痂皮ができてしまった挫創の治療


 受傷して丸一日以上経過して受診した擦過傷,挫傷でガーゼをあてられていたり,「出血していないからそのままでいいよ」と「開放治療」された場合,しっかりと痂皮が覆っている。もちろんそのままにしていると,しっかりと跡が残ってしまう。
 このような傷をきれいに治すには,まず痂皮を完全に除去し,受傷時の状態に戻してやることが大事。つまり「リセットボタン」を押すわけだ。その上で被覆材による「湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)」にすると,ほとんど跡も残さずに治癒する。


 症例は30代前半の女性。交通事故で前額部に多発裂挫傷を受傷。脳外科で初期治療を受け,丸一日以上たってから形成外科を紹介された。もちろん,脳外科での治療は消毒のみで,「出血していないからこのままでいいよ」と全くドレッシングしていなかった。


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  1. 初診時の状態。額中央に広い創面を認める。本人も傷の状態を見てかなり精神的ショックを受け,また彼女の子供は傷を見て泣き出してしまったという(何しろガーゼも何も覆っていないから,まともに見てしまった)。また,傷が乾いているため,疼痛も強かった。
  2. 直ちに局所麻酔下に徹底的に歯ブラシでブラッシング。創内に残っていたガラスも除去(結構,残っていたぞ)
  3. 出血は気にせず,直ちにアルギン酸塩で被覆し,フィルムドレッシングで密封。
  4. 翌日から,薄いハイドロコロイドでの密封に切り替えた。痛みが完全になくなったことでまず感謝される。
    この日から患者にハイドロコロイドを渡し,入浴時・洗髪時・洗顔時にはドレッシングを剥がして洗わせ,水気を拭き取ったあと貼付するように指導。写真のようにほとんど目立たないため,患者も気に入っていた(ちなみにここではテガソーブを使用)
  5. 治療開始4日目の状態。大き目のガラスを除去した2箇所を除き,きれいに上皮化している。
  6. 治療開始14日目の状態。よほど近くに寄らないと,跡は全くわからない状態になっている。この時点で被覆材による閉鎖は中止し,遮光に注意するように説明(遮光クリームなどで。これは非常に重要),同時にケロイド,肥厚性瘢痕の予防のためにトラニラスト(リザベン)の内服を開始した。


 患者さんによると,受傷直後の状態を見ている人は「大変な事故だったね」と心配して優しくしてくれたそうであるが,私が治療を開始して2日目に見た人は「なんだ,ほとんど傷もないんじゃない」と全く怪我人扱いしてくれなかったそうである。

 このように受傷後に一日以上経過して,創面を痂皮が覆っている場合,たとえ痂皮が小さかったり線状だったりしていても,局所麻酔下に全て徹底的に除去し,そこから治療をスタートさせるべきである。特に,線状の傷が瘢痕治癒した場合,その瘢痕をあとから修正するのは,案外大変なことが多いので,この作業は非常に大事である。


 なお,この患者さんの場合,「なぜ,麻酔をして痂皮を除去しなければいけないのか」を,同じような外傷患者の「治療前・治療後」の写真を見せながら時間をかけて説明し,患者さんが納得してから治療を開始した。このような治療において,症例の写真を撮影しておくことは非常に重要だと思う。

 そして何より,前例の写真を見ることで患者さんが「この治療を受けていれば,1週間で跡形なくきれいに治る」と希望と確信を持って治療を受けてくれ,治療に非常に協力的になってくれたが,これも治療を行う上で重要だろう。

 同時に私は,処置中に「なぜ消毒してはいけないのか,なぜ乾かしてはいけないのか」をわかりやすく(・・・多分わかりやすいと思う)説明している。このような「新しい」治療を始める為には,このような「患者に対する啓蒙活動」も絶対に必要である。

(2002/02/15)

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