《ヘル・ファイヤー SEA GHOST》 (2004年,アメリカ)


 一言で言えば「モンスターがやけにショボいモンスター・パニック映画」ですね。モンスターの造詣に関しては完全に手を抜きまくっています。でも,しょうもないクズ映画かというとそうでもなくて,ストーリーはそこそこしっかりしているし(もちろん,適度に破綻しているけど),ちょっと安っぽいけどきちんとした人間ドラマになっています。そして何より,メイン・ストーリーとは関係ないところで遊びまくっているというか力を入れてあって,そういうアンバランスさが堂々たるヘボB級映画という感じですね。

 そうそう,この映画だけは日本語吹き替え版で見てください。一箇所だけですが,日本語でないと面白くない部分があるからです。途中で,西部劇風というか《荒野の用心棒》あたりに出てきそうなガンファイトシーンがあるんですが,相手方が口を開くとその声はなんとルパン三世・・・じゃなくって,西部劇時代のクリント・イーストウッドの声なんですよ。台詞の言い方といい声といい,まさに《荒野の・・・》を思い出せてくれます。このワンシーンのためにレンタルビデオ屋さんで借りてもいいくらいです・・・というのは心にもない嘘だけどさ。


 ストーリーは単純で,大西洋だったかにある油田基地(もう使われていなくて,軍がある目的のために使用しているらしい)があって,地下25キロのところを掘っていたら空洞が見つかり,そこから致死量の100倍もの放射線が検出され,そこにあったものを採取したら実はそれは生命体で・・・ってなことから始まります。どうやら,太古の地球に落ちてきた隕石の中に生命体が眠っていて,それが地殻変動で海底に沈んだらしいと説明されています。これによく似た設定のモンスター映画,マニアなら2つや3つは挙げられますよね。

 で,その不思議な生命体を極秘裏に研究するために軍が船に積んでフロリダかどっかに運ぼうとしている最中に大型暴風雨に巻き込まれ,船が大揺れしているうちにその生物を収めた容器が破損して中の奴が目覚め,乗組員を襲いはじめ,船は爆発炎上します。ここでこの船のエピソードはおしまい。

 ついで,上記の油田基地に舞台が移り,この油田基地に物資を運ぶ船が基地に到着するんだけど,人が誰もいなくて,調べていくうちに地底から発見された生物が目覚めて暴れだしたことが明らかになり,襲ってくる宇宙生物から逃げられるか,ってな映画です。

 この説明でもお分かりの通り,最初の船の場面とそのあとの基地の場面,ほとんど関連性がありませんが,気にしないようにしましょう。


 まず何が駄目かというと,モンスターの造詣です。隕石みたいなボール状のものから10数本のタコの足が出ているだけで,21世紀の映画とは思えないシンプルさです。しかも,最後の最後まで全体像を見せてくれず,終始,タコの足みたいなのが襲ってくるだけです。しかも殺し方は腹部を食い破るか絞め殺すかだけなので,ちょっと単調です。もう少し工夫したほうがよろしかったかと。

 暴風雨の中に翻弄される船のシーンが結構ありますが,その船は模型だろう,水槽で撮影したんだろう,とミエミエの安っぽい特撮シーンがあり,涙を誘います。貧乏くささが全体から漂ってきます。


 そしてこの船の中で,発見されたばかりの謎の生物(しかも強力な放射能つき)を入れた容器を白衣姿の男3人で移動するんですが,案の定,揺れに足を撮られて落としてしまう,という定番シーンがあります。運ぶのなら運ぶでいいから,白衣姿のいかにも力のなさそうなオッサンでなく,屈強な軍関係者で運ぶべきでしたね。あるいは,前もって容器をがっちり固定するとか。いずれにしても,嵐になってから手作業で動かすなんてアホですな。

 この宇宙タコ君の得意技は,近くにいる人間の意識を読み取って,それに合わせて化けることです。しかも,その相手の一番弱い人間に化けるという嫌らしさですから,人間側はなかなか対抗できません。特に笑わせてくれる(楽しませてくれる)のは本格的ストリップシーンがある点です。これは,エンジニアのお兄ちゃんがいてアダルト映画女優のファンなんですが,彼の意識を読み取ったタコ君がなんとこのグラマー女優に化け,彼の前でシリコン系巨乳丸出しで踊ってくれちゃうんですよ。このお兄ちゃん,メロメロ・デレデレですから簡単にやられます。ちなみにこのオッパイシーン,結構長く続きます。そういえば,後半にもう一箇所,黒いブラからオッパイがはみ出ているおねえちゃんのシーンがあります。B級映画に不可欠のサービスシーンでかなり力を入れて作っています。

 でも,そういうシーンばかりでなくて,数年前に夫と幼い子供を列車事故で亡くした女性もいて彼女の前にその事故の幻影が見え,子供が語りかけてくるなんてシーンもあるし,西部出身の船の乗組員の前には西部劇の幻影が見えてきます。こういうシーンはかなり丁寧に作っていましたね。


 そういえば,冒頭で「この生物は人間の致死量の100倍の放射線を出している」と説明されていますが,この生物と戦って生き残った3人は放射能障害で死んでいません。あの放射能,どこに行っちゃったんでしょうか。多分,映画監督は放射能のことを忘れちゃったんでしょうね。

 それと,あのモンスター・タコ君があの攻撃でやられたかどうかは全く不明というか,ただ闇雲に主人公たちがエレベーター孔に爆破物を投げ入れて爆破しただけですから,運良くその真下にタコ君がいなければ焼け死んではくれません。ここらの説明は一切なし。最期になったら面倒になって投げやりになって撮影した模様です。


 そして,この映画の最大の謎が邦題《ヘル・ファイヤー》です。原題は《Sea Ghost》で,これは舞台になっている油田基地の名前です。また映画の中では「ヘル」も「ファイヤー」も出てきません。火が出るのは爆破シーンだけです。「ヘル・ファイヤー」というタイトルだと普通はオカルト系か悪魔系というのが相場ですから,なぜこんな邦題にしちゃったんでしょうか。その謎解きは,映画作成会社の名前が "Hellfire Product" で,それを配給会社が映画のタイトルと間違えちゃって「ヘル・ファイヤー」という邦題をつけちゃった,というのが真相ではないかといわれています。もしそうだとすると,これって恥ずかしいよなぁ。

 いずれにしても,「人間の心を読み取って化ける」というのはモンスター映画ではあまりない設定なのですから,騙し方(騙され方)を多彩にするとか化け方の種類を多くして,犠牲となる人間の心理にさらに深く踏み込むとか,殺し方をもうちょっと工夫するなどしたら,たぶん「そこそこ面白いB級映画」になれたんじゃないかと思います。惜しかったね。

(2007/12/19)

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