低温熱傷の症例,及び,植皮術について考えること


 低温熱傷とは読んで字の如く,低温でじっくりと焼き上げた(?)熱傷のことだ。受傷原因としては,ホットカーペット,湯たんぽ,温風ヒーター,カイロなどちょっと触ったくらいでは熱傷の原因にならないようなものが多い。通常ではこれらで熱傷することはないのだが,知覚鈍磨があるとか,体がうまく動かせないとか,酔っ払って意識を失っていたとか,一酸化炭素中毒で意識がなかったとか,そういうのがあると熱傷の原因になる。

 下の「写真1」で見るように,一見するとそれほど深く見えないのが特徴。しかし,さすがに「低温熟成(・・・とは言わないか)」の威力できちんと治療しているのにもかかわらず,次第に熱傷深度が深くなり,大抵は「写真2」のように3度熱傷に移行する。


 こういう熱傷は,扱いに慣れていないと治療に非常に難渋する。一番多い間違いは,まだまだ熱傷が深くなる時期なのにあせって皮膚移植をして(しかもデブリードマンが不十分だったりする)移植皮膚が壊死するというもの。
 私の経験からすると,低温熱傷と抗癌剤の漏出に伴う難治性皮膚潰瘍は「進行性に深くなる」ことを常に念頭におき,植皮するなら大袈裟なくらいにデブリードマンするか(特に垂直方向を十分に切除する),もうこれ以上悪化する見込みがないところまで待機すべきだと思う。
 これらに早めに手を出すと,碌なことにならない。


 それはさておき,寒さが厳しくなってきたこの時期,皆様の病院,医院に低温熱傷患者が受診した場合,どのように治療したらいいのか,お悩みの方も少ないと思われますので,私の経験例を提示し説明することにします。
 これがベストの方法かどうかはわかりませんが,すくなくとも最も簡便で手抜きができ,そして患者さんの満足度の高い治療法だと自負しています。


 患者は21歳の女性。ホットカーペットの上に一晩寝込んでしまい(慣れないお酒で泥酔したらしい・・・)受傷。

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  1. 初診時の状態。低温熱傷はこのようにくっきりとした局面を作るのが特徴。直ちにハイドロコロイドで閉鎖した。

  2. 6日目の状態。湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)にもかかわらず,3日目頃から次第に創部の皮膚が黒変していった。周囲皮膚に発赤が見られるようになったため,この日,局所麻酔下に痂皮の切除を行った。電気メスで十分に止血した後,アルギン酸塩とフィルムドレッシングで創を密封した。創の大きさは8×6cmであった。
    アルギン酸塩の被覆を6日間続けたが,2日目からはバケツに微温湯(もちろん水道水)を入れてそこで創部と周辺の皮膚を洗わせたが,創痛はあまり強くないということであった。

  3. 痂皮切除から7日目の状態。創面はきれいな肉芽で覆われている。なお,この写真を見てもわかるとおり,患者はジーンズ姿,つまり外来に通院して治療を行っていた。痂皮を除去した時に入院を勧めたが,外来通院での治療を強く望んだものである。ちなみに,仕事は痂皮を除去した日と次の日は休んだようだが,3日目から通常通りに勤務。
    この時期よりドレッシングをポリウレタンに変更。自宅での入浴の際,創部も含めて入浴させ,お風呂から上がったら水気を拭き取り,新しいポリウレタンを貼付させるだけ,という超簡単治療を自宅で続けさせ,外来通院は当初週3回程度から次第に週2回程度とした。

  4. 痂皮切除から18日目。

  5. 痂皮切除から25日目。
    このような「深い皮膚欠損創」の場合,創面を肉芽が覆うのが第一段階,次いで,その肉芽の表面に周囲の皮膚から上皮細胞が遊離してくるのが第二段階であり,この「上皮細胞の遊離・増殖」と「肉芽自体の収縮」により,創は自然閉鎖するのだが,この2枚の写真を見ていると,きわめて速いスピードで上皮細胞の移動・増殖が起こっていることがわかる。
    それこそ「目に見えて治るのがわかる」くらいであり,まさに「毎日観察日記がつけられる」ほどであった。

  6. 痂皮切除から38日目。創は完全閉鎖している。当初の傷の大きさが,8×6cmだったのだから,通常の傷の治り方しか知らない人には,まさに驚異的なスピードだと思う。


 さて,このように「広範で深い」皮膚欠損症例での被覆材の使い分けであるが,私は原則的に「初めはアルギン酸塩,肉芽が上がったらポリウレタン」としている。アルギン酸だけ,あるいはハイドロコロイドだけでも治療可能であるが,時に,肉芽が盛り上がりすぎて "hyper-granulation" と呼ばれる状態になり,上皮化が進行しなくなることがある。

 この時,肉芽を削って平坦にしてやると上皮化は再進行するが,このような場合,ポリウレタンに変えてみると,この素材の厚みと弾力,そして吸水能の高さのためなのかわからないが,盛り上がりすぎた肉芽が急速に平坦化し,上皮化が進行することが多い。。
 写真でもわかるかと思うが,肉芽の部分がやや陥凹しているのがわかるが,ポリウレタンでよくみられるようだ。

 あくまでも私見ではあるが,肉芽が覆った創を最も速く上皮化させるのはポリウレタンではないかと思っている。


 このような症例では通常,植皮術が選択されると思うし,常識的な選択だろう。

 しかし私はこれに異を唱えたい。このような治療スピードが得られるのに,わざわざ植皮を行うメリットはないと考えるからだ。


 植皮はいうまでもなく,体の他の部分から皮膚を採取し,患部に移植する手術のことを言う。当然のことながら,傷の部分がもう一箇所増えることになる。通常,皮膚を採取する部位は殿部とかソケイ部とか,「普段人目につかないところ」が選択されるが,この症例はうら若き女性である。このような症例で,体の他の部分に傷をつけるのは,如何なものだろうか?
 事実,彼女も「他の部分には傷をつけないで治療して欲しい」と強く希望していた。

 また,植皮となると当然,入院治療が前提となる。これは患者さんの生活を大きく制限するものだ。
 その上,植皮をするとこの部位なら間違いなく,ギプス固定かシーネ固定が1週間以上必要となる。これも患者さんにとっては非常に辛い(医者の方は全く辛くないけど・・・)

 治療期間であるが,移植皮膚が落ち着くまでに1週間,歩行しても何をしても大丈夫となるのはさらに1週間後くらいだろう。つまり,最低でも2週間は入院しないといけない(実際には,入院してから手術日までの日数もあるしね・・・)
 常識的に考えると,このくらいの面積に植皮するとなると,最低でも2週間,通常は3週間の入院が必要になるだろう。

上記の症例は完治までに,初診から計算すると45日ほどかかっている。植皮した場合よりは明らかに長い治療期間を要している。
 しかし,この症例が全経過を通じて「外来通院」のみで治療したことを忘れてもらっては困る。彼女は,全経過のうち仕事を休んだのはわずかに2日であり,それ以外の43日は普段通りに生活していたのだ。
 この面でも,外来通院のみで治療ができる「被覆材だけの治療」の方に,明らかなメリットがあると思う。


 以上のような理由からこの方法と植皮では,明らかに被覆材のみの治療の方が患者さんにとってメリットがあると断言する。このようなデータを前にして,植皮を選択するのは馬鹿げていると思う。

 「被覆材だけで治療するのもいいが,瘢痕がつっぱってきたら困るだろう」という反論もあるだろう。しかし,その時はその時。瘢痕がつっぱってきたら(瘢痕拘縮という),瘢痕拘縮形成術を行えばいいのだ。それからでも全く遅くはないし,患者さんも納得するはずだ。


 植皮術は形成外科・皮膚科にとって基本的な手術手技である。だが,現在において植皮術は「他に治療法がなく,仕方なく選択する治療法」だと思う。決して,最初から行う治療法ではない。

 理由は,「出来上がりが醜いこと」「他の部位に傷が残ること」

 皮膚は部位によって質が異なっている。手掌と手の甲を比べてみたってその質の差は一目瞭然。つまり,足の皮膚は足の皮膚であり,お尻の皮膚は足の皮膚にはなりえないのだ。だから植皮はどんなにうまく行ったとしても,継ぎ目がくっきりと残る「パッチワーク」にしかならないのだ。
 従って,人目に触れる部位には絶対に植皮してはいけないのだ(全身熱傷などの特殊なものは除くよ)。形成外科医の立場からすると,露出部への植皮はなるべく避けるべきだと思う。


 植皮がうまくいけば医者は満足しているだろうが,それを受けた患者さんは内心,「変な皮膚が付けられてしまった」としか思っていないはずだ。私が患者だったら,絶対にそう思うだろう。すなわち,植皮術で満足するのは医者であり,患者さんは決して満足していないはずだ。

だから私は,植皮は極力しないように務めている。他に,手技的に難しいが出来上がりがきれいな手術法があったら,それを選択すべきと考えている。


 患者さんのメリットを最優先に考えるのであれば,このような大きな皮膚欠損であっても,植皮を最初にするのでなく,被覆材での保存的治療をまず選択すべきと考える。
 被覆材での治療で患者さんが失うものはないが,植皮を行った場合には,患者さんは確実に失うものがあるのだから・・・

(2001/12/22)

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