3度熱傷:感染する? しない? 溶ける? 溶けない?


 3度熱傷で壊死組織の自己融解が始まるとドロドロになる。こういう組織を湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)するといかにも感染が起きそうだし,実際に感染を起こすこともある。しかし,感染を起こさない場合もある。その違いはどこにあるのだろうか。これがいまだによくわからないのである。


 症例は60代の男性。ストーブの上で沸かしていたやかんの熱湯を浴びて左前胸部〜腋窩〜上腕にかけて熱傷受傷した。直ちに当院を受診した。

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  1. 初診時の前胸部から腋窩にかけての状態。受傷部の中心部はすでに白色になっていて赤みがなかった。

  2. 初診時の上腕の状態。ここは大部分が白く,すでに3度熱傷の状態であることがわかる。
    直ちに,プラスチベースを塗布した食品包装用ラップで創面を覆い,その上に紙オムツを当てた。抗生剤は投与せず,鎮痛剤のみ処方した。


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  1. 受傷から7日目の状態。大部分が3度熱傷であることがわかる。前胸部はまだ自己融解が始まっていない。

  2. 7日目の上腕の状態。すでにかなり自己融解しており,壊死組織を切除すると大量の膿のようなドロドロの液が流出してきた。
    治療としては依然としてプラスチベースとラップのみであり,抗生剤も投与していないが,発熱や局所の疼痛などの感染を思わせる症状はほとんどなかった。


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  1. 受傷19日目の状態。前胸部もかなり自己融解が進んでいることがわかるが,一部の壊死組織はまだ固着して残っている。

  2. 上腕の壊死組織はかなり取れている。この時点で入院となり,1週間後に植皮を行い,その後退院となった。
    この19日間,やはり発熱などの感染症状はなく経過している。


 以上のような経過である。壊死組織がついていても,抗生剤を投与していなくても感染するわけでもなく,自己融解でドロドロしているのにそこが細菌の培地になっていた様でもない。おまけに治療といえばラップとプラスチベースだけである。なぜこの症例は感染しなかったのだろうか?

 もちろん,このような状態で感染して,発熱や局所の疼痛などの症状を示すこともある。そしてそのような症例が大量の壊死組織が残っていたわけでもない。このような感染を起こした例と,感染を起こさなかった例の違いがよくわからないのである。
 小児の場合は発熱しやすい,というのは経験則だが,なぜそうなのかについても十分に理論的な説明がつけられないでいる。

 また,前胸部と上腕では,上腕は自己融解が進んでいるのに,前胸部では自己融解がなかなか進まず,壊死組織が溶けてこなかったが,両者になぜこのような違いが生じたのか,それもよくわからない。


 現時点では,上記の疑問には結論は出せないでいる。ただ言えるのは,感染が成立するための条件は多様であろうということ,壊死組織といってもさまざまな段階(種類?)があるらしいということだけだ。感染という現象は,なかなか奥が深いなぁ,と言うしかない。

 「熱傷を積極的に湿潤環境で治す」治療を徹底する治療方針はまだまだ始まったばかりだ。解決すべき問題点,疑問点はいくらでも残っているのだろう。

(2005/02/09)

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