熱傷の治療例


 ではいよいよ,間違った治療が平然と行われている「旧態依然とした外傷治療の伏魔殿」ともいうべき,広範な熱傷の局所治療について攻め入ることにしよう。
 熱傷の局所治療に必要なものは「食品包装ラップ」と「白色ワセリン(あるいはプラスチベース)」のみである。他の薬剤は一切不要であり,消毒薬も軟膏も不要である。また,この方法で治療すれば,処置時の痛みは少なく(後半では疼痛は全くなくなる),処置時の疼痛対策も不要である。また,抗生剤の予防的投与もすべきではない。
 また,以下のように治療すると「2度熱傷から3度に移行」することはほとんどない。従って,従来から言われている「創感染により2度熱傷は3度に移行する」という「定説」は嘘っぱちだったと考えられる。


 ではまず,症例提示。18歳の男性。作業中にスプレーのガスに引火して衣服に燃え移り,右下腿全周性に熱傷受傷。ちなみにこの患者は,全て外来で治療を行っている。

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  1. 受傷時の状態。下腿全周性に水疱形成があり,水疱は破れていて,その下の皮膚は白っぽい。どう見ても2度の深い熱傷と思われた。

  2. 直ちに水疱膜を可能な限り除去。右下腿内側が特に白っぽく,通常であれば「感染して深くなり,3度熱傷に移行する」と予想される深さだろう。

  3. そのまま,白色ワセリンをたっぷり塗布した食品包装ラップで創面を全て覆う。もちろん,ワセリンの付いた面を創面にあてるのは言うまでもない。この上をガーゼで覆い(浸出液を吸収してもらうのが目的),さらに包帯を巻く。浸出液が多ければ紙おむつで巻くのも効果的。この段階での創洗浄は不要であり,消毒は厳禁である。

  4. 受傷2日目,バケツに汲んだ水道水(微温湯)で創部を洗っているところ。あまり痛くないよ,とのことである。可能であれば,自宅でラップを交換してもらっていいだろう。

  5. 受傷7日目。創周辺は健康なピンクになった。創中心部はやや深く白っぽいが,特にデブリードマンする必要はない。
    この頃,全身性の発熱と患部の疼痛があったため,抗生剤(セファメジン2g)を点滴投与し,合わせてセファロスポリン系の経口抗生剤2日分を処方したが,結局,1回の点滴で発熱と疼痛はおさまった。広範囲熱傷での抗生剤投与はこのように「明らかな感染症状」があった時に「短期集中」投与すべきであり,それで十分である。また,このように創部からの感染があっても,創の消毒は有害無益であり,すべきではない。
    また,創感染が明らかな時期でも,熱傷創面自体は「ワセリン付きラップ」で密封を続けたが,それによって感染が増悪することはなかった。


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  1. 19日目の状態。創周囲からの上皮化が進んでいる。この頃にも何度か,発熱があったが,その都度,1回の抗生剤点滴で症状は軽快し,上皮化が遅れる様子もなかった。

  2. 27日目。さらに周囲からの上皮化が進んでいる。

  3. 35日目。赤い創面の真ん中(脛骨前面に近い部位)に白っぽい部分が見えるが,これが毛穴からの上皮化である。これが出現すると,あとは一気呵成である。

  4. 41日目。赤い創面の中に一挙に白っぽい「点々」が増えているのがわかる。これも毛穴からの上皮化である。

  5. 47日目。完全に上皮化。瘢痕拘縮もなく,18歳の青年として普通に社会生活をし,運動を始めている。


 さらに,この「毛穴からの上皮化」の部分を拡大!

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  1. 39日目の状態。赤い創面の上にもやもやと白っぽい部分が出現しているのがわかる。これが登場したての上皮である。この時,創面をゴシゴシこすったり,圧をかけて洗浄すると,これらの上皮が流されてしまう。

  2. 41日目。一挙に「カビが生えたように」白い点々が出現。これが全て上皮である。このような深い熱傷を湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)していると,ある日突然,絶海に孤島が姿を現すように「上皮の島」が出現し,数日後にそれは無数の群島となる。すなわち,健康な肉芽は「赤ん坊上皮」の揺りかごでなる。

  3. 43日目。2日前に「点」だった皮膚が増殖し,広がって融合し,皮膚が全面で再生しているのがよくわかる。


 これが熱傷の正常の治り方だと思う。受傷の時点で既に皮膚全層(表皮+真皮の全て)が損傷されている場合を除き,2度熱傷から3度に移行することはないと考える。もしも,2度熱傷から3度に移行した場合,それは医師の治療が状態を悪化させたものであり,医原性3度熱傷である。

(2004/01/21)

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