《ゾンビ・ドッグ LUCKY》 (2002年,アメリカ)


 「ゾンビってタイトルがついているんだからゾンビ映画なんだろうな」と考える純真なゾンビ映画ファンの心をもてあそんでくれたクズ映画。もちろん,ゾンビというタイトルだけで中身を確かめずに借りた私が悪いんです。それはわかっています。でも,ゾンビが出ない映画にゾンビってつけるなよ! ご法度じゃないけど反則技だろう。
 いずれにしても,数知れないほどクズ映画を見てきた私の記憶の中でも,ベストテン入りクラスのひどさでした。というわけで,ゾンビ映画が好きな人は絶対に見てはいけません。

 それにしても,この映画がストライクゾーンという人ってどういう人間なんだろうか。可愛いワンちゃんが好きで,おまけに屍姦,つまり屍体とエッチするのが大好き,という人しか思いつきません。つまり,かなり危ない人です。もしも身の回りに「《ゾンビ・ドッグ》? 知っているよ。面白い映画だったよ」という人がいたら,とりあえず遠ざかったほうが安全でしょう。

 それはさておき,この映画の原題は《Lucky》,つまり登場するワンちゃんの名前でして,どこにもゾンビなんてありません。それにこの邦題をつけたんですから,配給会社は明らかに確信犯ですね。普通,《ゾンビ・ドッグ》というタイトルを見たら,人間にひどい目に合わされて死んでいった猛犬がゾンビとして蘇り,次々と人を襲っていく,なんてナイスな映画を想像しますよね。私もそう思っていましたよ。ところが,あろうことか,あるまいことか,あるまいとなべか(・・・東海林さだおの古いギャグね),メタボ体系の中年男と,それはそれは可愛いワンちゃんの妄想映画なんですよ。


 主人公は売れないアニメ脚本家の中年男。頭は既に禿げていて体系はすっかりメタボちゃん,しかもアイディアが枯れちゃって脚本は書けず,毎日ビールばかり飲んでいる駄目オッサンです。こいつがある日,車で一匹のワンちゃんを轢いちゃいます。家に連れて帰り看病するんだけど,既に腸がはみ出している状態のため1週間くらいで死んじゃいます。そこで,夜こっそりと墓地に死体を運び,穴を掘って埋めようとして,せめて手向けに,ってんでお酒をかけたら,なぜかその犬,ラッキーは生き返るのです。

 ラッキーはなぜか,このオッサンにテレパシーで話しかけ,アニメのアイディアを次々とオッサンに告げ,オッサンはせっせとそれを文章化し,次第に売れっ子になっていきます。しかしそれと引き換えのように,ラッキーはオッサンの生活を支配するようになり,次々と命令を出していきますが,オッサンは犬の命令に従うしかありません。

 このオッサン,この年まで女性とお付き合いしたこともなければ,ろくに話をしたこともありません。夢の中でミスティという理想の女性を思い浮かべては妄想を膨らます毎日でしたが,ラッキーを連れて散歩中,その理想の女性に瓜二つの女性が犬を連れているところに出くわし,ラッキーの指導の下,彼女と言葉を交わし,少しずつお付き合いを始めますが,何しろメタボな中年オッサンですからそれ以上に関係が発展するわけでもなく,オッサンは欲求不満が募ります。

 このオッサンがしてみたいのは,女性を縛り付けて体を傷つける,首を絞めて気絶させてエッチする,という方向のハードなプレイで,犬の命令とともにどんどん妄想が膨らみ,実際に家にやってきた原稿取りの少女を殺してしまい,その屍体とエッチに及び,満足して彼女を裏庭に埋めます。そして数日後,またエッチしたくなって掘り返すと,そこに埋まっていたのはミスティで,なんと顔がなかったのです。するとラッキーがいいます。「俺,食っちゃったんだ」。そして気がつくと,裏庭は屍体だらけだった・・・ってなムチャクチャな映画です。


 ・・・という風に要約できるんですが,実際には妄想なんだか現実なんだか,全然わかりません。というより,何を描きたかったのか,何を言いたかったのか,まるっきりわかりません。だから,わずか80分足らずの映画なのに,異様に長く感じます。何しろ音声の大半は,脚本家オッサンの独りよがりの独白と,ラッキーの人語翻訳だけなんだもん。途中から,我慢大会に出ているんだか,映画を見ているんだかわからなくなってきます。

 中年のオッサンがおなかポッチャリのさえない人物は設定上いいとしても,ラッキー以外の登場人物はほとんど女性だけです。それなのに,美人が一人も出てこないし,それどころか,よくこれだけさえない女性ばかり見つけてきたな,という女優さんばかりです。これで巨乳系なら許しますが,それですらありません。ミスティもそこそこおっぱいは大きいですが,オバサンちょっと手前のお姉さん,という感じで,取り得はオッパイしかありません。他には美人じゃないけどもうちょっと若い女性が登場しますが,いずれもすぐに殺されちゃって屍体になるだけだし・・・。

 ちなみに「ゾンビ犬」のラッキーはコーギーみたいで目がクリクリして可愛いです。でも,そこらにいる犬みたいで,特に演技をしているわけでもなさそうです。ソフトバンク携帯の「お父さん犬」の演技を見習って欲しかったです。

 おまけに,妄想モード全開のオッサンの独白ときたら,「すべては知覚の問題だ。あらゆる存在は我々がそれだと認識して初めて存在する。しかし私の存在はすべてを足してもゼロだ」なんていう感じの哲学的(?)なものばかりで,とても鬱陶しいです。そんな御託を並べて犬の言いなりになっている暇があったら,まず部屋を掃除しろ,ビールを飲まずに飯を食え,と言いたくなります。


 というわけで,ゾンビというタイトルはあるけどゾンビは登場せず,老けたお姉さんの裸はあるけどエロでもなく,エッチシーンはあるけどセクシーでもなく,哲学問答はあるけど心に残らず,何がどうなっているか最後までよくわからない,という映画でございますが,そういうのが好きという映画ファンは是非,ご覧ください。あと,金と時間をドブに捨てるのが好きな人も必見かな?

(2008/02/20)

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