白癬菌のジレンマ


 白癬菌の主な栄養源であるケラチンは、上皮細胞(皮膚と消化管上皮)の中間径フィラメントを構成するタンパク質で、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類の上皮に存在する。表皮細胞は内部にケラチンを蓄積してやがて死滅し、死んだ表皮細胞(=ケラチンを豊富に含む)が皮膚表面の角質を形成するわけだ。

 角質は「死んだ表皮細胞の蓄積」である以上、水分が乏しいのは当然といえる。だから角質は乾燥している。もちろん、角質と表皮の境目あたりまで行けば水分は多くなるが、逆に酸素は乏しくなっていく。「ケラチンを主な栄養源とする好気性生物」は必ず、このジレンマにぶつかるような気がする。つまり、「ケラチン、酸素、水が豊富にある白癬菌のエデンの園」は正常皮膚には存在しないことになる。

 逆に言えば、このような「解決不能のジレンマ」がある過酷な環境だからこそ、競合相手が少ないだろうし、白癬菌はあえてこのようなニッチで過酷な環境を選んだという可能性もあるのだ。

(2011/11/09)

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