《ピッチブラック》 (2000年,アメリカ)


 それほど有名でもない,B級テイストたっぷりのモンスター・サバイバル映画なんですが,内容は一級品のおもしろさで,最後の最後まで目が離せないストーリー展開でした。ちなみに私は,ピアノと音楽と数学がテーマの映画や,キワモノB級なんだけどすごく面白かったものには点数が甘くなります。


 舞台は,宇宙のいろいろな星に人間が進出している未来です。乗客を乗せた宇宙船が事故に遭い,ある星に墜落します。何とか不時着するものの宇宙船は大破し,生き残ったのは12人だけです。おまけにその一人は護送中の殺人犯だったのです。

 この惑星はいくつかの恒星による連星系で,全く夜がありません。そして廃鉱が見つかってそこに残されていた資料から,22年に一度だけ日蝕が起こり,そのときに鉱山で働いていた人たちが全滅したことがわかってきます。なぜ彼らは全滅したか。それは,光を嫌い,闇の中で復活する謎の生物が洞窟の中にいて,日蝕とともにその大群が襲ってきたためだということが,次第に明らかになります。彼らが生き延びて地球に戻るためには,日蝕になる前に廃鉱に残されていた宇宙船を飛べるように整備するしかありません。そして刻一刻と,日蝕開始が近づいてきます。


 この映画のストーリーの「未知の星でエイリアンに襲われるサバイバル物」,どこかで見たことがあったなと思ったら《エイリアン2》あたりと基本的に同じです。その意味では,新味はありません。

 しかし,登場人物(生き残った12人)が全員が等身大の人間としてよく描かれている点がいいです。そして,完全な善人もいなければ救いようのない悪人もいません。弱さと強さが交錯する中途半端な人間として描かれています。

 凶悪殺人犯のリディックは言うに及ばず,ヒロインの宇宙船船長は不時着の際に乗客が乗っている客車部分を切り離して自分だけ助かろうとしてそれを他の乗組員に非難されるし,リディックを護送している警官も実は別の顔を持っているし,酒ばかり飲んでいる古物商はいるし,リディックの真似ばかりしようとする子供はいるし,何かというと「アラーの神の思し召し」としか言わないイスラム教徒もいます。

 類型的といえば類型的かもしれないけれど,弱さと欠点だらけの人間たちが何とか助かろうと必死になっている姿が何だかいいのです。

 そして,あくまでも自分が助かることしか考えていなかったリディックの最後の行動がいいです。そんな彼の姿に,イスラム教徒が「あなたは神はいないといったがそれは間違っている。神はあなたの中にいる。あなたは私にとって神だ」というシーンが感動的! そしてそれが,最後の宇宙船のシーンで,「地球に戻った時,リディックは死んだと伝えてくれ」という言葉につながります。


 エイリアンの造形は類型的だし,展開もご都合主義のところがあるし,細部につっこうもうと思ったらいくらでもつっこめます。捕食者しかいない生態系は成り立たないぞとか,こいつらは22年間何を食って生きてきたんだとか,気にすればきりがないです。でも,平均より面白かったし,見終わった後が清々しかったから許します。

(2007/05/05)

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