なぜ熱傷創は感染しやすいのか


 傷の治癒とはつまるところ細胞培養である。ケガや火傷で欠損した組織を再生するために,傷表面が培地となり,浸出液という培養液で皮膚や結合組織を培養し,それで欠損した皮膚などが再生し,傷は治る。

 だが,創面が細胞培養に最適の条件と言うことは,細菌にとっても絶好の増殖条件ではないかと考えられる。水と栄養さえあればどこにでも登場するのが細菌という生物だ。どの細菌が増殖するかは,その環境の化学的,物理的条件により決まっているはずだ。創面は浸出液のためにpHが7.0前後になっているため,皮膚常在菌の生存条件(pH5.5)ではなく,黄色ブドウ球菌に絶好の条件となっている。だから,傷ができると必ず黄色ブドウ球菌が増殖する。


 となると,皮膚細胞の増殖が早いか,黄色ブドウ球菌の増殖が早いかの競争になる。皮膚の増殖が早ければ感染せずに治るだろうし,細菌の増殖が早ければ感染が起こるだろう。通常であれば,貪食細胞も絡んでくるために滅多なことでは感染しないのだろうが,水疱膜が破れてそこに細菌が侵入した場合には,これが絶好の培地になり,細菌の増殖が優位になって創感染が起こるのだろう。

 感染するかしないかはつまるところ,バランスの問題であろう。


 だがこれだけでは,通常の擦りむき傷は滅多に感染しないのに,熱傷は感染する率が高いことは説明できない。理由は恐らく,垂直方向に組織の損傷があるかないかだと思う。

 擦りむき傷の場合,創表面の組織(真皮)の表面は傷ついているが,その直下の真皮は正常である。このため,組織の再生も早期に起こり,細菌との増殖競争に勝てるのだろう。

 一方の熱傷の創面だが,露出している組織は損傷を受けているが,熱による損傷はその下の組織にも及んでいる(どの深さまで損傷が及んでいるかは,熱源の温度とそれとの接触時間で決まるはずだ)。このため,「毛孔からの上皮化」はすぐに起こらず,それが感染が多い原因ではないだろうか。

(2007/06/11)

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