アキレス腱術後の難治性潰瘍


 症例は30代女性。7月7日にバレーボールの試合中に右アキレス腱を断裂。同日,腱縫合術を受ける。術後は問題なく経過したが,術後2週目頃より縫合創部から滲出液が続き,創離開して瘻孔を形成した。
 術後1ヶ月目の8月11日,当科を紹介された。

8月11日 瘻孔は深さ1センチ以上


 しばらくナイロン糸ドレナージで経過を見ていたが,瘻孔の深さに変化がないため,9月11日に局所麻酔下に創内を観察した。病的肉芽の方向に皮膚を切開して異物などの原因を探ったが,縫合糸などの難治性となっている原因は不明だった。緊張の強い創の中央は縫合せず,ここにペンローズドレーンをいれて閉創した。創部はプラスモイストで被覆した。術後の抗生剤投与は行っていない。
 術後2日目にドレーンを抜去し,以後,創部も含め入浴させていた。歩行制限は行わず,患部をよく動かすように指導した。

9月11日 9月18日の状態


 創中央部はアキレス腱に達していたが,創周囲の発赤などの症状はなく,プラスモイストの被覆を続けた。

10月3日 10月9日


 10月中旬には創は肉芽で平坦になり,深部に通じる瘻孔もなくなった。この頃から滲出液も少なくなった。歩行は当初松葉杖歩行としたが,11月頃から杖なし歩行となった。

10月30日 11月18日


 年末のあたりで滲出液は完全に出なくなり,上皮化した。年明けの1月8日まで観察していたが,問題なく治癒している。また,瘢痕拘縮もなく,運動障害はなく普通に歩行している。

12月16日 1月8日


 湿潤治療をしている医者にとっては,珍しくも何ともない症例であり,ごく普通の経過である。ドレナージが利いていれば感染することはないし,乾燥を防ぎ,消毒薬や各種軟膏のような余計なものを使わなければ,アキレス腱が露出していてもその上に肉芽が上がり,創はきれいに治癒する。
 また,この症例を見るとわかるが,患部の安静は有害無益である。運動させていれば「運動に耐える柔軟な瘢痕」で治癒するが,運動を制限して患部を安静にすると「動きに対処できない硬い瘢痕」で治癒する。

 ちなみに,傷を切っただけでなぜ治ったのか。もしかしたら,最初の瘻孔は「創縁にかかる緊張が高い」⇒「創縁の循環不良」⇒「治癒が遅れる」⇒「瘻孔化」という経過で発生したものではないだろうか。だから,切開して開放創としておいただけで治癒したのではないだろうか。

(2009/01/09)

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