従来の熱傷治療での瘢痕


 湿潤治療を15年くらいしていると,それ以前の症例がどのように治っていたのか,すっかり忘れてしまいます。そして,湿潤治療の治り方が普通だと思ってしまいます。そのため,たまにちょっとでも瘢痕を残して治った患者に遭遇すると,とたんに慌てたりします。

 そこで,原点回帰というわけではありませんが,従来の熱傷治療(=現在の日本熱傷学会御推奨の治療)ではどのような状態で治っていたのかをまとめて記録しておこうと思います。「昔はこういう治り方が普通だったんだ」ということがわかると,湿潤治療のありがたみが倍増するはずです。

 なお,私は熱傷ケロイド,肥厚性瘢痕,瘢痕拘縮の症例写真はほとんど手元にありません。もしも,ケロイドや肥厚性瘢痕の写真をお持ちの先生がいらっしゃいましたら,是非,送っていただけましたら幸いに存じます。


 50代女性。3月31日,天ぷら油で右足に熱傷受傷。某総合病院皮膚科で治療を受けた。その後,湿潤治療をテレビで知り,8月12日に当科受診。足趾の動きは高度に制限されている。

 以前はこういう肥厚性瘢痕ばかりだったなぁ,という典型例。こちらの症例と比較すると,同じ肥厚性瘢痕といっても程度はかなり違うことが分かる。また,こちらの症例は日常的にスポーツを楽しみ,歩行障害,運動障害はない。


 10代前半の女性で,数年前受傷の熱湯での左下腿熱傷。自宅近くの総合病院形成外科で保存的治療を受けていた。ネットで湿潤治療のことを知り,少しでも綺麗にならないかということで県境を超えて受診された。

 非常に分厚い瘢痕で治癒している(正常皮膚より1センチほど高い!)。これを「治癒」と呼ぶと普通の人は「この状態で治っているの? これはまだ治っていないヤケドでしょう?」と驚くと思うが,専門的にはこれを「瘢痕治癒」と呼び,局所治療は一旦終了となり,あとはステロイド軟膏,リザベン内服,シリコンシート貼付などが行われる。このくらいの肥厚性瘢痕になると,はっきり言うとどれもほとんど効かない。中でも,頻用されている割にまったく効かないのがヒルドイド・ソフトである。ちなみに小林製薬のアットノンはヒルドイドそのものであり,生物学的,化学的に疑問のある薬品である。


 湿潤治療に切り替える前の私の治療例(幼児)。昔はこれが当たり前の治り方で,疑問にすら感じていませんでした。ちなみに,足背は運動障害を生じたため,その後,Z形成術を行なっています。

膝蓋外側部 足背


(2012/06/13)

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