ポケット形成した難治性潰瘍 −その2−


 同様の症例として,ポケット形成のある難治性潰瘍の治療例。

 症例は76歳の男性。3ヶ月前に下腿外果部に低温熱傷を受傷。自宅で市販薬による軟膏治療を続けていた。肺炎で当院に入院した際,主治医に相談し,当科紹介となった。


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  1. 初診時の状態。外果が一部露出しており,全周性に骨に沿って7〜8mmの深さのポケット形成があった。
  2. 直ちに局所麻酔下にポケットを切開。止血もかねて,アルギン酸塩で被覆した。
  3. 浸出液が少なかったため,術後3日目よりハイドロジェルとフィルムドレッシングでの密封に切り替え,同時に,プロスタグランディンE1の点滴も開始した(プロスタンディン 60μg×2/dayを2週間連続)。
  4. 12日目の状態。全体を健康な肉芽が覆っているのがわかる。この頃からポリウレタンの被覆に切り替えた。
  5. 25日目の状態。上皮化の進行,および肉芽自体の収縮により,創は著明に小さくなっている。
  6. 46日目の状態。完全に上皮化していて,ドレッシングも不要としたが,潰瘍の再発はなかった。


 形成外科あるいは整形外科の医者なら誰でも知っているように,この部位の難治性潰瘍を手術的に治療しようとすると,結構大変である。骨を削って出血させ,人工真皮で覆って二次的に植皮するか,皮弁で閉鎖するか,普通はどちらかだろうと思う。しかも,皮弁で覆うにしても,この部位は組織の余裕がないため単純な局所皮弁での閉鎖は困難で,逆行性腓腹動脈皮弁か足背動脈皮弁などの本格的な皮弁でないと苦しいと思われる。

 このような症例に対し,ポケットを切開して被覆材で密封するだけで1ヵ月半で治癒が得られるのだから,手術に踏み切る前に駄目もとでいいからこのような治療を試すことは意味があると思う。


 なお,このような場合,プロスタグランディン(PGE1)の点滴で局所の循環を改善することは重要である。循環が悪くてはどんな薬を使おうと,反応しようがないからだ。要するに,「血の巡りをよくしてやろう」という事である。
 実際に点滴を開始すると,局所の皮膚色は数日で改善し,いかにも「生きが良さそう」な外観を呈するのはよく観察される。

 SLEやScrelodermaなどの膠原病で指尖部の循環不全から難治性潰瘍となり,骨露出をみる症例は少なくないが,このような場合も,PGE1の点滴を行いながら軟膏療法,被覆材による密封療法を行うと,案外簡単に創閉鎖が得られることが多い。


 なお余談であるが,この患者は多少(?)ボケ気味で,家族との会話も少々怪しいほどであったが,PGE1を2週間点滴したあたりから会話がしっかりしてきたらしく,家族がびっくりしていた。
 もしかしたら「頭の血の巡りがよくなった」からじゃないのかなぁ?

(2002/03/08)

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