《ハイテンション》 (2003年,フランス)


 フランス映画には珍しい,本格的スプラッター系ホラーサスペンス。かなり怖いです・・・というか,ギャグやコミカルな要素や遊びの部分が全くなく,全編を通じて恐ろしげなシーンが連続します。スプラッター慣れしている私が「これは怖い」というのですから,本当に怖いですよ。殺される人数は4人とそれほど多くありませんが,小型のカミソリだったり斧だったり電動ノコギリだったりと,小道具も凝っています。特に,電動ノコギリは本当に痛そうです。こんなもの振り回すなよ,と言いたくなります。つまり,《テキサス・チェーンソー》に通じる怖さ,痛さですね。

 ちなみに,結構エロなシーンがありますので,子供ちゃまは見ないで下さい。


 舞台はフランスの片田舎。女子大生のマリーは友達のアレックス(女性だよ)の自宅(近くに家もないような田舎にある)に泊まりに行きます。試験勉強のため,ド田舎のアレックスの家に泊めてもらい,そこで集中勉強しようということらしいです。田舎の道を快調に車で飛ばしていきますが,途中の道端で止まっているぼろトラックがあり,そこで男が女性にアレをさせています(だから子供は見ちゃ駄目だよ)。何だ,この映画はそっち系の映画か,と思った瞬間,車の窓から切り取られた首が無造作に投げ捨てられます。まだ映画が始まって5分くらいなのに,最初から飛ばしまくっています。

 そしてアレックスの家に到着し,マリーは部屋に行きますが,なんだか眠れないらしくて外に出ると,なぜかアレックスがカーテン全開でシャワーを浴びています。ホラー映画お約束のオッパイシーンかと思うと,実そうではなく,後の展開の伏線になっています。そのあとマリーは部屋に戻り,なぜかオナニーを始めます。あっ,これも伏線ってやつです。

 すると,冒頭のぼろトラックが走ってきてなぜかアレックスの家の前に泊まり,呼び鈴を鳴らします。お父さんがドアを開けた瞬間,初老のおっさんが現れてナイフをふりかざし,お父さんは倒され,家具を使って首をちょん切られます。血がドバドバ噴出します。異常に気がついたマリーは電話で警察に連絡しようとするんだけど,なかなか電話が見つからなかったり,モジュラージャックを探したりとかなり無駄行動をし,しょうがないからクローゼットの中に隠れます。そして,その前で逃げてきたお母さんが首を切られ,手首を切断されていき絶え絶え。眠っていたアレックスも見つかり,どうやらレイプされている模様。アレックスの弟は外に逃げ出したけれど男に銃殺されます。この段階でまだ30分。テンション上がりっぱなしのシーンの連続ですが,まだ映画は50分以上残っています。テンションを維持できるかどうか心配になりますが,なんとこの映画,さらにハイテンションで続きます。ちなみにこの時点で,この殺人鬼のおっさんが誰なのか,何が目的なのか,なぜこの一家を惨殺したのか,理由は一切明らかにされません。

 両手両足に手錠をかけられて口枷姿のアレックスをおっさんがトラックの荷台(?)に乗せて拉致します。そこで,警察に連絡が取れないマリーは親友を助けようとそのトラック荷台に忍び込みます。やがてトラックはガソリンスタンドに到着。男がガソリンを入れている隙にマリーは抜け出し,店に入って店員に助けを求めます。しかし,例のおっさんは後を追う様に店に入り,店員を斧で虐殺。男が店から出たのを確認し,マリーは警察に連絡し,アレックスを救うためにガソリンスタンドにあった車に乗り,トラックを追いかけます。そしてその頃,警察がガソリンスタンドに到着して死体を発見。応援を依頼する一方で防犯ビデオを再生したところ驚愕の事実が! なんと犯人は・・・ってな映画です。

 いわゆる,「最後の最後でどんでん返し」系の映画ですが,結構驚かされ,楽しませてくれるはずです。


 この手のスプラッターホラー映画には,若くて巨乳の美女が欠かせないものですが,驚くことに(・・・驚くことじゃないか・・・)この映画の主人公とも言うべきマリーもアレックスも,いわゆる美女ではありません(・・・少なくとも私の目には)。マリーは短髪でボーイッシュ,アレックスはラテン系ですが目鼻立ちがアレで,美女とはちょっと言えないです。そこらが残念といえば残念ですが,この映画の基本設定に絡んでいることなんで,ま,しょうがないでしょう。


 問題があるとすれば,真犯人というか真相が明らかになってしまうと,それまでのさまざまなシーンとの整合性がまるっきりなくなってしまい,矛盾だらけになってしまうことです。

 例えば,アレックスを拉致したトラックをマリーが車で追うシーン。事件の真相がわかってしまうと,この車,誰が運転しているの,ということになります。トラックの荷台のドアに鍵をかけたのも誰なのかわからなくなるし,おっさんが○○の首を絞めるシーンとかその後のシーンも説明がつかなくなります。第一,アレックスの一家を皆殺しにしなければいけない理由が皆無ですし,そもそもアレックスの自宅にやって来た意味も不明だし,○○の目的のためなら,アレックスの自宅に来なかったほうが楽に事が運んだような気もします。また,冒頭の「ぼろトラックの運転席で女性にアレをさせ,そのあと首をちょん切る」シーンは○○の妄想だとしたと考えるしかなくなりますが,そうだとしても,今度は別の疑問が生じてきます。そんなことを○○が妄想するか,ってね。


 というわけで,こういう根本的矛盾に気がつかないフリをしてみる分には,本格的スプラッターサスペンスとして楽しめますよ。「へえ,これが真相だったのか」とわかった以後は,前半の展開をすべて忘れてしまうのが,この映画を楽しむコツです。

 ちなみにこの映画の製作に,リュック・ベッソン大先生が参加されていますが,もしかしたらこの杜撰なプロット,まさかとは思いますが,ベッソン先生の発案なんでしょうか。整合性のなさが,いつものベッソン映画の欠点に似ているんですよ。ま,気のせいでしょうが。

(2007/11/23)

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