《ヴァニッシング Rancid》 (2004年,スウェーデン)


 スウェーデンの資本で作られた映画なんだけど,なぜか舞台はニューヨークです。無実の罪で警察に追われている男がいて,真犯人を見つけないと捕まっちゃうよ,という状況で逃げ回る,というよくあるパターンの映画です。映画ファンなら,こういう設定のサスペンス映画は二つや三つは思い浮かべるでしょう。

 ちなみに原題は "Rancid",つまり,「腐った,腐った脂肪のような臭い」という形容詞かな? その意味は最後の方でわかる仕掛けになっています。


 映画は警察が乗り込んできた家に隠れている男の様子から始まります。どうやらその家で殺人事件があった様子です。こいつが主人公らしいというのはわかりますが,その後,事件の様子が時間軸をバラバラに細切れに再現するため,最後の最後まで,一体誰が殺されたのか,誰が殺したのか,何のために殺されたのかが全くわからないという構成になっています。どんでん返しが3回くらいあります。その意味ではよくできていますが,ちょっと懲り過ぎという感じです。

 警察に追われるのは作家志望の鳴かず飛ばずの男,ジェームスです。こいつの運命が狂っていくのは,大学の同級生で出世頭の男(クリスピン)の自宅で行われた同窓会に出席したことが発端です。彼の妻モニカはかつてジェームスとつき合っていて結婚寸前まで言った模様。それで,何となくジェームスとモニカが親しげに抱擁しているところを旦那クリスピンに見られちゃうのです。怒り狂ったクリスピンはジェームスのアパートに用心棒と一緒に押し入り,ジェームスをボコボコにして部屋を滅茶苦茶にしちゃう。

 で,頭にきたジェームスは級友で今は刑事をしているアンディに相談し,「犬にションベンをかけられたらどうしたらいいかさ。蹴り飛ばしてやればいいんだ」と,こいつ,刑事らしくないな,という言葉でジェームスをけしかけます(この言葉で,コイツ,事件の裏に一枚咬んでいるんじゃないか? と想像できてしまうのは作り手のミス)。で,ジェームスがクリスピンの自宅に忍び込んで彼の車をボコボコに壊したりするし,なぜかモニカがジェームスのアパートにやってきていつの間にかベッドインしちゃうし,なぜか,「今は旦那は出張中よ」とか言ってジェームスを自宅に招き入れてベッドインしたり,その最中に旦那がなぜか帰ってきたりします。ここで既に60分を経過していたと思いますが,まだ誰が殺されたのかは不明で,ここから先,さらに事態は混沌として何度もどんでん返しがあります。


 ま,最後には全体像が何とかわかるようになっていますが,ストーリー構成を懲り過ぎたために,「誰が何のためにこの行動をしたのか」をよく考えてみると,説明が付けられない点がかなりあります。

 そもそも,クリスピンとジェームスは学生時代から折り合いが悪かったと説明されているわけで,しかも,大豪邸に住んでいて,しかも妻は自分のかつての恋人,という状況でジェームスがのこのことクリスピン宅での同窓会に出席する理由がわかりません。というか,この事件はジェームスがこの同窓会に出席して,モニカと仲良くしているところをクリスピンが見なければ成立していないのですから,ジェームスを絶対に出席させる理由付けがかなり希薄な点が弱いです。

 それと,○○がジェームスに「殺すときに足がつきにくい殺し方」を教えるシーンも,こいつの職業が●●だけに何か変。この時点で「こいつは絶対に裏で何か企んでいるはずだな」と誰しも気がついてしまうのも誤算の一つでしょう。どうせなら,ジェームスのアドバイス役で●●でない人物を設定すべきでしたね。


 クリスピンにとってはモニカが,モニカにとってはクリスピンが邪魔な理由はよくわかるし,○○がそれに絡んでくる理由も理解できます。しかし,○○が▼▼を殺してその罪をジェームスに押しつけなければ完全犯罪になりません。そう考えると,緻密に考えられているように見えて,実はかなり偶然に任せた計画だったことになります(例:同窓会でジェームスがあの部屋に入ってモニカと再会する必然性が弱いとか・・・)

 そして最大の難点は,○○がジェームスにナイフ(包丁)を使って殺すのがいいよ,と教えたとしても,ジェームスが殺害に使われたのと同じ包丁を購入する確率はほぼゼロだと言う点にあります。何しろ,「ホームセンターで売られている一番普通のやつ」としても,店によって売れ筋商品は違っているし,ジェームスが包丁のつもりでサバイバル・ナイフを持って押し入る可能性もあります。そうなったら,解剖されたら「彼の指紋の付いている包丁ではこの傷になりません」とばれちゃって,せっかくの計画も台無しです。


 他にもまだ,納得のいかない点はありますが,とりあえずはこんなものかな? そういう細かいところはどうでもいいから,とりあえずどんでん返し系サスペンス映画で1時間半つぶせればいいや,という目的にはいいと思いますよ。

(2007/05/06)

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