低温熱傷,素人が自力で治療中!


 こんなメールをいただきました。

 31歳男性,医療は素人です。
 昨年11月中旬に、湯たんぽで低温やけどを負いました。左下腿部、おおよそ2.5cm×4.5cmの範囲で皮膚が黄色く壊死し、深い第二度〜第三度(?)の受傷となりました。

 都内の某大学附属病院救急科を受診し,湿潤治療による治療を受けていましたが,2週間経過しても治らないため,同じ大学病院の形成外科に行くよう指示を受けました。
 形成外科での診断は「入院して、植皮が必要」とのことでしたが、どうも納得がいかず、また、仕事が大変忙しくて、命にかかわるような怪我でもないのに2〜3週間もの休みは取れないということもあって、自宅で湿潤療法を続けていました。

 被覆材には、穴空きビニールを使った手作りの被覆材や、市販の「キズパワーパッド」、プラスモイスト等を、その時の気分や忙しさによって使い分けています。受傷から通算3週間を過ぎた頃から壊死組織の自己溶解が始まり、剥がれてきた部分は眉切狭を使って自分で切り取りました。
 会社には、受傷当時から経過報告をしており、「入院手術を勧められたが、納得がいかないので自己治療に切り替える。仕事には差支えがないので、通常通り出勤し、万が一の事態があれば即、病院に行く」と伝えて、何の支障もなく仕事を続けています。

 ここからが本題なのですが、実は、某大学形成外科で「手術したほうが良い」と勧められて(脅されて?)以降、経過観察も兼ねて、数日おきに傷の写真を撮っています。自分でデブリードマンしていたときの写真は取り損なってしまったのですが、この経過写真は、貴サイトにおいて「素人の自宅治療でも、ここまでできる」という資料に使えるのではないか?と考えました。
 もし、私の記録が有効であれば、貴サイトの資料として、ぜひ提供させていただきたいと思います。傷自体は、このまま管理を続けていけば、あと2ヶ月もすれば完治すると思いますので、継続して写真を撮って提供させていただきたいと考えております。
 参考までに、最初に撮った写真と、途中経過の写真を2つ、最新の写真の計4枚を添付しています。このようなもので良かったら、お使い頂けないでしょうか?

 救急科での治療は適切だったと思います。「ヤケドは、とにかく洗って乾かないようにするのが一番だ」とおっしゃっていましたし、研修医への指導も的確でした。
 形成外科で受けた処置は、ゲーベンガーゼと植皮手術の勧誘(?)で、なぜ治りつつある傷で、しかも体表の1%にも満たない怪我にわざわざ植皮をしなければいけないのかサッパリ理解できませんでした。
経過です。
  • 11月15日朝:左足の痛みで目が覚める。左下腿部に直径6cmばかりの円形に低温やけどを負っているのを確認。すぐさま氷嚢を作って冷やし、水泡ができないうちに患部周辺を剃毛。これは毛に付いてる雑菌からの感染を防ぐのと、後々の治療であれこれ貼ったり剥がしたりするときの便宜を計るため。
  • 11月15日昼:職場近くの皮膚科を受診。応急処置だけしてもらった後、通常通り勤務して帰宅。
  • 11月16日昼:昨日と同じ皮膚科を受診。設備の整ったところで診てもらったほうが良かろうということで、大学病院に紹介状を書いてもらい、抗生物質(1日分3錠)の処方を受ける。
  • 11月17日朝:大学病院の救急科にて処置を受ける。患部を生理食塩水で洗った後、ワセリンとハイドロサイト(ポリウレタンフォームタイプ)を当ててテガダームで密封するだけの簡単な処置。水泡は自然に潰れるまで保持せよとの指示。
    その足で、サークルの例会に出席。
  • 11月17日夜:水泡が破れたため、ハイドロサイトを外して軽く水抜き。穴空きビニールで覆い、ガーゼで滲出液を吸収できるようにして、市販の防水フィルムで密封。
  • 11月18日:別のサークルの例会に出席。その後、呑み。
  • 11月19日朝:再び大学病院。水泡に穴を開けて、滲出液がわずかに残ってる状態で、再びハイドロサイトを当てて密封。その後、普通に出勤。
  • 11月20日朝:大学病院にて、洗浄とハイドロサイト交換。その後、普通に出勤。
  • 11月20日夜:歩くたびに痛みが出るようになる。
  • 11月21日朝:38度の高熱。外せない作業があったため、やむなく出勤。作業終了後、午後休の申請をして帰宅。
  • 11月21日昼:処方してもらった抗生物質(1/3)を服用。
  • 11月21日夜:抗生物質(2/3)を服用。熱が38度7分まで上がる。火傷の傷から感染症を起こしたと判断。水泡の皮がふやけて汚くなってきたので、自分で切除。傷の縁の部分が一部上皮化を始めていることを確認。
  • 11月22日朝:抗生物質(3/3)を服用。熱は37度6分まで下がる。大学病院にて、血液検査と抗生物質の点滴を受ける。その後、熱の具合によって出勤を検討したが、結局下がっておらず、出勤は断念。職場に電話して、業務の引継ぎを行う。血液検査の結果はやはり感染症を起こしていたとのこと。
  • 11月22日夜:抗生物質の副作用か、微妙な吐き気と偏頭痛に悩まされる。
  • 11月23日朝:大学病院にて、2回目の抗生物質点滴。熱は微熱程度にまで下がる。
  • 11月23日昼:偏頭痛が収まらず、ノーシンを飲んで鎮める。
  • 11月23日夜:平熱に戻る。
  • 11月24日朝:大学病院にて、3回目の抗生物質点滴。点滴はこれで終わり。歩くときの痛みは残っているものの、腫れや熱感はだいぶマシに。内服の抗生物質5日分と、ハイドロサイト(薄型)の予備2枚を受ける。
  • 11月26日頃:壊死組織の周囲で上皮化が停止。
  • 12月3日朝:形成外科への紹介を受ける。植皮手術を強く勧められ、ゲーベンガーゼによる処置と、ゲーベンクリーム数日分の処方を受ける。その後、出勤。
  • 12月3日昼:会社の担当者に、入院手術を勧められたことを伝える。
  • 12月3日夜:患部に電流を流されたような不愉快な痛みが起こるようになる。ゲーベンを洗い流して被覆材を交換すると、痛みが収まった。形成外科医の診断に疑問を抱き、自己治療に切り替え。写真による記録を開始する。ゲーベンクリームは破棄。
  • 12月9日頃〜:壊死部分の周囲が自己溶解を始める。壊死部分に傷をつけて(滲出液に触れる表面積を広げることによって)、自己溶解を早めることを試みる。また、会社の担当者に、手術を拒否したことを伝える。
  • 12月10日頃:患部周囲にひどいカブレ。滲出液によるものと思われる。
  • 12月13日頃〜:壊死部分が剥がれてきたので、痛みの起こらない程度に自分で切除。
  • 12月16日頃:9割方が切除できたので、切り取るのをやめて、あとは自己溶解に任せることに。
  • 12月26日頃:上皮化再開。
  • 1月4日頃:壊死組織がほぼすべて消滅。

被覆材の比較(あくまで主観による自己評価です)
  • ラップ+テープ密封・・・料理用ラップやサージカルテープ(最低でも、ガムテープとか)ならどこの家庭にもあるはずなので、コストパフォーマンスは最も高く、応急処置にもなる。但し、傷の面積が広い場合、健康な皮膚に付着した滲出液でかぶれたり、物がぶつかった時の痛みが大きい。
  • 防水フィルムのみで密封・・・傷の面積が小さい時には最も効率的。貼りっぱなしにしておけば、忘れた頃に治っている。傷が広い時には不向き。ワセリンを塗った上に貼り付けると、粘着剤が効かずに剥がれてしまい、融けだしたワセリンが衣服を汚す場合があるので注意が必要。
  • 穴空きビニール+吸収剤(ガーゼや生理用ナプキン、紙オムツ等)+防水フィルム・・・傷の面積が広い場合に威力を発揮する。滲出液が多い場合、かぶれることも。吸収剤がクッションになるので、多少ぶつけてしまっても平気。私の怪我に限って言えば、壊死組織の破壊効果が最も高かった。
  • キズパワーパッド及びその類似品・・・貼り付けるだけなので、手軽さは抜群。欠点はコストパフォーマンスがかなり悪いことと、剥がすときに毛を持っていかれること。あと、傷の具合によっては、粘着剤がしみることがある。
  • プラスモイスト及びその類似品・・・傷口に貼りつかず、吸収力も優れているのでかなり快適。但し、粘着力はないので、防水フィルムか何かで固定はしないといけない。
  • ハイドロサイト及びその類似品・・・医療機関向けに開発された素材のためか、かなり快適かつ便利。但し、医師の処置という形でしか手に入らない。治療開始から2週間を過ぎると、保険請求の関係で使えなくなる場合がある(私が形成外科に飛ばされたのも、たぶんこの2週間の縛りがあったため)

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 お見事! 素晴らしいです。某大学形成外科の旧態依然とした医者より,この方のほうがよほど優れた観察力と診断力と治療技術を持っています。恐れ入りました。しかも,しっかりと記録を残しているのも素晴らしいです。
 日本形成外科学会と日本熱傷外科学会に,この方の爪の垢でも煎じて飲ませたいです。

(2013/01/07)

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