シャンプーと携帯電話:洗脳の構図


 石鹸,シャンプーについて考えるとき重要な点は,私と同年代の日本人は物心付いたときからシャンプーが身の回りにあり,シャンプーを使わない生活を経験したことがないという点にあります。例えば,エメロンがシャンプーを売り出したのは1965年ですから,現在40歳の人は生まれた時からシャンプーと共に生活してきたわけです。生まれたときからシャンプーをしてきたために,シャンプーを使わない生活がそもそも想像できないのです。シャンプーをしないとどうにかなるんじゃないかと不安でしょうがなくなるのです。

 しかも,物心付いてからずっとテレビコマーシャルで「頭皮は油で汚れている」「頭皮の汚れはシャンプーで落としましょう」「フケの原因は頭皮の汚れ」「皮脂で頭皮が覆われると痒くなる」と繰り返し繰り返し宣伝が流れています。これはもう洗脳というしかありません。

 北朝鮮の人たちが「北の将軍様」がいない生活を想像できないのと同様,私たちはいつの間にかシャンプーのない生活が考えられなくなっているのではないでしょうか。


 同じことはテレビにも言えます。私は小学校1年生のときに自宅にテレビが来たことを覚えていますが,テレビのない時代の生活のことはおぼろげしか覚えていません。そして私より5歳くらい下の世代では,間違いなく,物心付いた頃からテレビが家庭にあったはずです。こうなるとテレビのない生活は想像できないし,一人暮らしをはじめたときに一番最初に買う家電はテレビだったはずです。テレビ番組が見られないとどうなるか,不安でたまらないからです。

 今の高校生にとってそれは携帯電話でしょう。彼らに聞いてみるとわかりますが,携帯電話がない生活は考えられないと言うはずです。彼らにとって,携帯電話がなければ友達(社会)と繋がる手段がないからです。その手段を奪われることは高校生にとって社会的死に等しいものかもしれません。

 しかし,私の年代の人間は携帯電話がない時代が長かったので携帯電話がなくてもどうにかできることは知っているし,テレビがなくても生活は可能です。これはシャンプーも同じではないでしょうか。

 20世紀半ばにシャンプーという商品が売り出される以前にはシャンプーは存在しなかったし,それ以前の時代は水(あるいはお湯)で頭皮と毛髪を洗い,それで健康な頭皮を維持してきたのです。


 ちなみに,あまり人にお見せするものではありませんが,前夜に「シャンプーなし温水洗髪」をして翌朝起きたばかりの私の頭皮の状態です(後頭部の毛が薄くなってきたんじゃないの,って言わないでね。本人も気にしているんだから)。寝起きの状態ですが,フケがほとんど見当たらず,「頭皮の汚れ」とテレビコマーシャルが言うものも見つけられないと思うのですが,いかがでしょうか。撮影に使用したのは下記のDino-Lite Plusです。

前頭部 側頭部 頭頂部


 例えば,「耳掻きがなく,外耳道は耳垢用シャンプーで洗って耳垢を洗い流す」という文化があったとします。この文化ではいずれ,痒みを訴えるユーザーが増えるために,シャンプー後の外耳道用リンスやコンディショナーが発売され,その後,「耳に優しい弱酸性シャンプー」が商品化されるはず。それでも外耳道の痒みやただれを訴える患者がいたため,これに「アトピー性外耳道炎」という病名が付いて次のような経過をたどるはずです。

  1. アトピー性外耳道炎専用の外用薬が販売される。
  2. アトピー性外耳道炎学会が設立される。
  3. 病態の研究が進む。
  4. 患者血中からさまざまな抗原が発見され,ハウスダクト,花粉,傷表面のS.aureusなどの細菌,食物アレルギー・・・などさまざまな原因が特定される(・・・ちなみに,皮膚が荒れるとさまざまな物質が体内に直接入ってしまうため,このような患者の血液を調べると抗原はウジャウジャ出てくるはずだが,研究者にはそれらを全てが「原因」に見えてくる・・・)
  5. それぞれの原因に応じた治療法がさまざま開発される。
  6. 学会が専門医を認定。
  7. 学会推奨の治療をしても,あまり治らない。
  8. アトピー性外耳道炎は難治性疾患というのが社会の常識になる。
  9. 「痒いと思わなければ痒くない」と主張する精神療法が出現。
  10. 「アトピー性外耳道炎を治す神様水」という水を売るインチキ新興宗教が登場。
  11. 信仰心が足りないからアトピーが治らない,この宗教を信じれば・・・という宗教出現。
・・・という状況になったはずです。「耳垢は耳垢専用シャンプー(石鹸)で落とすもの」というのが常識になっていて,テレビコマーシャルでは繰り返し,その商品を使わないと外耳道が臭くなる,痒くなると宣伝しているから,それを疑う人はいません。

 こういう状態で,「アトピー性外耳道炎」の治療はどうしたらいいでしょうか。


(2008/02/12)

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