ナイロン糸を使った咬傷のドレナージ


 動物咬傷の局所治療については以前書いたとおりであるが,このうち,創のドレナージについて「ガーゼドレナージでよい」と書いたが,この部分を訂正する。ナイロン糸,あるいは点滴留置針外筒を使う方法である。
 私は最近,ナイロン糸を使っているが,かなりいいような印象を持っている。

 まずは具体例の提示。

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  1. 【症例1】前腕遠位背側尺側の中型犬による咬傷。長さ1センチ,深さ1.5センチくらいで脂肪層に達する。
  2. 1-0ナイロン糸3本ほどを創内に入れる。奥まで入れる必要はない。
  3. ナイロン糸が飛び出てこないように絆創膏で固定。この上はガーゼで覆う。

 ナイロンはあまり細いと創内に入れにくいので,1-0か2-0くらいがいいようである。本数は3〜5本くらいで十分。固定用の絆創膏は滅菌でないものでも良い。
 創が深くない場合は翌日ナイロン糸を除去し,創は吸収性の良い被覆材かガーゼで覆う。創が深い場合は膿の量が少なくなってから(実際は少しくらい膿が出ていても大丈夫なようである)除去するが,ここら辺はケース・バイ・ケースといったところである。

 もちろん,創の消毒は不要であり,創内の洗浄も本質的に必要ないと考える。重要なのはしっかりとドレナージすることである。この意味において,ガーゼよりはナイロン糸(あるいは留置針外筒)の方がより確実なドレナージとなる。
 また,ナイロン糸は「入り口から飛び出ない程度」に入っていれば十分と思われる。


 さらにもう2例ほど。

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  1. 【症例2】前腕背側遠位部の犬咬傷。前日に受傷し,前医で「消毒して抗生剤含有軟膏塗布,その上はガーゼ。さらに抗生剤点滴」の処置を受けていたが,痛みが強く当科を受診した。創口には犬の毛と思われる異物が入っていて,創周囲には発赤が認められた。
    咬傷の局所感染予防に異物(ここでは動物の毛)除去が重要であり,これを残したまま「消毒してガーゼ」をしても無効である事がよくわかる。
  2. 局所麻酔下に創を開いたところ,膿がたまっていた。創の深さは1センチくらいで脂肪層に達していた。
  3. ナイロン糸5本を挿入し,絆創膏固定したところ。局所麻酔が切れる頃には痛みはなくなり,翌日にはナイロン糸を抜去できた。
  4. 【症例3】左手背の犬咬傷。深さは1センチを超えていた。
  5. ナイロン糸3本を挿入し,絆創膏で固定。翌日には痛みはなくなり,発赤もなかったため,ナイロン糸を抜去した。


 なお,動物咬傷といっても脂肪層に達しないもの(=真皮内にとどまっている咬傷)ではドレナージは不要であるようだ。

 また,私の外来では前もってナイロン糸を4センチくらいに切って5本ずつ滅菌したものをパックにしているが,これが結構便利である。

(2003/12/31)

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