《あるいは裏切りという名の犬 36 QUAI DES ORFEVRES》 (2004年,フランス)


 久しぶりに男臭い雰囲気の映画に酔い痴れ,堪能した。パリ警視庁を舞台にした二人の中年警視の物語なのだが,主人公の渋さ,行動の潔さ,そして家族と仲間を最後まで守ろうとする健気なまでの男気は往年のフランス映画,フィルム・ノワールの雰囲気そのままで,どこか懐かしく,そして新しい。最後の結末のつけ方もお見事。どうなるんだろう,このままでは悲劇のままで終わらせるのかと思って見ていたら,納得のいく決着のつけ方で溜飲が降りた。そして,ちょっとメランコリックで古めかしい雰囲気の音楽も画面にマッチしていた。

 フランス映画には時々(?),感覚的に受け容れられないものがあるが,こういう男の世界を描かせたらやはり最高だなと改めて感じ入ってしまう。ハリウッド映画のヒーローたちとは一味もふた味も違っていて,その姿に深みがあるのだ。

 ちなみにフランス語の原題は「オルフェーヴル河岸36番地」という意味で,パリ警視庁の住所に当たるそうで,フランス人ならこのタイトルを見ると誰でもピンと来るらしい。


 パリ警視庁の二人の警視,レオ・ヴリンクスとドニ・クランはかつては親友だったが,一人の女性を同時に愛してしまい,この女性,カミーユはレオを選び,それ以来,二人の関係はギクシャクしている。BRIという部門のトップであるレオは正義感あふれる警視であり,同僚からの信頼も厚いが,BRB部門トップのドニは権力志向が強く,警視庁内部での出世と権力を何より望んでいる。そして,警視庁の現長官は任期わずかとなっていた。

 その頃,パリでは凶悪強盗事件が連続して起きていて,9人が殺され,巨額の現金が奪われていたが,手がかりは全く掴めていなかった。そこで長官はレオとドニに,先に事件を解決したほうを時期長官に推薦すると説明した。

 そんな時,レオの元に一本の電話がかかってくる。かつて自分がパクった男(現在服役中で2週間後に釈放が決まっている)からだった。レオは彼と会うことになり,レオの車に男が乗り込むが,ある場所で車を止めさせたかと思うと車の外に出て,止まっているもう一台の車に近づき,制止するまもなくいきなり車に発砲したのだ。かつて自分を撃った男を殺したのだった。そして,車の中の3人の男は射殺され,乗り合わせていた売春婦一人が逃げ出した。車に戻ってきたその男は,自分のアリバイを証明してくれたら連続強盗事件の犯人を教えると申し出る。男を殺人犯として逮捕することもできる。しかしそうすると凶悪強盗事件を防げない。レオは苦渋の決断をし,強盗事件の犯人を教えてもらい,アリバイを証明すると約束する。

 その情報を元に,レオのチームとドニのチームが強盗犯のアジトを急襲するが,レオの手柄になることを嫌ったドニが単独行動に出てしまう。その結果,犯人を逃がし,おまけに一人の警官が射殺されてしまう。その警官の葬儀の場で,レオのチームの警官たちはドニに背を向けてしまう。

 一方,執拗に車中射殺事件を追うドニに,その車から逃げ出した売春婦が現れ,違法入国を見逃してくれれば犯人を教えるといい,彼女はレオが共犯だったと証言したことから彼は拘留される。しかし,レオは事情を説明することもできず,ついに殺人幇助で7年間の刑を受け,収監される。

 その後,ドニはパリ警視庁長官に就任し,ついに連続強盗犯を突き止めるが,追跡劇の途中で事件に巻き込まれたカミーユ(レオの妻)が巻き添えで死んでしまう。実は,犯人の銃でドニがカミーユを撃ち殺したのだが,彼は「犯人が人質を撃ち殺したために,自分が犯人を射殺した」ことにし,部下たちに口裏を合わせるように命令する。命令に服従できない警官は田舎の警察署に飛ばされた。

 6年後,レオは模範囚として1年早く釈放され,一人残された娘に再会する。そして昔の仲間を訪ねるうちに妻が公式発表のように犯人に射殺されたのではなく,ドニが犯人の銃で撃ったことを知り,身を寄せている売春婦に銃を準備するように頼む。
 彼は妻を殺したドニを許すことができない。しかし,パリ警視庁長官であるドニを殺してしまえば,これまでのいきさつからいやでも自分が疑われるだろうし,そうすれば懲役7年どころでは済まないことは明らかだ。そしてそうなると,せっかく再開できた娘は今度こそ本当に独りぼっちになってしまう。

 苦悩の末,レオは銃を隠し持って警察主催のパーティー会場に紛れ込む。しかし同じその頃,レオに恨みを持っているらしい男たちもレオの跡をつけていたのだった。そして,レオはドニに銃口を向ける・・・・。


 大体こんなストーリーだが,最後の結末がとてもいい。妻の敵を討ちたい,しかしそれをしては娘が悲しむ。その中で彼が選んだ決着のつけ方,それに対して最後まで責任はレオにあったんだ,と喚き続けるドニ,レオに忍び寄るバイクの黒い男たち,そして誰もが納得し,そして意表をつかれるであろう結末まで,物語は間断なく一気に進む。


 まず何より,レオ役のダニエル・オートゥイユが気骨と信念の男を渋く演じていていい。まさしく骨太の男だ。そしてもう一人の主役であるドニを演じているジェラール・ドパルデューも醜いまでに権力欲に燃える中年を描きつくしていて,憎たらしくなるほどうまい。この俳優さん,鼻尖部にかなり目立つ傷跡と変形があり(メイクではないような感じだが),それがまた格好いい中年であるレオと見事な対比を作り出している。この二人が画面に登場するたびに,ああ,これがフランス映画なんだよな,という感じなのだ。

 冒頭の,パリ警視庁と刻まれたプレートを盗もうとする胡散臭そうな革ジャンの男たち,そして彼らが入っていく騒々しいパーティー会場,このあたりからして洒落てい。そして余計な演出もなければ,余計なシーンもエピソードもない。真正面,一直線の遊びない物語進行のため,画面全体が引き締まっている。それが見るものを惹きつけ,心地よい緊張感を生み出す。


 原題の《オルフェーヴル河岸36番地》も悪くはないのだが,さすがに日本人にはこのタイトルは辛い。その点,《あるいは・・・》という邦題はそれだけで物語を想像させる。私はこういうタイトルが好きだ。
 「裏切り」という言葉がこの映画に果たして最適のものかは多少問題はあるが,これはこれでいいと思う。この映画を見て,自分ならどういう邦題をつけるかを考えるのも面白いと思う。

 とにかく,ハリウッドのヒーロー映画とは全く違う重厚な男の世界を堪能したかったら,この映画だと思う。フランス映画の底力と格好いいおじさんたちに喝采!

(2008/01/01)

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