《ユージュアル・サスペクツ》 (1995年,アメリカ)


 この作品ほど緻密に組み立てられた映画は滅多にないでしょう。その意味では実に見事です。冒頭の船上での会話と突然の爆破シーンに始まり,複数の事件がバラバラに提示されて次第に巨大な謎に収斂し,最後のシーンでは恐らくこの映画を見た全員が全員,あっと驚くであろう大どんでん返しが待っています。「うわあ,こいつが本当の黒幕だったんかい!」と驚くはずです。なるほど,冒頭シーンをもう一度見直すと,確かにこの結末しかなかったことが頷けます。

 そういう意味で,謎解きが好きな人にはたまらない映画でしょうし,最上級の評価をするはずです。最後の最後にすべてがひっくり返って真相が明らかになる,というのが好きな人にはベスト映画でしょう。

 でも,感動と感心は違うよね,という人にとっては,たぶんつまらない映画です。私はこの映画には感心しましたが,感動は得られませんでした。なぜかというと,最後のどんでん返しを成立させるために全体が逆方向から設計された映画であることがミエミエだったからです。要するに,どんでん返しのためのどんでん返しにしかなっていません。意表は突かれ,驚かされますが,魂を揺さぶられるような感動とはほど遠いものです。だから,この映画には感心しました。作り物としては見事ですが,所詮は作り物です。


 というわけで,とりあえず,ストーリーの要約。

 冒頭,船舶の炎上事故があります。そして翌日,たくさんの死体が船上と海上から見つかります。この事件で生き残ったのは一人の男で,彼は片手が動かず,片足は曲がっている身障者です。彼の供述を調べているうちに,警察官は奇妙な事件があったことが明かされます。6週間前に銃器強奪事件があり,その容疑者として5人があげられ,証拠不十分で釈放された後に,この5人が協力して宝石強奪を決行。まんまと宝石を手に入れたけれど,それをさばくためにロサンゼルスの故買屋と接触し,そこで新たな強奪をするように依頼された,という事件です。

 当初,宝石だと聞かされていたブツは宝石ではなく麻薬で,トラブルが起きて取引相手を射殺してしまいます(このあたりで,見ている方はかなり混乱してくるはずです)。そして,伝説のギャングとして謎に包まれた“カイザー・ソゼ”の右腕と名乗る弁護士が登場し,さらに事態は混乱していきます。

 そして次第に,誰が何のためにこの事件を計画したのかが明らかになっていき,最後の最後に「カイザー・ソゼ」の震撼すべき正体が明らかになります。すべてはソゼが仕組んだ罠だったのです。

 とまぁ,こんな映画です。


 まず,見ている側にとってつらいのは,映画の最終到達地点が途中までわからないという点にあります。「この映画は一体何の映画なのか」という点が明かされないまま,映像を見ていくしかないのは辛いものです。

 映画はキートンという警官崩れの男を中心に進みます。彼の言動は男臭くて格好いいです。こいつが事件の黒幕というか主人公なら誰しも納得します。しかし,映画の冒頭で彼が殺されるシーンがあるため,彼を殺した「誰か」がいたことになります。とはいっても,恐らくこれに気がつくのは,DVDを最初から見直すことができる人だけです。つまり,劇場で見ている人はこの冒頭部分を確認するすべはないのですから,劇場で見た人はさぞかしフラストレーションがたまったでしょう。

 しかも,本筋に関係あるんだかないんだかわからない宝石強奪事件やら,警察での尋問シーンやらが長々と続きます。だから,見ている方にとっては,心安らかに見られるシーンが全くありません。


 おまけに途中から「カイザー・ソゼ」という人物が登場し,彼がこの映画の中心テーマであるらしいと判るのは,全体の2/3以降です。それまでもソゼの名前は断片的に出てきますが,中心的な存在とは示されません。ほとんどの観客はこの時点で,「え~っ,この映画ってカイザー・ソゼとかいう人間の謎を解き明かす映画だったの?」と思うはずです。このあたりは極めて不自然です。

 そして,ソゼが「あの目的」のためにこの事件全体を企んだのはいいとしても,そもそもその目的のためにキートンなど4人と以前からチーム(?)を組んでいたことになり,「あの目的」のためにはあまりに効率が悪すぎます。というか,「あの目的」を達成するためだったら,何もこんな大がかりで複雑怪奇な罠を張り巡らせる必要はないわけで,もっと簡単に解決できるはずです。複雑な計画ほど,どこか一カ所が破綻すると全体が崩れるからです。シンプルな計画の方が失敗する率が低いし,失敗したとしても別の手段に切り替えるのも容易です。だから,優秀な犯罪者なら,絶対にシンプルな方を選ぶはずです。


 そして何よりこの映画で駄目なのは,物語がある一人の供述と回想で進行する点にあります。つまり,観客は彼の言葉を頼りに推理しながらこの映画を見ていることになります。それなのに最後の最後で「あの」事実が明らかになるのですから,これは反則でしょう。もちろん,観客を騙そうとすればこの設定しかないのはわかりますが,それでも,これをやっちゃったらお終いでしょう。この方法は,思いついても実行してはいけない禁じ手みたいなものじゃないでしょうか。

 この映画の続編を求める声もありますが,それは無理というものです。何しろ,「あの人物」が登場したとたん,こいつが黒幕だってことがバレバレですから,映画そのものが成立しません。

(2007/05/01)

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