよくあります。なぜかというと,脂肪層(脂肪組織)は非常に血流が乏しい組織であるために治癒が遅れる(=要するに脂肪層同士がくっつきにくい)ためです。
では,分厚い脂肪層をしっかりと縫合すればいいだろうと縫合すると,かえって傷が開くことになります。脂肪層は非常に脆弱であるために縫合糸で縛った脂肪層が切れてしまい,そこが結果的に死腔となるからです。その死腔には,切れた脂肪組織の中の組織液などがたまり,これが二次性の感染源となり,術後1週間位してからいきなり感染したりすることがよく観察されます。この場合の感染ルートですが,通常は縫合部の皮膚には発赤などの異常はないため皮膚からの感染とは考えにくく,そのほとんどは血行性由来の細菌による感染と思われます。
したがって,死腔をなくすという目的で脂肪層を縫合すればするほど感染が増えるということになります。かといって,死腔をそのまま放置すれば,いずれその死腔が感染源になります。
ではどうするか。縫合せずに脂肪層の死腔をなくせばいいだけのことで,Jバッグなどの持続吸引バックの付いたドレーンを脂肪層内に留置すればいいと思います。脂肪が分厚い場合にはドレーンを複数本入れ,さらに腹部を外から軽く圧迫すればいいのではないかと思われます。なお,このタイプのドレーンの使い方慣れていなければ,同じ病院の外科に教えてもらってください。
【テラジアパスタという軟膏はどうでしょうか?】
テラジアパスタを傷に塗ると強烈な痛みが発生します。この痛みの原因は基剤のマクロゴールと取材のスルファジアジン,両者の作用と思われます。激痛がお好きなら傷に塗って下さい。
テラジアパスタの水溶性軟膏基剤マクロゴール(ポリエチレングリコール)は浸透圧が高い物質ですので,創面に塗ると創面の水分を吸収して乾燥させます。つまり,傷の治癒を遅らせるように作用します。また,マクロゴールを基材とするアクトシン軟膏が激痛を起こし,傷を深くすることから,マクロゴールという基材そのものが諸悪の根源と思われます。
スルファジアジンは銀を含有する抗菌剤ですが,いくら抗菌作用を有していたとしても,肝心の傷の治癒が遅れてしまっては,結局は菌交代を起こすだけです。
創面の細菌を減らす唯一の手段は抗菌剤の使用ではなく,速く傷を治すことです。創が治り,正常皮膚が再生すれば,そこは皮膚常在菌しか棲めない環境になり,黄色ブドウ球菌やMRSAの生存に適さない環境になります。一方,正常皮膚でない創面は正常な皮膚常在菌が棲めない環境であり,その環境に適した細菌(多くは黄色ブドウ球菌)が定着します。これは自然現象であり,病的現象ではありません。
【性同一性障害(GID)やRokitansky症候群の造腟術の方法について。神戸大学や防衛医大では,プロテーゼにテルダーミスやインターシードを巻きつける方法で治療していますが,これはどうでしょうか。】
造腟術ですが,東北大学形成外科に所属していた当時,1990年頃から95年頃にかけて,主にRokitansky症候群に対する手術をおよそ10例以上したことがあります。
http://www.wound-treatment.jp/next/wound259.htm
手術法は,植皮による再建(全層皮膚,分層皮膚),皮弁による再建(主に大体内側皮弁)などをしましたが,結局,「出っ張ったもの,凹んだもの,トンネル状のもの」を作るのは簡単だが,その状態を維持するのはすごく大変だという結論になりました。
皮膚が薄ければ生着は容易ですがすぐに拘縮してくるし,皮膚が厚ければ拘縮は少ないけれど皮膚の分泌物独特の臭気が気になるし,皮弁となると皮膚そのものですから,毛嚢,感染からの分泌物がずっと続きます。これが猛烈な臭気になります。
また,拘縮の問題も深刻でした。できるだけ大きなプロテーゼに皮膚を巻きつけて移植したり,深部の組織に縫合固定したり,長期間プロテーゼを挿入させたりしましたが,結局は拘縮は避けられないような印象でした。
つまり,「出っ張ったもの,凹んだもの」にはそれを維持する構造があり,それがなければ結局は力学的にもっとも安定した構造,つまり造腟前の状態に戻る,ということです。
肋軟骨という硬組織で作った耳は結構長期間形(凹凸)を維持しますが,皮弁だけで作った耳垂は結局縮んできて小さくなります。頭皮の皮弁で大きなdog-earができても数週間で平坦になります。これらは,「力学的にもっとも安定した状態になった」と考えると理解できます。
同様に,移植皮膚の拘縮も,局所にかかる張力のバランスでもっとも安定した状態になっているだけのことでしょう。
「中年になると体型がたるむ」のも,皮膚が持つ張力と重力のバランスの問題で,それが力学的にもっとも安定しているからです。
作った腟が構造的に安定しないのは,括約筋も腹圧も「作った腟腔をつぶす」方向に働くからでしょう。生体の腟が安定しているのは,それらの圧に抵抗するのに十分な筋肉組織と,その筋を維持するのに必要な血流などが保たれているからです。
「プロテーゼにテルダーミスなどを巻きつける方法」ですが,これは要するに,単に内腔を作り,それにテルダーミスなどで覆ったプロテーゼを入れているだけですよね。この内腔を覆う上皮は結局,会陰部皮膚から侵入しているもので,それ以外のルートから上皮組織(皮膚・粘膜)が入り込む余地はありません。これはインターシードでも同様でしょう。
つまり,テルダーミス(インターシード)の上を上皮細胞が移動,増殖することで内腔の上皮化が得られると考えられます。となると,細胞の増殖の条件になっているかどうか,局所の血流はどうか,プロテーゼ表面にかかる周囲からの圧迫(括約筋と腹圧両方がかかります)はどのように細胞増殖に作用するか,という問題がらみで考える必要があります。したがって,テルダーミスだからどうだ,インターシードだからよい,という事はないと思いますし,もっと生物学的,物理学的なアプローチが必要でしょう。
造腟術は手術法,内腔を覆う組織の種類(皮膚か粘膜か),プロテーゼの形,挿入期間などの問題は実は瑣末な問題で,物理学的・生物学的なアプローチをしない限り,先には進めないと思います。繰り返しますが,人工的に作った腔を長期間維持させるためには,それを保たせるための動的構造が常に維持されていることが前提だろうと思います。
【開頭術した症例ですが,術後2ヶ月以上してから創部に肉芽を生じ離解が始まりました。組織を取ると「浮腫性肉芽」といったなじみのない病理診断で,少なくとも感染や腫瘍浸潤ではないようでした。湿潤治療を続けていますが,肉芽のままで上皮化しません。どうしたらいいでしょうか。なお,潰瘍部分の骨は骨膜が欠損しています。】
この症例ですが,露出している骨は一度取り出して,その後戻した骨ですか? その場合,再度入れた骨は一旦すべての血流が遮断されているため,骨への血流はないと思われます。だから,骨表面(骨皮質)からの肉芽形成もなく,見えている肉芽は周囲の組織から出て,外見的に骨表面を覆っているだけではないかと思います。そのため,肉芽が浮腫状になっているのではないでしょうか。 骨自体に血流があれば,骨皮質からでも肉芽がどんどんあがってきますが,骨に血流がない場合には肉芽形成は望めません。
この場合には,やはり形成術が必要です(Galeaを反転させて植皮するとか)。形成外科に相談するのが一番ではないかと思います。
【アズノール軟膏を傷につけるのはどうでしょうか?】
製品のアズノール軟膏の説明これを見ると,アズレン 0.1g と〔白色ワセリン+ラノリン〕299.9g からなるのがアズノール軟膏です。つまり,ほとんどが白色ワセリンとラノリンです。ちなみにラノリンは,羊毛からウールを作るときにできる副産物の「ウールグリース」を精製した蝋状物質で,高級アルコール及び高級脂肪酸の混合物です。
アズノールはキク科の植物のカミツレ(カモミール。古くから民間薬として使われている)の成分,グアイアズレンとその水溶性誘導体を含んだ薬剤です。そのなかにカムアズレンと呼ばれる青色油状のセスキテルペンがあり,これに抗炎症作用が認められ,古くから外用剤として使われてきたようです。ただ,まれにアズノールに対してアレルギー反応を起こす人がいます。
一方,高純度のワセリンは純粋な炭化水素(C20H42)で,分子量は284と小さいため,理論的には抗原抗体反応を起こさず,アレルギーは起きません。
だから,安全性を考えればワセリンより値段の高いアズノール軟膏を選ぶ必要はないと思います。
【シャント術後の処置はどのようにしていくと良いでしょうか。透析導入される患者さまは,糖尿病の方が多いので感染を気にされる先生も多く,また慢性糸球体腎炎からの導入患者さまより,傷がつきにくいため,抜糸の時期も遅くなってます。】
「シャント術後はどうしたらいいのか」,「腎不全があるから別ではないか」,「糖尿病患者は易感染性なので消毒が必要だろう」・・・という発想をしている限り,術後創感染は防げません。
人間の皮膚に常在菌がいて,その常在菌群が感染を防いでいることは同じだからです。健常人と腎不全患者(易感染性患者)で皮膚の構造は同じです。そのため,易感染性の患者であれば尚更,皮膚常在菌叢を乱す行為(シャント部位の消毒)は危険です。
「皮膚にバイキンがついているから感染予防のために手を消毒(=手をよく洗え)」という発想も間違っています。手(皮膚)についているのは常在菌と外来菌であって,外来菌(病原菌など)だけではありません。
消毒を繰り返すと接触性皮膚炎などの炎症が起こり滲出液が出てきます。そのため皮膚表面の pH は中性に傾き,皮膚常在菌( pH 5.5前後でないと生きていけない)は生存できなくなり,逆に黄色ブドウ球菌( pH 6.8前後が生存条件)が増えます。だから,消毒するのは感染の機会をふやす効果しかありません。消毒で感染を防げたというエビデンスは存在しません。
皮膚とは何かといえば,莫大な数の複数の皮膚常在菌が生存する生態系です。これは易感染性の患者だろうが糖尿病患者だろうが同じです。この常在菌が皮膚からの外来菌の進入を防いでくれています。皮膚常在菌叢が乱れたときに感染症が起こります。
感染を防ぐのであれば,まず,皮膚とは何かを知ることが第一歩です。これを知らずに感染対策をとっても無駄です。
ちなみに,皮膚からの感染を100%防ぐことは理論上不可能です。これは「絶対に泥棒に入られないマンションを作れ」というのと同じです。もちろん,絶対に泥棒に入られないマンションは作れます。ドアも窓も通気穴もなく,外部から完全遮断すれば泥棒は入れません。しかしそれでは生活できません。だから,最低限,ドアと窓は必要になります。するとそこから泥棒も入れます。「泥棒は入れないが,住人だけ入れる」というドアを作ることは不可能です。
人間の皮膚は本来,ドアも窓もない建物です。さらに常在菌が守っています。だから通常は皮膚から感染しません。一方,皮膚にカテーテルや留置針を入れる(あるいは,留置する)という医療行為はそのような建物に穴を開けることです。だから,ある確率で感染が起こります。そこを消毒すると,感染の機会を増やします。
【手術後の創感染を減らすためにはどうしたらいいでしょうか。】
皮膚切開した際の真皮直下からの出血を気にして,ヒステリックに電気メスで止血すると,結局,皮膚が火傷を起こして損傷され,このような皮膚を縫ってもやがて創縁が壊死し,結果的に傷が開きます。開いた創には細菌が定着します。しかし,「細菌の定着(Colonization)」を「感染(Infection)」と勘違いすると,「これは創感染だ」と判断して消毒を始め,傷は消毒薬で損傷されて次第に深くなり,それに伴って細菌も深部に移動します。これはゲーベンクリームやヨードホルムガーゼがさらに助長します。ガーゼを創にギューギューづめにすればするほど,傷は深くなります。やがて骨髄炎や深部感染に移行します。これを「医原性感染」「消毒性感染」と呼びましょう。
- 真皮の切開で電気メスを使わない。
- 真皮直下からの出血をしつこく止血しない。絨毯爆撃的電気メス止血をしない。
- 術中の創縁の乾燥を防ぐ。
- 筋膜縫合後に脂肪層を消毒しない。皮膚縫合前に創を消毒しない。
- 脂肪層は縫合しない。
- 脂肪層が厚い場合は,血腫形成を予防のために吸引ドレーンを入れる。厚さによっては複数のドレーン挿入も考慮する。
- 血腫形成を予防するため,患部に適切な圧迫を加える。
- 皮膚縫合は強く結紮しない。
- 縫合創縁の緊張が強い場合はテーピングを併用する。
- 縫合後の消毒をしない。
- 術後は回診時の消毒をしない。
- 術後離開創は消毒しない。ゲーベンクリームなどを入れない。ヨードホルムガーゼを入れない。
【老人保健施設で創傷被覆材がありません。表皮剥離や擦過傷の処置はどうしたらいいでしょうか。】
このようなご質問を頂きましたが,フィルムやハイドロコロイドすら使わずに初期治療はできます。使用するのは「台所三角コーナー用ゴミ袋」と「紙オムツ」です。鳥谷部先生の「褥創のラップ療法」で詳しく説明されています。http://www.geocities.jp/pressure_ulcer/sub582.htm
この方法による治療の具体例は,鳥谷部先生の著書「これでわかった!褥創のラップ療法」(三輪書店)でも詳細に説明されているようです。
また,表皮剥離に伴う出血程度なら,上記の「穴あきポリ袋+おむつ」を創部に当てて包帯を軽く巻き,患肢挙上するだけで止まります。
【皮下脂肪層に直径4センチの膿瘍が発生し表面の1センチの穴からアイテルがでていました。内部を洗浄し落ち着いていますが,内部はポケット状のスペースになっています。どうしたらいいでしょうか。】
入り口が小さくて直径4センチのポケットになっている,ということですね。この程度であれば,ナイロン糸ドレナージを入れて圧迫しておけば,ポケットは肉芽で埋まって狭くなってきます。ナイロン糸は5本を2〜3組くらい入れると確実にドレナージできます。もしも,ポケットの収縮が遅く,入口部の収縮が起きてしまう場合には,切開して開放したほうがいいです。
ちなみに,肘頭部の膿瘍(化膿性滑膜炎)の場合には入れたナイロン糸が抜けやすいので(恐らく,肘の動きのため),ちょっと切開してペンローズドレーンを入れた方が確実なようです。
【痔ろうが肛門付近,外陰部に瘻孔を作っている場合も洗浄後にテガダームなどを貼付するだけで良いでしょうか?】
瘻孔内部は既に滲出液で湿潤環境にあります。つまり,「湿潤でないから治らない」わけでありません。ではなぜ瘻孔が治らないかといえば,瘻孔が維持される(=瘻孔内部に正常な肉芽形成が起こらない)原因があるからです。その原因を放置して瘻孔表面の処置をしても全く無意味です。
瘻孔の治療は基本的にドレナージです。ドレナージなしに治ることはありません。瘻孔入口部が大きければペンローズドレーンでもいいでしょうし,入り口が小さければナイロン糸ドレナージが有用です。 これで治癒しない場合には,瘻孔深部に「根本原因」がありますので,その除去が絶対に必要です。それを除去することが瘻孔の治療になります。
いわゆるガーゼドレナージにはドレナージ効果はほとんどなく,実際にはタンポナーデにしかなっていませんので,ガーゼドレナージはしても無駄です。ガーゼドレナージがなぜドレナージでないかは,毛細管現象が維持されないからです。高校程度の物理の知識です。
【なゼラップにワセリンを塗るのでしょうか。ラップだけでも効果があるはずですが。】
これは自分の体を使って実験するとわかります。
入浴の際に,ナイロンタオルで大腿部を思いっきりこすってください。これは角化層損傷創で,痛痒いと思います。
ここを下記のように4つに分けます。数秒もすると,なぜワセリンが必要かがわかります。
- 何もしないで乾かす(コントロール)
- ワセリンのみ塗布
- ラップのみ貼付
- ワセリンを塗ったラップを貼付
ちなみに,消毒薬がどれほど傷に悪いものか,消毒薬を含んだ軟膏はどれほど痛いものか,クリームを傷に塗るとどうなるか,私は,いろいろな消毒薬や軟膏の我が身を使った人体実験をしています。
どうしても傷の消毒やゲーベンクリーム塗布をやめられない先生方,看護師さん方は是非この人体実験をしてみてください。貴方がどれほど患者さんを痛めつけ,傷つけているかがわかりますよ。
【アトピー性皮膚炎にも有効ですか?】
個人的な経験の範囲内でしかありませんが,有効です。治療法はこちらをお読み下さい。
【キズパワーパッドやデュオアクティブは何日張り続けても大丈夫?】
ハイドロコロイド(デュオアクティブ,キズパワーパッド)の添付文書には1週間張り続けて大丈夫,と書かれていますが,それを真に受けるととんでもないことが起こることがあります。トビヒになったりアセモを作ったりします。普通に働いたり遊んだりしている人は,一日一回はハイドロコロイドを剥がし,周囲の皮膚の汚れ,垢を洗い落とし,それから新しいハイドロコロイドを張るべきです。皮膚は基本的に排泄器官だからです。皮膚の重要な機能である不感蒸泄がハイドロコロイド貼付で妨げられたから,皮膚のトラブルが起こるのです。
「何日も張り続けて大丈夫」なのは,褥瘡などの寝たきり患者さんの場合のみです。
【膿痂疹(とびひ)の治療について】
膿痂疹の場合には,という方法で,通常2日くらいで治ります。抗生剤入り軟膏も消毒も不要です。要するに,細菌(S.aureus)による蜂窩織炎に対する治療部分と,表皮内膿疱に対する治療部分を分離して考えます。蜂窩織炎に対しては抗生剤含有軟膏の局所投与は意味がなく,抗生剤の全身投与のみが唯一の治療です。また,表皮内膿疱を破ってしまえばそこは表皮の部分欠損となりますので,それに対してプラスモイストで治療するわけです。
- 抗生剤内服
- 患部はシャワーで洗って膿痂疹は全てつぶす(膿痂疹を開放する)
- 患部をプラスモイストで覆う。暑い時期では一日に二回くらい交換する。
- 上口唇や頭皮部などプラスモイストを貼付できない部分では,リンデロンVG軟膏か白色ワセリンを頻回に塗布して乾燥を防ぐ。
プラスモイストでなくハイドロサイトでも治療できますが,「皮膚欠損創」という病名が必要になります。
【赤ちゃんの哺乳瓶は毎日消毒しないといけないんでしょうか?】
常識的に考えれば,ミルクの中に多少の細菌がいたとしても,そのほとんどは胃酸で殺菌されるはずです。また,胃を無事に通過して腸管に入ったとしても,今度は腸管常在菌叢がこれらの外来菌の定着・侵入を防ぎます。
哺乳瓶の中にミルクが残っている状態で放置しておけば,ミルクの中でさまざまな細菌が増殖しますが,これはあくまでもミルク(と水分)があっての話です。最低限,水分がなければ細菌は増殖できません。
ですから,普通の食器と同じように哺乳瓶を洗剤で洗い,中を十分に乾かせば細菌は増殖できませんから,それで十分に安全ではないかと思います。
【カイロで腰が低温やけどになり,水疱が出来ている状態です。 3箇所あり,最大は,10mm×20mm位です。痕を残さずに治したいのですが・・・。】
低温熱傷は通常の熱湯などによる熱傷と全く違います。http://www.wound-treatment.jp/wound151.htmで説明してあるとおり,まず最初に皮下脂肪層にダメージがあります。この段階では皮膚には小さな水疱ができる程度です。しかし,次第に脂肪組織のダメージが進み,1週間くらいで突然,皮膚が真っ黒になり,真っ赤にはれて化膿します。
問題なのは,この「皮下脂肪のダメージ」は低温熱傷に気がついた時点で既に完成していて,その後にどんな治療をしても(例:軟膏を使う,創傷被覆材を使うなど),その悪化を食い止められない点にあります。
もちろん,軽度の低温熱傷で水疱もできないようなものではたまに,特に悪化することもなく治る例もありますが,そのような例はかなりまれで,多くの例は「どんなに治療をしても皮膚が真っ黒になり,傷が化膿する」という経過をたどります。
通常,真っ黒になった皮膚を切除して膿を出し,それから「湿潤治療」を行いつつ,傷が閉じるのを待つ,という治療経過をたどります。http://www.wound-treatment.jp/wound046.htm
ですから,「火傷の痕を残さないように」という治療法はないと思ってください。熱湯による火傷の場合には痕があまり残らないようにすることは可能ですが,低温熱傷はそんなに生易しいものではありません。跡が残ろうが,とにかく傷を治すことを最優先して考えるべきです。
また,通常の低温熱傷はきちんと治療をしても,数センチのものを完治させるのに2ヶ月以上かかります。
これでお判りのように,低温熱傷を自分で治そうというのは無謀です。低温熱傷の治療に慣れた医者を受診すべきです。
取りあえず,「熱傷を湿潤治療している医師」に掲載している医者で通院できそうなところに片っ端から電話をかけて事情を説明し,低温熱傷の治療をしているかどうかを尋ね,治療可能という病院があったらそこを受診してください。また,受診する際は必ず,私に相談して受診を勧められたと,おっしゃってください。
【下腿骨々折で,現在ギプス固定をして金属固定Ope予定している方ですが,ギプスのなかで広範囲な水疱ができて破れてしまいました。整形外科としてびらんがある近くで金属を体内に留置するOpeは骨髄炎の危険があります。何かいい治療法はないでしょうか。】
お尋ねの症例ですが,これが参考になるでしょうか?
「前腕骨折固定時に血疱を併発した症例」
術前に水疱が破れてしまったのであれば,水疱膜を全て除去してハイドロサイト,プラスモイスト(以前のZNCの改良版です)などで被覆し,上皮化が完了してから手術すべきでしょう。
【そもそも,金属挿入部近くに湿潤創がある状態で手術すると,感染率が高くなる率はなぜでしょうか。】
正常の皮膚(傷のない皮膚)と創面では物理的・化学的性状が異なるため,そこに生息する細菌も異なります。与えられた環境にもっとも適した細菌のみが繁殖できるからです。
正常皮膚,つまり,汗や皮脂が分泌されてこれが表面を覆っている皮膚ですが,これにもっとも適応した細菌は表皮ブドウ球菌で,これは人体に対する病原性はきわめて低いです。
それに対し,創面(滲出液のために水分が多く,蛋白質も多い)に生着する細菌は,その物理的・化学的性状によって黄色ブドウ球菌だったり緑膿菌だったり,カンジダだったりします。これらは表皮ブドウ球菌に比べ,病原性は高くなります。
だから,湿潤創面を切開した場合,正常皮膚を切開するより感染が多くなるのは,当然です。このあたりについては,http://www.wound-treatment.jp/title_kanou.htmの「生態系としての創感染」もお読み下さい。
創面に定着した細菌を消す唯一の方法は,傷を治すことです。つまり,正常皮膚を再生させることです。正常皮膚が再生すれば,緑膿菌も黄色ブドウ球菌も生存できず,唯一,表皮ブドウ球菌のみが生存できるからです。
手術で,湿潤創面(=肉芽面)をどうしても切開しないといけない場合,どうしたら創感染を減らせるかですが,全ての肉芽(創面)を全て切除して新鮮創面にし,直ちに手術を開始する方法です。つまり,湿潤創面を完全に剥ぎ取ります。
これなら,肉芽面の切除が完全にできれば感染率は正常皮膚と同じになるはずですが,完璧なデブリードマンが要求され,中途半端なデブリードマンでは感染必発です。これ以外に,感染を減らす方法はありません。
要するに,「細菌とはどういう生物か」ということを前提に,その上で何ができるかを考えるべきだと思います。
【手術の傷跡がケロイドになった(医師向けバージョン)】
ケロイドと肥厚性瘢痕はまったく異なっていて,大多数の医者の言う「ケロイド」はケロイドではありません。
「真のケロイド」は前胸部正中などの決まった部位に発生し,傷の元々の大きさ以上に広がり,正常皮膚に広がっていくもので,悪性腫瘍のような増殖をします。この場合は,手術で切除すればするほど広がるため,手術治療は禁忌,絶対にしてはいけません。
「偽のケロイド」とも言うべき肥厚性瘢痕は,正常皮膚を侵すことはありません。また,単に「広がった傷痕」は肥厚性瘢痕でもケロイドでもありません。
術後に発生する肥厚性瘢痕はほぼ全例,瘢痕拘縮(傷のひきつれ)に合併して起こります。瘢痕拘縮があるために発生する肥厚性瘢痕です。だからこの場合には,Z形成術などを行って瘢痕拘縮の治療をすれば,肥厚性瘢痕は収まります。つまり,肥厚性瘢痕を切除しなくても症状は改善します。
瘢痕拘縮を伴わない肥厚性瘢痕の場合,ステロイド剤(トリアムシノロン)の局所注射,ストロングタイプのステロイド軟膏塗布,ステロイド含有テープの貼付,シリコンシート貼付,トラニラスト内服などの治療をします。
【ケロイド体質と医者にいわれましたが(患者向けバージョン)】
多分,その医者が間違っていると思います。「ケロイド体質」の患者はほとんどいないからです。私は25年近く形成外科医をしていますが,本当のケロイド体質の患者さんは一度も見たことがありません。これは他の専門医も同じでしょう。
本当のケロイド体質では,体のさまざまな部位に「真のケロイド」が発生しますが,このようなことは極めてまれです。だから,医者が「あなたはケロイド体質だから諦めましょう」といったら,それは,嘘をついているか,ケロイドについての医学的知識が欠落しているか,デタラメを言っているか,そのいずれかだと診断できます。こういう医者はさっさと見切りをつけて,まともな医者にかかりましょう。正しいことを知らない医者にまともな治療ができるわけがないからです。
【数年前,ガラスで腕を切り病院で縫合してもらいましたが,傷が盛り上がって目立ちます。何とかならないでしょうか。また,このような傷を切り取って湿潤治療すればきれいになりませんか。】
このような傷跡を目立たなくする治療は,形成外科で普通に行っています。全国どこの形成外科でも,ほぼ同じ治療をしていますで,お近くの形成外科(総合病院の形成外科でも開業医でもよい)で相談してみてください。
傷跡を全くなくすことは不可能ですが,より目立たなくすることは可能でしょう。
なお,この場合は湿潤治療をする必要はありませんし,湿潤治療の知識のない形成外科医でも,問題なく治療できます。
また,手術での治療でなくても,ステロイド剤の局所注射,ステロイドテープの貼付で盛り上がりは平らになります。シリコンシート貼付でもかなり効果がありますし,内服薬を併用することもあります。このような治療は全国どこでもしている普通の治療ですから,御近所の形成外科で御相談下さい。
【どうしても縫合しなければならない新鮮外傷で真皮縫合や,もっと深部を縫合しなければならないことがあると思います。その際の縫合の時の消毒も不要で水道水洗浄のみでいいのでしょうか】
「傷の中に消毒薬を入れてはいけない」というのは既に外科の教科書(1990年以降に出版された英語の教科書)に書かれています。これは傷すべてに共通していることで,深いも浅いもありません。つまり,「深い傷だから消毒」をいう発想そのものが教科書レベルでも否定されています。
結局,消毒薬を使うかどうかは,消毒薬によるメリット,デメリットのトレードオフです。まな板や布巾を消毒するなら消毒薬や熱湯で十分ですが,生体(皮膚,傷,臓器など)を消毒するときに熱湯で消毒する馬鹿はいません。消毒薬による殺菌と熱湯による殺菌は,細菌に対する作用機序という意味ではまったく同じです。つまり,生体にとって消毒薬は熱湯同様に危険なものだと思います。だから,メリットがなくデメリットしかなく,考慮の対象ですらありません。
【その際の手袋は滅菌済みですか?未滅菌のものですか?】
http://www.wound-treatment.jp/title_bunken.htmの文献にあるとおりです。やはり,深い傷だろうが浅い傷だろうが外傷に関する限り感染率に差はないようです。
【穴あき覆布は使われているのでしょうか? 糸は圧巾の外にでているのでしょうか?】
「穴あき覆布」は使います。縫合糸を見つけやすいからです。しかし,縫合糸が覆布の外に触れても気にはしていません。
【不潔と清潔の違いをどう考えたらいいのでしょうか】
「不潔」「清潔(無菌)」を二つに分ける考えは既に古いです。「不潔」「準清潔(準不潔)」「清潔(無菌)」と3通りで考えるのが世界標準です。
「滅菌物を使うこと,無菌操作をすること」と,「院内感染を防ぐ,術後創感染を防ぐこと」はまったく関係ありません。院内感染を防ぐことの本質は「複数の患者関で使用する共有物を細菌汚染しない」ことです。無菌操作・滅菌物の使用はそのための手段の一つに過ぎません。手段は他にいくらでもあります。
患者にとって最大の共有物は「医者と看護師の手」です。だから手洗いが必要です。しかしだからといって,手をしつこく洗ったり消毒薬で洗うと,皮膚が荒れてきてやがてMRSAなどの細菌が常在します。つまり,手を無菌にしようとすると,逆に手は細菌汚染され,それが院内感染の原因になります。つまり,「手洗いで院内感染」は半分正しく,半分正しくありません。
これを避けるためには,手洗いする前にワセリンで保護膜(油の皮膜)を作り,それから手洗いするしかありません。
ちなみに,手についている細菌は,常在菌と通過菌に分かれます。通過菌で水で洗って落ちない細菌はありません。
【子供の顔面外傷は原則的に縫合しないとのことですが母親の手前,初めは勇気が必要だったのではないでしょうか。必ず綺麗に治るという根拠,自信はどこからできたものでしょうか?】
交通事故などの多発裂創で全ての裂創を縫う余裕がないときに,テーピングだけした傷が数日後にきれいに治ることを見ています。
また,私はもともと形成外科医です。つまり,傷を修正したり,より目立たなくするのが仕事です。だから,もしもテーピングで傷が目立っても自分で修正すればいいだけのことです。
以上から,恐らくテーピングで大丈夫なこと,万一傷が開いたままでもきれいに治ることhttp://www.wound-treatment.jp/next/wound202.htm,万一傷が目立っても自分で治せることから,テーピング主体で治療することにしました。患者さんの両親には,きれいに治る写真を見せると納得されます。
どんな親だって,子供が泣く声は聞きたくないと思います。
【フィブラストスプレーについては,どのように先生はお考えですか?】
http://www.wound-treatment.jp/next/wound202.htmに書いてあるとおり,まったく無効な薬剤です。
フィブラストスプレーの有効性を示すデータそのものがおかしいのです。製薬メーカーのデータは,ユーパスタを対照薬とし,ユーパスタより有効だからという数字を出していますが,この時点でそもそもインチキです。なぜなら,ユーパスタは「傷を治さない特効薬」の一つだからです。ユーパスタの基剤(ショ糖)は高浸透圧で創面を乾燥・壊死させ,一方,主剤はポビドンヨードという生体毒だからです。
つまり,ユーパスタと比べれば,水道水だって治療効果があります。ユーパスタを止めただけで傷が治ってくるからです。マイナスの効果のある薬剤を基準にすれば,ゼロだってプラスに見えます。
だから,ユーパスタと比較して治療効果があるという実験系そのものがインチキです。
製薬メーカーのデータを鵜呑みにするのは,極めて危険です。
【眼軟膏は普通の軟膏とどう違うのでしょうか?】
「塗り薬」は基剤によって分類されているようです。基剤により軟膏(白色ワセリン,あるいはプラスチベースなどの油脂が基剤),クリーム(クリームが基剤),ローションなどに分けられます。
しかし,本来はクリーム基剤なのに,軟膏という名前で販売されているものがあり(例:オロナイン軟膏,オルセノン軟膏),名前だけでは判断できません。
ちなみに,軟膏(油脂基剤)は半透明,クリームは不透明で白やピンクなど色がついています。
眼軟膏全てを調べたわけではありませんが,そのほとんどは白色ワセリンの中でもっとも純度の高いプロペトが基剤です。恐らく,安全性を考えて,不純物が最も少ないプロペトが選ばれたものと思われます。
【外用抗菌薬は浸透しないと常識的になっていますが,では白癬菌はどうなのでしょうか?】
白癬菌は角質内で増殖して足白癬を発症しますので,角質表面の白癬菌を除去することは,足白癬の治療とは無関係ではないかと思われます。
白癬治療軟膏についてはよく知らないのですが,色を見る限りクリーム基剤でしょう。恐らくそれに尿素を混入して角質を溶解(=破壊)する作用を持たせ,薬剤を角質内の白癬菌に作用させていると予想されますが,もしかしたら間違っているかもしれません。