前腕全周性熱傷:プラスモイスト使用例


 症例:50代男性。仕事中の自己で熱湯で左前腕,左頚部に熱傷を初診からし,近医で治療を受けていたが,その病院での治療に不安を覚え,初診からから3日目に当科外来を受診。初診時,38.9℃の発熱を認めた。

前腕伸側 尺側〜屈側

 初診時の状態。左前腕は全周,全長にわたり熱傷を認め,巨大な水疱が覆っていて水疱液は混濁していた。強い創部痛を訴えた。


水疱除去後の伸側 屈側

 水疱膜を除去した直後の状態。白色ワセリンを薄く塗布したプラスモイストで創面を被覆し,セファメジン2gを点滴した。点滴終了時に体温は37.5℃となり,創部痛も消失したため帰宅させた。


初診から6日目の伸側〜尺側 6日目の屈側

 既に上皮化している部分もあるが,創中心部が白っぽくなり,やや深いことがわかる。


初診から8日目の伸側〜尺側 8日目の屈側

 この頃,37.8℃の発熱と軽度の創部痛があり,セファメジンを点滴。1回の点滴で発熱と創部痛は軽快した。


初診から16日目の伸側〜尺側 16日目の屈側

 上述の白い部分(深い部分)が尺側に限局しつつあることがわかる。


初診から27日目の屈側 30日目の屈側 30日目の伸側〜尺側

 屈側,伸側のほとんどの部分は上皮化したが,前腕尺側の部分だけが上皮化が遅れた。30日目の時点では3度熱傷とも考えられたが,プラスモイストV貼付を続けた。


48日目の尺側 57日目の尺側

 48日目。3度熱傷と思われた部分でも中心に島状に上皮が出現した。57日目に全て治癒した。この時点で瘢痕拘縮は全く認められなかった。


 30日目の尺側の皮膚潰瘍を見ると,どうしても3度熱傷に見えてきて,植皮を考える人もいると思うが,48日目の同部の写真を見るとこれが3度熱傷でないことがわかる。創中心部にポツポツと出現した白い皮膚は,深部に残っている毛嚢などの皮膚付属器官が復活してそこから再生した皮膚であるからだ。つまりこれは2度熱傷であって3度熱傷ではない。

 このくらいの深度の熱傷では,皮膚付属器官からの上皮再生は受傷から40〜50日程度かかることを観察している。これは,最初の熱により損傷された皮膚付属器官が復活するのに時間がかかるためと思われる。これはつまり,3度熱傷かどうかは40日以前にはよくわからない,正しく診断できない,ということを意味しているのである。

 したがって,初診から数日で皮膚が羊皮紙のような外観を呈している場合を除き,3度熱傷の診断は40日から50日後に行われるべきだし,当然,植皮が必要という診断もそれ以降に行われるべきである。少なくとも,この症例の30日目の状態を見て「これは3度熱傷だから植皮しなければ治らない」というのは誤診であり,植皮は不要かもしれないと疑うべきである。。


 またこの症例は「熱傷創感染の感染源は,残った水疱液(水疱膜)である」ということも教えてくれる。水疱液は本来無菌だが,一部でも破綻してしまえば水疱液は栄養十分な細菌の培地となり,ここが感染源となるからだ。だから,初診時には可能な限り水疱膜を除去し,将来の感染源を除去し,感染を未然に防ぐべきである。

 なお,一部破綻した水疱膜をそのまま放置し,抗生剤を投与すれば感染を防げるか,という問題もあるが,このような抗生剤投与は意味がない。確かに抗生剤で蜂窩織炎の症状は一次的に治まるだろうが,汚染された水疱液という巨大な培地が残っていればいずれ蜂窩織炎は再燃するからである。


 なお,初診時に白色ワセリンを塗布したプラスモイストを使用しているが,白色ワセリンは初回のみでそれ以降は必要ない。初回に使用するのは,空気との接触を極力絶つためのもので,二日目以降では滲出液が十分に創面を覆っているため,白色ワセリンは不要となる。

(2007/08/27)

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