《アンビリーバブル IT'S ALL ABOUT LOVE》 
(2003年,スウェーデン/イギリス/デンマーク/ドイツ/オランダ/日本/アメリカ)


 数多くのクズ映画,駄目映画,訳わからん映画を見てきた映画遍歴の中でも,この作品は群を抜いてひどいです。あまりの訳のわからなさに続けて2度見ましたが,なぜか何度も猛烈な睡魔に襲われ,気がつくと場面が変わっているのです。2度見たのでおそらく全シーンは見たと思うんだけど,それでも全体が一つにまとまらないのですよ。従って,不眠症には著効を示すことが予想される映画です。

 でも,映画の作り手は真面目にいい映画を作ろうとしたようです。ショーン・ペンという大物も登場しているし,各々のシーンは結構金をかけて撮影されているみたいです。そこまでして,訳わからん映画になってしまったのはなぜなんでしょうか。一体どういう映画にしたかったんでしょうか。この映画,最大の謎です。


 クズ映画,駄目映画にはいくつかの共通点があります。例えば,「そもそも設定自体に無理ありすぎ」とか,「主人公であるモンスターの造詣がチャチすぎ」とか,「主人公であるモンスターが最後までチラッとしか登場しない」とか,「そもそも一つの作品として完結していない」とか,そういうのが原因です。この映画は最後のパターンです。

 この映画の場合は,「もしかしてこの映画,作りかけで完成していないけど,無理やり公開しちゃった」ためにクズ映画になっちゃったんじゃないでしょうか。舞台裏を想像するに,監督(あるいは脚本家)の頭の中には一つの作品が出来上がっていて,なぜか「まず最初に個々のシーンをバラバラに撮影しよう」と思いつき,頭の中に浮かんだ色々なシーン(例:フィギュアスケートのシーン,パーティーのシーン,空港のシーン,町を逃げるシーン,列車に乗るシーン,下りて歩くシーン,雪の中で踊るシーン,ウガンダで人が浮かぶシーン,クローンが登場するシーン,ショーン・ペンが飛行機から電話祖するシーン,最後に二人が死ぬシーンなど)を金をかけて撮影し,そこで資金が尽きちゃった,というのが真相じゃないでしょうか。それだけでは何がなんだかわからなくなったため,しょうがないから,適当な説明を入れて台詞を変え,何とか一つの作品に纏め上げようとした,と。で,その結果,同じようなシーンが使いまわされたり(例:7月の雪),唐突にシーンが変わったけどその説明がなかったりと,まとまりのない作品になってしまったのでしょう(・・・多分)


 こういう映画を売れと言われた方も困ったでしょうね。「この映画,内容が滅茶苦茶じゃん。こんなのどうやって宣伝しろって言うんだよ。信じられねぇ!」ってんで,邦題が『アンビリーバブル』に決まったんじゃないでしょうか。多分そうに決まってますよ。何しろ原題は《It's all about love》ですよ。これほど原題からかけ離れた邦題の映画も滅多にありませんから,こういう裏があったとしか思えません。

 で,配給会社はどう宣伝しているかというと,訳がわからない映画を何とか説明しようとする苦心惨憺の様子,呻吟する様子が目に見えてくるような紹介文を作っています。

異常気象の中で同時進行する、人類の未来を脅かす恐るべき陰謀を描く、見応え満点のSFサスペンス!原因不明の突然死や異常気象が発生する2011年を舞台に、離婚を控えた別居中の夫婦が不可解な危険にさらされる。国際的なスケート選手のエレナは、教師の夫ジョンに離婚届けを渡されてしまう。だが何者かに身の危険を警告され、ジョンに助けを求めるのだが…。

 この紹介文を読んで映画の内容が予想できますか? 前半だけ読むと,異常気象,環境破壊による近未来パニック映画ですよね。それに離婚寸前の夫婦が絡むのはアメリカ映画にはよくあるパターンです。ところが奥さんの方が世界的フィギュアスケート選手で,というあたりで,なんだか変だな,と思いませんか。だって,気象パニック映画だったら主人公の夫婦は科学者で気象の専門家というのが普通だもん。なんでスケート選手? ここらでヤバイ感じがしますが,なんとこの映画では,スケート業界の裏側ってのがあって,有名選手のクローンが・・・という話まで絡んじゃうのです。これで話に収拾が付くわけがありません。最悪の予想通り,映画はストーリーが破綻したまま最後までダラダラと続くという悲惨な結末を迎えます。


 大体,映画全体の背景というか主題のはずの異常気象が全然描かれていません。冒頭,夫のジョンが空港に到着してエスカレーターで降りる場面で,エスカレーターの降り口に死体が転がっているけど,誰も気にせずにまたいでいくという,ある意味衝撃的なシーンから始まります。これがあまりに日常的なんで誰も気にしない,と説明されます。どうやら心臓の病気が広がっているようだ,なんて説明もあります。

 普通ならここから,なぜ異常気象になったのか,世界はどうなっているのか,なぜ心臓病なのかとか,社会の混乱はどうなのかという方向に話が進むはずなのに,この「そこらに死体が転がっている」世界の説明は一切なし。そして話は勝手にスケート業界のパーティー場面になり,その内部で何か陰謀が起きていると妻のスケート選手が説明し,何の説明もないまま,なぜか二人は逃げ出すことになり,街からの脱出を図ります。で,安宿に宿泊していると唐突に7月なのに雪が降ってきます。でも画面で見ている限り「7月なのに雪が降って素敵!」なんてのどかな感じで,緊迫感ゼロ。

 「7月に雪」を描くなら,6月の気象はどうだったのか,5月から寒かったのか・・・を描いてしかるべきなのに,そういう配慮は皆無ですし,説明も一切ありません。だから,異常気象というのが見ている方に全然伝わってきません。


 部屋の中でコップの水が凍るというシーンがあったけど,部屋で寝ている人は裸で普通に寝ていて寒そうじゃないし,水道が凍っているわけでもありません。それなのに,コップの水だけ瞬時に凍ってしまう。これって何?

 最後に夫婦が追手から逃れて,列車を降りてどこかに歩いて向かうシーンも変。この時点で列車は普通に走っているんだから,降りたとすれば歩いていける範囲に目的地があったはずで,実際にそのように説明されます。だから,雪の中を歩きながら二人でふざけあうシーンもあってもいいでしょう。しかし,そういうのどかなピクニックモードだったのに,尾根を越えたらそこは一面の雪なのです。世界全体が瞬時のうちに雪で覆われたとかいう説明があったような気がするけど,何だ,この唐突な展開は? 訳,わかんねえよ。


 大体,奥さんが世界的フィギュアスケートのプロ選手,という設定も必然性がゼロです。フィギュアスケートの選手でオリンピックで5個の金メダルを取っている選手なんて,世界中に何人いるの? 走り幅跳びの選手でも女子ホッケーの選手でもノーベル文学賞受賞者でもなく,なぜスケート選手? おら,訳わかんねぇだよ。


 ショーン・ペンはジョンのお兄さん役で登場し,飛行機の中からジョンに電話するだけの役割です。彼の電話の内容によると,飛行機で飛んでいるうちに地上が凍り付いてしまい,ついに着陸できなくなったと電話で話しています。すげえ,ムチャクチャな展開です。そんななかで,弟ジョンへの最後の電話でペンお兄さんは言います,it's all about love! ってね。これがこの映画の原題の意味だったのか。無理やりだな。

 それにしても,ショーン・ペンは何でこんなクズ映画に出演しちゃったんでしょうか。監督に弱みでも握られ,ゆすられてたの? ショーン君は押しも押されぬ大俳優なんだから,出る映画は選んだほうがいいよ。


 そしてこの謎だらけの映画で最大の謎なのが,最後のウガンダ住民の集団空中浮遊。これって何? なぜウガンダ? なぜ空中に浮いているの? 世界中が凍りついたなんていっているけど,このウガンダの村の風景は普通だったけど,ウガンダだけ凍らなかったの? なぜホンジュラスでもトリニダードトバコでもモーリシャスでもなく,ウガンダなの? おら,訳がわかんねぇだよ。


 もちろん,この映画を見ていて何度も「意識の瞬間喪失」が起きたために,私が見逃した中に,この映画の真意・真価のシーンがあるのかもしれません。それを探ってみたいという方は,是非ご覧になって,この映画の真相・真価を私に教えてくださいませ。

(2007/10/2)

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