受傷して丸一日以上経過して受診した擦過傷,挫傷でガーゼをあてられていたり,「出血していないからそのままでいいよ」と「開放治療」された場合,しっかりと痂皮が覆っている。もちろんそのままにしていると,しっかりと跡が残ってしまう。
このような傷をきれいに治すには,まず痂皮を完全に除去し,受傷時の状態に戻してやることが大事。つまり「リセットボタン」を押すわけだ。その上で被覆材による「湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)」にすると,ほとんど跡も残さずに治癒する。
症例は30代前半の女性。交通事故で前額部に多発裂挫傷を受傷。脳外科で初期治療を受け,丸一日以上たってから形成外科を紹介された。もちろん,脳外科での治療は消毒のみで,「出血していないからこのままでいいよ」と全くドレッシングしていなかった。
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患者さんによると,受傷直後の状態を見ている人は「大変な事故だったね」と心配して優しくしてくれたそうであるが,私が治療を開始して2日目に見た人は「なんだ,ほとんど傷もないんじゃない」と全く怪我人扱いしてくれなかったそうである。
このように受傷後に一日以上経過して,創面を痂皮が覆っている場合,たとえ痂皮が小さかったり線状だったりしていても,局所麻酔下に全て徹底的に除去し,そこから治療をスタートさせるべきである。特に,線状の傷が瘢痕治癒した場合,その瘢痕をあとから修正するのは,案外大変なことが多いので,この作業は非常に大事である。
なお,この患者さんの場合,「なぜ,麻酔をして痂皮を除去しなければいけないのか」を,同じような外傷患者の「治療前・治療後」の写真を見せながら時間をかけて説明し,患者さんが納得してから治療を開始した。このような治療において,症例の写真を撮影しておくことは非常に重要だと思う。
そして何より,前例の写真を見ることで患者さんが「この治療を受けていれば,1週間で跡形なくきれいに治る」と希望と確信を持って治療を受けてくれ,治療に非常に協力的になってくれたが,これも治療を行う上で重要だろう。
同時に私は,処置中に「なぜ消毒してはいけないのか,なぜ乾かしてはいけないのか」をわかりやすく(・・・多分わかりやすいと思う)説明している。このような「新しい」治療を始める為には,このような「患者に対する啓蒙活動」も絶対に必要である。
(2002/02/15)