《もしも昨日が選べたら Click》 (2006年,アメリカ)


 人生に多々ある都合の悪い出来事,面倒な出来事,嫌な出来事をビデオやDVDみたいに「早送り」できたらいいな,というドラえもん的発想と,結局は家族の絆が一番大切なんだよというハリウッドの王道を行く感動路線を絶妙に組み合わせたコメディー映画。
 基本的にはいい映画なんだけど,結末が最初からわかっちゃって意外性が皆無なところに問題があるし,コメディーなんだけどギャグの下品さとあまりのくだらなさに微妙な齟齬を感じてしまった。主演のアダム・サンドラーはいい俳優でうまいんだけど,どこか器用貧乏という感じがして,ちょっと微妙なんだな。
 ただ,話はわかりやすいし,ストーリーのテンポはいいし,登場する俳優さんたちはどれも上手いし,ケイト・ベッキンセイルをはじめとする女優陣もナイスバディの美人ぞろいだし,感動的な場面はきっちりと決めているので,十分に楽しめると思う。


 建築士のマイケル(アダム・サンドラー)は美しい妻(ケイト・ベッキンセイル)と二人の子供の父親なんだけど,家庭より仕事を優先させる仕事人間。家に帰ってきても仕事のことばかりで,子供たちとの約束もろくに守れない状態だった。そんなマイケル,自宅でテレビをつけようとしても家中にリモコンが氾濫しているもんだから,テレビを見るのも一苦労。一つのリモコンで何でもできる万能リモコンがあると聞き,家を飛び出して大型量販店みたいなところに駆け込み,怪しげな店員のモーティーと出会う。モーティーは「あなたは善良な人間らしい」と言い,店の奥にある扉を開け,そこでマイケルに何でも自由に操れる万能リモコンを渡す。しかも値段はただ! ただ返品だけは絶対にだめだと念を押すだけだった。

 家に帰ったマイケルだが,妻といつもの口論が始まり,「黙れ!」とばかりにリモコンを向けて停止ボタンを押したら,なんと妻は動きを止めてしまうし,うるさく吼える犬に向けると鳴き声をミュートにできるし,嫌だなと思う仕事は早送りボタンで片付けてしまうこともできる。おまけに,日本のマツシタとの商談で,相手が訳のわからない言葉(もちろん日本語ね)でひそひそ話しているところにリモコンを向けると翻訳機能になって話していることがわかり,どうすれば商談がまとまるかもわかっちゃう。こうしてマイケルは,人生を自由に操れるリモコンを手に入れ,「嫌なことは早送り」,「思い出せなくて困ったことがあったら巻き戻し」を駆使して出生街道をまっしぐら。ところがこの万能リモコンには,強力な自動学習能力があり,マイケルの意思に関係なく早送り機能がひとりでに起動してしまい・・・ってな映画だ。


 まず,妻のドナを演じるベッキンセイルは相変わらず美しい。彼女が登場するたびに画面にぱっと花が咲いたように見えるのだ。若い頃のベッキンセイルも素晴らしく美しかったが,30代の彼女は内面的な美しさも加わり,その美貌はまさに輝くばかりだ。
 また,成人になったマイケルの娘サマンサは巨乳のお姉さんが演じているが,彼女もまた素晴らしく美しい。

 また,この手のハリウッド映画はほぼ確実に悲劇では終わらないという法則(?)があるとおりで,この映画もまたそれを裏切らない。見ているほうが,「多分最後はこういうシーンで終わるんだろうな」という結末を迎えるので,そういう意味での安心系ファンタジー映画だ。
 がしかし,あまりにも予定調和すぎて意外性が皆無というのは明らかな弱点。だから,初めて見た映画なんだけど,どこかで見たことがあるような・・・というデジャブ感が否めないのである。


 では,家族で安心して見られるファンタジー映画かというと,どうもそうでもないようだ。下ネタが多いのだ。
 登場する犬はやたらと発情しまくっていて大きなアヒルのぬいぐるみ相手に腰を振っているし,しかもそのシーンが何度も繰り返されるし,おまけに,「早送り30秒エッチ」シーンまである・・・それも,ご丁寧に2箇所ほど。
 また,下ネタがらみのギャグが多いのだが,それがことごとく面白くないのである。特に,オナラが絡んだシーンがあるが,アメリカ人はこういうシーンを見て大笑いらしい。確かに,いろいろなアメリカ映画でオナラを必殺の爆笑アイテムとして使うシーンをよく見るが,多分これはアメリカでしか通じていないと思う。

 あと,ドナの再婚相手に対してマイケルが「この競泳用の海パン野郎が!」と言うシーンがこれまた2箇所くらいあったと思うが,これも何か意味があるんだろうか? ズボンの下に競泳用のパンツは確かに変といえば変だけど,それで「インチキ野郎」って言うかなぁ?

 それと,自動早送り最中の現実世界のマイケルは,妻との会話も子供たちの会話も上の空というか,宙を見ているようにぼんやりしていた,とあり,それが妻との離婚につながっているのだが,それなのになぜ,会社の社長になれたのかという疑問もある。ま,この疑問が出たところで,もしかしたこの物語は最後はこうなるんだろうな,と推理できてしまい,まさにその通りに物語りは進んでいく。

 それにしても,この映画の《もしも昨日が選べたら》という邦題は意味不明。だって映画では昨日を選んでいるわけでなく,嫌な現実を早送りしているだけだからだ。原題通りの《クリック》でよかったような気がする。


 マイケルに自動リモコンをただで提供するモーティーとは何者か。後に彼が天使,しかも死の天使であることが明かされる(ま,このくらいのネタばらしは問題ないでしょう)。実はそれは映画の中でも最初から暗示されている。モーティーが一番最初に登場するシーンで歌が挿入され,その中で「天使であろうと悪魔であろうと」とかいう歌詞が歌われ,おまけに,モーティーのもじゃもじゃ頭全体が逆光を浴びて光輪のように光り輝いているからだ。
 「羽が舞い落ちてきたり,逆光で頭が光っているような人物は天使」というアメリカ映画の鉄則があるが,ここでもそれは守られているようだ。


 というわけで,「便利な道具を出してよ,ドラえもん!」+「悪銭身につかず的お説教」+「ディケンズのクリスマス・キャロル」+「一旦失われた家族の絆の復活」を4で割ったような感じだが,少なくとも見た後の後味は悪くないし,映画としての作り方も丁寧だし,女優さんたちはナイスバディの美人だし,楽しめる映画の一つであることは間違いないと思う。まだ見たことがなければ,ちょっとお勧め。

(2008/02/14)

映画一覧へ

Top Page