胸部難治性瘻孔の治療例


 前回,ポケット形成した褥瘡(難治性潰瘍)は切開したほうが速く治癒する理論的背景を示しましたが,その実例を提示します。とりわけ,術後や外傷による「ポケット形成した難治性潰瘍」の場合,これは極めて効果的です。


 症例は70代の女性。外科で乳癌の手術(縮小手術)を受け,術後放射線治療を受けましたが,術後,創縫合部が離開し,皮下に瘻孔を形成したものです。外科では術後3ヶ月にわたり,創部の消毒とドレナージ(ペンローズドレーン,ガーゼドレーン)を続けていましたが,全く治癒しないため,当科紹介となりました。
 この期間,患者は「入浴してもいいけど,お臍まで。胸部は濡らさないように」と指導されていました。病院の近所に住んでいたため,週3回の通院をしていました。

 患者の治療経過の写真を提示します。

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  1. 初診時の状態。右側胸部に直径5mmほどの瘻孔があり,ゾンデで探ると腋窩方向に5cm以上の深さがあります。
    胸部全体は垢まみれで(写真撮影のため,瘻孔周囲の垢は落としてありますが・・・),放射線照射による発赤が見られます。
  2. 直ちに局所麻酔を行い,瘻孔を全長にわたり切開。瘻孔の天井部分の皮膚は完全に切除し,「露天掘り」の様にしてあります。
    切開後はアルギン酸塩とフィルムドレッシングで被覆し(止血のため),翌日からは,ハイドロジェルを使用(浸出液が少なく,乾燥気味だったため)
    なお,瘻孔周囲の皮膚は放射線照射のためフィルムドレッシングではビランを生じたため,その後は「ハイドロジェルとポリウレタン」による被覆としましたが,これでビランは軽快しました。切開後3日目から,「創部も一緒に入浴」を開始。
  3. 切開後13日目の状態。肉芽が盛り上がり,創全体の収縮が始まっているのがわかります。この頃から,ポリウレタンのみのドレッシングとしました。
  4. 20日後の状態。
  5. 31日目の状態。ごくわずかに肉芽の部分が見えますが,ほとんど上皮化していることがわかります。
  6. 2ヶ月目の状態。どこに傷があったのか,全くわかりません。


 外科の手術後,あるいは各種のドレーン抜去後に,難治性瘻孔が生じることはまれではありません。そしてこれらは極めて「難治性」です。私も何度も泣かされました。

 このような「瘻孔」ができて2週間治療しても改善しない場合,それは治療法,治療方針が間違っていたと判断すべきと考えます。2週間続けても改善しないのは,その方法が間違っていたからです。2週間続けて状況が改善していないのに,さらにそれを3ヶ月続けても状態が改善するとは考えられません。こういう場合は,全く違う発想を採用すべきです。

 難治性瘻孔を切開するのはとても勇気が要りますが,ここは一つ,腹を決めて切開しましょう。

(2002/03/06)

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