《アイデンティティー》★★★★★(2002年,アメリカ)


 とてもよくできた映画である。これほど綿密に設計された映画は久しぶりに見たという感じだ。全く予備知識なく見て,結末が読める人っているんだろうか。多分,かなり少ないと思う。実際私も,「やられたなぁ,この筋書きは読めなかったよ」と感心してしまった。予想を覆す結末が待っているんだけど,全てわかったあとにもう一度見直すと,全て見事に伏線が張られていたし,それとなく結末に結びつくことばかりで納得することばかりなのである。いやはや,参りました。見事にしてやられました。感動と感心は違いますが,ここまで見事に騙されるとちょっと感動しますね。

 正味90分弱の映画なんですが,60分を過ぎても映画の行き先がわからないし,何より,ラスト20分を切った時点でもこの映画がミステリーなのか,サイコキラー物なのか,ホラー映画なのか,あるいはオカルト映画になってしまうのか,それすら見当が付かないのである。何度か「先住民族居留地」という看板(?)が映されるため,もしかしたら怨念系とか亡霊系とか,そっち方向に行っちゃうのかなぁ,だったら詰まらないよなぁ,なんて心配をしていたら,全然そうじゃないんだもの。見事に騙されたな。

 そして,解説がとても書きにくいのである。ばらしていけない核心部分を明かさずにどこまで説明したものか,これを書いている時点でも悩んでいるのである。


 舞台になっているのは荒野に一つあるモーターホテル。そして豪雨が降り続いていて,道は冠水し,モーテルは完全に陸の孤島と化してしまい,携帯電話すら通じない。そういう一種の密室状態が舞台である。ここに11人の男女が閉じ込められる。

 まず,一組の夫婦とその子供。このモーテルに来る途中,車がパンクしてその修理中に妻が車にはねられて重傷を負う。夫婦は再婚で子供は妻の連れ子らしい。そしてこの妻をはねた車を運転した運転手と,彼の雇い主である女優。後にこの運転手は元警官であることが明らかになる。そして都会での生活に疲れ,故郷に戻ろうとしている娼婦。数時間前に結婚したばかりの夫婦。だが,この二人はものの弾みで結婚したらしく既に口論ばかりしている。そして,殺人犯と彼を護送中の警察官。そして,モーテルの管理人。


 まず何がいいって,この11人の紹介の仕方が見事だ。手短に要領よく紹介するのだが,過不足なく見事に一人一人の性格が紹介されている。11人もいると,一人くらいはキャラが立ってない登場人物がいるものだが,そういうのがないのである。

 この11人には全く共通点はなく,たまたま居合わせただけであり,なぜ連続殺人事件が起きるのかが見ている方にもわからない。観客も必死になってその理由を推理しながら見ているんだけど,7人目が殺されたあたりでも真相がわからないし,想像すらつかないのだ。手がかりはいくつもあるし,それとなく伏線がいくつも張られているのにである。

 そして,偶然居合わせた人間のように見えて,実は故郷や目的地が同じだったり,誕生日も同じだったりと一つ一つ明らかにされていき,そして途中で挿入されている死刑囚の再審査のシーンとが,最後の10分くらいで見事に合体し,全てが明かされるのだが,その時の爽快さは格別であり,痛快だった。なるほど,一人一人死んでいくってそういう意味だったのか,11人の極端なまでに性格付けってこのためだったのか,と納得がいくのである。


 それと,最後に明かされる犯人(といっていいのかな?)の正体もすごかった。彼が絡むシーンは全てこの伏線だったんだな。2度目に見ると納得することばかりだし,気がつかなかった自分の観察眼のなさを恥じ入るばかりだった。おまけに「アイデンティティー」というタイトルの意味にも最後になって気づくんだから,私もかなりマヌケである。

 これ以上書いちゃうとネタバレになってしまいそうなので,もう止めよう。ネタをばらさずにこれ以上書くのは不可能だ。とにかく,この映画をまだ見ていないなら,絶対におススメ作品だ。緻密によく練り上げられたストーリー展開に翻弄されつつ,ジグソーパズルの最後の1ピースがぴたっとはまるような快感を覚えるはずだ。

(2007/10/19)

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