新しい創傷治療:U.M.A.ライジング

《U.M.A.ライジング "Carny"★★(2009年,カナダ)


 未確認モンスター映画って大概はショボくてダサくて見所も何もないという悲惨なものが多いです。もちろんそれを知った上でレンタルDVDを選んでおりますから,余程ひどいものでも今更驚いたりしません。この映画もそういう「最底辺レベル・モンスター映画」でございました。

 ちなみにこういう「B級よりはるか下の映画」ではモンスターがショボイ分,それを補うようにお色気シーンやオッパイシーンが豊富にあったりするものですが,この映画にはそっちの要素は爪の垢ほどもありません。クズがなに格好付けてんだよ,お高くとまっているんじゃないよ,と文句を言いたくなりますね・・・別にオッパイが見たいわけじゃないけどさ。

 ちなみに監督はちょっと前に紹介した《リビング・ブラッド》のシェルドン・ウィルソンさん。


 舞台はネブラスカ州のちっぽけな町リライアンス。映画はモンスターを運んできた業者とそれを買い取ろうとする見世物小屋のオーナー,カプリーニのやりとりから始まります。どうやら,伝説のモンスターがブツのようで,モンスターの様子がちらっと見えます。すると突然,カプリーニは男をナイフでブスリ! 男はあっさりと殺されちゃいます。どうやらこのカプリーニさん,チェンとかいう男にモンスターを高額で買い取ってもらう予定なんですね。

 舞台は移って町の保安官サム登場。この手の映画で常連のルー・ダイアモンド・フィリップスさんです。ちなみにフィリピン出身の俳優さんだったと思います。彼にコンテナ車が乗り捨てられているという連絡が入り,そこに駆けつけます。そしてナンバープレートからニュージャージー州の車であることがわかります。モンスターの正体を知る重要な手がかりなんですが,日本人には何のことだかサッパリわかりません。そして同僚から彼のもとに「牧師様が例のカーニバルについて文句を言っている」と連絡が入ります。信心深い牧師さんは奇形人間やら「悪魔のようなモンスター」やらが登場するカーニバルは悪魔の所業と考え,断固反対なのです。そして息子のテイラー君に「こんな穢らわしいポスターなんぞ剥がしてしまえ!」と命じて自分は伝道所に向かいます。

 このテイラー君,パパの前ではいい子ちゃんなんですが,パパが見ていないところではごく普通のアメリカンな青年でございまして,悪友のジェシーくんと酒でも飲もうと森の奥にある廃屋に向かいます。一方のジェシー君,お店を経営するママの前ではいい子ちゃんですが,ママが見ていない隙を狙ってお店の酒をちゃっかりとちょろまかしちゃいます。もちろん向かう先は森の廃屋。ま,この手のB級モンスター映画に必須登場人物である「アホバカ二人組」ですな。

 一方,保安官サムは牧師様が「カーニバルの連中は本当に許可証を持っているのか?」とあまりにうるさいため,見世物小屋に向かいます。ここでは火のついた棒でジャグリングをしているやつとか,いかにも怪力に見える巨漢おっさんとか,予知能力を持つ千里眼美女とかに出会います。ここで一番目立つのが顔面の先天異常と思われるフリークさんです。正中顔面裂そっくりなんですが,鼻孔が4つありますから正中顔面裂ではなく,発生的にもこのような先天異常はありえません(私一応,体表先天異常については専門家だぞ)。従ってこれは単なる被り物だということがわかります。

 ま,それはどうでもいいけど,カプリーニは千里眼お姉さんに「保安官の未来も見てあげなさい」と命じますが,彼女にはサムの死が見えてしまいます(・・・もちろん,サムには黙っているけどね)。これも伏線ってやつだな?

 でもって,ちょっとグダグダしたエピソードがあって,いよいよカーニバルの始まり始まり。牧師様のテイラー・パパは入口のところで「これは悪魔の所業。神はお許しにならない」なんてアジを飛ばしております。しかし,怪物のテントの前は長蛇の列。もちろん,ジェシーとテイラーの悪友二人組も酒を飲みながら並んでいます。みんな,牧師様のお説教よりモンスターが見たいんだね。

 そしていよいよ,カプリーニさんの長い長い前振りの後,ついにモンスターさんが入っている檻の覆いが取られ,モンスターさんご登場! 羽が生えていて悪魔さんそっくりの怪物くんでございます。でも,サイズは大きくなくてせいぜい「大きめの犬」くらいですね。一応,麻酔銃を打たれているんですが,それでもギャーギャー騒いでおります。すると,前方の席に坐っていた酔っぱらいテイラー君が「なんだよ,全然怖くねーじゃん」とか言いながらピーナツみたいなのをバシバシと投げつけます。怒り狂った怪物くん,ついに鎖を固定している杭を引っこ抜き,檻の外に大脱走! ここでは誰を襲うでもなく,そこらを飛び回った後、外に逃げ出します。もちろん,会場はパニック。
 ちなみにこのシーンで,「モンスター,モンスターって騒いでいるけど,普通の犬サイズじゃん」と拍子抜けしてしまいますが,ここは頑張って「これはモンスターなんだ」と脳内変換してください。

 カーニバル会場から逃げ出したテイラー&ジェシーの悪童二人組はなぜか森の廃屋に逃げ込みます。壊れかけた廃屋より,普通なら自宅に行って地下室にでも逃げこむのが常識なんですが,パニックを起こした二人は廃屋を目指すのでありました。まぁ、パニック映画で一番最初に死ぬのはこういうタイプと相場が決まっていますから、お約束ってやつだね。そしてどうやら酒でも飲んだらしく,二人は廃屋のソファーでのんきに寝てしまいます。廃屋のソファーで眠りこける二人は豪胆というか些細なことを気にしない大人物のようです。

 もちろん,それを見逃すモンスター君ではありませんからすぐに二人を襲います。廃屋ですから簡単に壊されます。だから廃屋はよせ,危ないって言ったんだよ。ジェシーくんは廃屋の外に放置されていた車の中に逃げ,テイラーくんは川のほうに逃げ,橋の下に逃げ込みますが,結局テイラー君が食われちゃいます。なぜ君はもっと安全なところに逃げない? そして何とか逃げ出したジェシーくんは通りかかった車に助けられ,保安官が駆けつけます。保安官はテイラー君のグチャグチャ死体を回収して保安官事務所に連絡し,テイラー・パパの牧師様も到着。変わり果てた息子の姿(の一部)を見て,保安官サムに「こうなったのはあいつらを許したお前のせいだ。あいつらをぶっ殺してやる!」と牧師様らしくない罰当たりな言葉をわめき散らします。

 一方,さらに捜査を続ける保安官はさらにコマ切れ死体を見つけます。すると保安官の様子を遠くから見張る男が二人。カプリーニ君とその部下です。どうやらその死体は最初にカプリーニ君が刺殺した業者で,部下がバラバラ死体にしてそこに捨てたらしいです。そしてそこにモンスター君が襲いかかってきますが,いろいろあって,カプリーニ君が助手君を殺して木に縛り付け,モンスター君をおびき出す餌とします(カプリーニ君,やることがどんどんエスカレートしていきます)。そこにやってきた牧師様も襲われますが,カプリーニ君が落とした麻酔銃を手に取り,間一髪でモンスターに打ち込みます。捕獲成功です。

 捕まえたモンスターをトラックの荷台に載せた牧師様は信者たちに「悪魔の化身,悪魔の信者であるカーニバルに火を放て! 皆殺しにしろ!」と号令をかけます。血に飢えた牧師様と信徒の皆さんはカーニバルのフリークたちを大虐殺! 十字軍で異教徒を殺しまくった伝統,ここでも生きています。しかし,捕獲されたはずのモンスター君は実は生きていて(・・・麻酔銃だけなんで死ぬわけないよ・・・って,なぜそれに気がつかない牧師様),目を覚まして暴れだします。牧師様,呆気無くモンスターに食われちゃいます。

 そこに登場するのが我らがヒーロー,ルー・ダイアモンド・フィリップス! いろいろあって,車に乗り込んだ保安官が観覧車の鉄塔の車の間にモンスター君を挟み込んで押し潰しちゃいますが,その時勢い余って鉄塔を倒してしまい,折れた鉄骨がサムを直撃! そこに登場した千里眼美女ちゃんが「なぜあなたはここまでするの? 死ぬとわかっていたのに」といいますが,サムは格好良く「それが俺の仕事さ」とか言いながら,彼女に抱かれて神の御許に直行便の片道切符を持って旅立つのでありました。


 というわけで,ヒーロー役の保安官も,モンスターも,牧師様も,牧師の息子も,その悪友も,カプリーニ君も,カプリーニ君の部下も,最初にモンスターを持ち込んだ業者も,ほとんど死んじゃう映画です。セリフのある登場人物で最後まで生き残るのは千里眼美女ちゃんだけじゃないでしょうか。映画監督さん,最後の方は面倒くさくなって全部殺しちゃったのかな?

 それにしても,このモンスター,どこで誰がどうやって見つけたのか,そもそもそいつは何なのか,一切説明がありません。一応,ニュージャージーから運ばれてきたため,アメリカではちょっと有名な「ジャージー・デビル」ってやつと思われますが,一言くらい説明があってもよかったと思うよ。

 それと,モンスターというからにはもうちょっと大きく作ってもらわないと面白くないよね。せめて牛とか象くらい大きくないと迫力がありません。映像を見ている限りでは,「ちょっと大きめの吸血コウモリがバタバタ飛んでいる」くらいにしか見えないんですよね。それと,モンスターの正体が全く明かされないためもあるんですが,強いんだか弱いんだかちょっとビミョーです。象も眠るくらいの麻酔銃を打たれてもすぐに起きてくるし,ライフルの弾は何発くらっても大丈夫。それなのに,車に挟まれて死ぬってどうよ。


 それと,牧師様がこれ程カーニバルを忌み嫌う理由もイマイチ不明。「悪魔」の文字を見て「神への冒涜!」と考えたのかもしれませんが,この牧師様の前ではサッカーの話をしても「赤い悪魔」なんて単語を口にできませんね。その他にも,「蜂蜜が好きなディズニーキャラって・・・ああ,クマのプーさんね」とか,「灰汁? 豆も煮たから多いんだね」とか会話するのも,この牧師様の前では禁句ですね。撃ち殺されちゃいます(・・・なぜ禁句かはわかりますよね?)

 そういえば,「ジャージー・デビル」君に殺される人数は大した数じゃないんですが,それよりはるかに多くの人間が,牧師様の信者に殺されております。ある意味,真の殺人鬼集団であり,怖さはジャージー・デビルの比ではありません。一番怖いのは狂信者なんだよ,ということを教えたかった映画なのかもしれません。


 さぁ,君はこういう映画をレンタルして観る勇気があるか?

(2011/05/06)

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