《悪魔の棲む家》★★(2005年,アメリカ)


 1979年に公開された同盟映画のリメイク版とのことです。一応ホラー映画ですが,それほど強くありません。スプラッター場面もありますが,たいしたことはありません。ちょっと怖そうなシーンになる直前に,音楽がここぞとばかりの音量で流れるので,「お,そろそろ何か出てくるな」と心の準備ができまるという「親切設定」ですので,ホラー映画は苦手なの,という初心者にも安心なホラー映画です。

 しかもストーリーは極めてわかりやすいというか,ほとんど一本調子で進行し,伏線も謎解きもありませんので,頭も使わなくていいです。おまけに登場人物も少ないため,名前を覚える苦労もありませんし,登場人物の役割分担も明確です。しかも,怪奇現象が起きるのは決まって午前3:15で,親切にも必ず時計の文字盤が大写しになりますから,時計の文字盤が3時になったら何かが起こると予告してくれます。見せ場を見逃さないようにという親切な配慮が隅々まで行き届いています。

 逆に言えば,ホラー映画の王道を行くというか,ホラー映画の定石をきちんと踏まえているため,意外性が皆無です。予定調和ともいえますし,水戸黄門みたいなホラー映画ともいえます。要するに安心して見られるホラー映画なんですが,ホラー映画で安心感があって何が面白いんでしょうか?


 一応,映画の説明をすると,1974年にニューヨーク州ロングアイランドで,その家の長男が一家6人を銃で射殺するという事件が実際にあったそうです。何でも「捕まえて殺せ」という声が聞こえてきて,それに従ったんだそうです(実際,警察にもそのように供述している調書が残っているらしい)

 それから1年後,若い夫婦が家を探しているんですが,不動産屋のおばさんは,その家で起きた殺人事件のことを教えずに売りつけるんですね。「この広さなのに,何でこんなに安いんだ」と食い下がると,ようやくその事件のことを教えてくれるわけ。でも,その夫婦は若くて蓄えもそんなにないし,奥さんは3人の子供を連れての再婚だし,広いところでないと子育てもできないし・・・という事情があり,旦那の「家が人を殺すわけじゃない。人が人を殺すんだ」という言葉で購入を決意します。

 ところが,移り住んだその晩から,奇怪な事件は起こるわ,末娘には女の子の姿が見えて会話するわ,いきなり窓が開くわ,変な声が聞こえるわと,変な現象が次々起き,次第に旦那さんがその声に操られるようにおかしくなっていき,妻と子供たちを斧や銃を持って追いかけまわします。そして次第にその家のそもそもの因縁が明らかになる,という内容です。


 というわけで,こういうとてもわかりやすいストーリーに加え,それが順序良く説明されているし,細かい小道具もきちんと説明されているし,その意味ではツッコミどころはほとんどありません。ツッコミマニアとしてはちょっと詰まらないなぁ,というところです。

 また,こういうB級ホラー映画に必須ともいえるお色気シーンも忘れていません。奥さんはまだ若くて結構美人ですが,ワンシーンだけベッドシーンがあります。また,途中で登場するベビーシッターは「はみ乳,臍出しルック」で,どう考えても12歳の男の子がいる家には置いておきたくない色気過剰ぶりです。もちろん,「胸の谷間・巨乳」係担当の登場人物ですが,彼女にはもう一つ役割があり,これまた丁寧にこの家でおきた惨殺事件のことを順序よく説明してくれます。きっちりと役目を果たしているいいお姉さんです。


 それにしても,安物買いの銭失い,という言葉をこれほどよく説明したホラー映画もありません。相場より異常に安いというだけで,訳あり物件なのは火を見るより明らかなんですが,何しろこの夫婦には金銭的余裕がないという設定ですし,怪奇現象が起きていて,普通ならその家から逃げればいいじゃん,と思うのですが,何しろこの夫婦にはお金がないんですよ。貧乏だと幽霊屋敷に住むしかないということを教えてくれます。ま,常識的には,亡霊が出る広いお屋敷より,亡霊の出ない狭いアパートを選ぶはずですが・・・。

 また,途中から旦那がどんどん変になっていくんだから,子供を連れてその家を飛び出せばいいのに,奥さんはそうしません。旦那さんを深く愛しているから,というのが理由なんですが,このくらいの緊急事態になったら,旦那を捨てて子供を救うべきですよね。ところが彼女,神父様に相談したり,街の図書館で過去の新聞を閲覧して事件を調べたり,古文書みたいなのを見てその家で起きた古い事件のことを探ったりするもんだから,旦那に3:15のスイッチが入ってしまい,子供を危険な目に合わせる事になるんです。数日前の旦那の様子を見て,おかしいと思わないほうがおかしいです。


 というわけで,ホラーやスプラッターが苦手な人もかなり安心して見られるホラー映画です。そういうのがお好きな方は,是非ご覧いただけたらと存じます。

(2007/09/25)

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