肘の部分のなかなか治癒しない傷についてのお問い合わせがあった。肘のあたりをちょっと傷つけ,その小さな傷が何ヶ月も治らない。治ったと思うと腫れてきて膿が出てきて,病院で消毒をしているうちにやがて傷が閉じちゃうんだけど,1ヶ月もしないうちにまた腫れてきて・・・の繰り返し,という傷。
外科医としては傷が治らないと困るわけで,傷を縫合したりするんだけど,抜糸の頃になると傷が開き,また元に戻っちゃう。
このような症例,決して珍しくない。従来からの「消毒と軟膏,ガーゼ」あるいは「創縁のデブリードマンと縫合」では極めて難治性で,延々と病院通いをしている患者さんも多いことと思われる。
「難治性」であるということは別の言い方をすると,治療方針・治療の方向が間違っている,あるいは病態の把握が間違っている事を意味する。治療法が間違っているから治らず,難治性となってしまう。考えてみればごく当たり前。
このような症例では大抵,肘の尖ったところに小さな傷があり,そこから少量ずつでも浸出液の漏出が続いているはずだ。いかにもその「小さな傷」さえ治ればいいように見えるが,これが根本的な勘違い。浸出液があるのに表面を縫合すれば中に浸出液が溜まり,やがて破裂して創離開するのは当たり前なのである。
こういう場合,傷の入り口は小さいものの,皮下には広範なポケット形成を伴っていることがほとんどだ。このポケットをなくす手段を講じずに,入り口だけを縫って閉じさせようと言う治療計画そのものに無理があるのだ。
こういう症例,基本的な病態としては最初の小さな傷から肘部皮下に感染が及び,感染性滑膜炎(・・・というのかな?)を併発したものではないかと思う。前述のように,ポケット内面からの浸出液分泌をどうにかしない限り,傷が閉じることはないだろう。
で,治療方法としては二つ考えられる。
一つは無水エタノールなどをポケット内に注入してポケットをつぶしてしまう方法。もう一つは,ポケットを切開する方法。前者の方法はリンパ嚢腫やガングリオンの治療にも使われているので,効果は期待できるかもしれない(私は試みたことはないが・・・)。後者の「切開法」であるが数例の治療経験があるので,その一例の経過を提示する。
症例は50代半ばの女性。基礎疾患としてSLEがあり,ほぼ寝たきり状態。肘部の難治性潰瘍につき紹介された。いつからあるかは不明だが,家族が気がついてから1年以上経過し,前医(内科医)では消毒とガーゼで処置していた。
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この症例の場合,全身状態を考えて切開だけにしたが,もちろん,早期の創閉鎖を考えるのであれば,分層植皮も可能だろう。
私は外傷,創傷治療においては2週間同じことをしても改善が得られない場合,治療方法が間違っていると判断し,次の方法を考えることにしている。2週間続けてきて改善がないのに,あと2週間続けて改善するとは思えないからだ。
同様に,2回同じ手術をして同じ失敗をした場合も,その手術の基本的方法論が間違っていたと考えることにしている。要するに,2週間(2回)続けてだめなら,発想を変えよう,という考えですね。
基本的に「様子を見ましょう」という考えが嫌いというか,単にせっかち,というだけですけどね・・・。
でもこの「2週間続けて駄目なら発想を変えよう」という発想は大事だと思う。抗生剤なんかもそうで,1週間投与しても症状が治まらないのなら,それは抗生剤がその細菌に効いていないか,患部に到達していないかのいずれかですよね。
(2002/03/29)