《ミュート・ウィットネス 殺しの撮影現場》 (1991年,アメリカ)


 サスペンス好きにはたまらない映画でしょう。ストーリーはしっかりしていて,最初から最後までハラハラドキドキの連続で,90分が短く感じられます。予算はあまり掛けていない映画のようですが,これを見てしまうと,映画は金じゃない,アイディアだ,と思いますね。

 ストーリーは単純で,ロシアで映画撮影をしているスタッフの一人(メーキャップ役の女性,もちろんこの映画のヒロイン)が荷物を忘れて小道具部屋か何かに入ったら,そこではなんとポルノ映画の撮影をしているのです。何が起きているのか気が動転しているうちに,なんと,男優が女優の胸に刃物を突き立てて殺すのですよ。要するにそこではスナッフ映画(本物の殺人の様子を撮影した映画,もちろん,そっち系の趣味を持つ人相手の裏世界の商売です)の撮影現場だったわけです。こりゃやばい,ってんで逃げ出すんだけど,撮影係と男優が追いかけてきて・・・という映画です。


 これだけならどこにでもあるサスペンス映画ですが,この映画のヒロインが「耳は聞こえるが言葉が全く話せない」という設定になっているため,緊迫感と怖さが半端じゃありません。助けを呼ぼうにも声が出せないし,警察に事情を説明しようとしてもうまく伝わりません。他人に危険を知らせようにもその手段がありません。逆に悲鳴を上げても誰にも聞こえないというメリットにもなっています。

 そして,電話がかかってきたり,こちらからかけたい時は,コンピュータで文字を打ち込んでそれを音声に変換するという方式で会話しています。普段はそれで不自由なくコミュニケーションが取れるのですが,殺人者側がドアをドリルで壊そうとしている,なんていう一刻を争う場面では,パソコンで変換して相手に送る,という作業がまだるっこくて,イライラしてきて,それがまた恐怖を生み出します。おまけに舞台は1990年頃のロシアですから,パソコン通信は音響カプラを介しています。とすれば通信速度は14bpsより遅いかな? 今の高速通信しか知らない人には,カタツムリの動きをスローモーションにしたようなものでしょう。警察に通報する,という私たちには簡単な行為でも何十倍も時間と手間がかかります。

 また,最後の最後まで敵か味方か判らない人物がいて,事態は二転三転します。おまけに,ロシア人同士の会話は当然ロシア語ですが,彼らの会話には字幕がつきません。だから私たちにも,彼らが一体何を話しているのか,彼らは味方なのか敵なのか,全然判りません。このあたりは実に見事です。


 ヒロインの入浴シーンで,蛇口から落ちる水滴のうまい使い方とか,ヒロインが逃げ回る時の小道具とかも,ツボにはまっていてなかなかいいです。また,何しろロシアが舞台なので走っている車はショボイし,部屋の設備なんかも古くさいんですが,それがまた,ちょっと古くさい音楽・効果音の使い方と微妙にマッチしていてなかなかよろしいです。

 今から15年以上前の映画ですが,そこらにある「金はかけたけどアイディアがない」サスペンス映画よりは数段面白いですよ。まだ見たことがない人には,絶対にオススメ!

(2007/03/12)

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