新しい創傷治療:キャンディマン

《キャンディマン Candyman》 (1992年,アメリカ)


 15年ほど前の映画なんだけど,ま,そこそこ面白かったな。傑作ではないけど,時間つぶし以上の価値はあると思う。

 問題があるとすれば,映画のスタイルの方向ですね。どう見てもスプラッター・ホラー系映画みたいな展開で,切り裂かれた死体は次々に画面に登場するんだけど,実はこの映画,悲恋映画というかそっち系なんですよ。全体がわかってしまうと,キャンディマンが可哀想なんですね。何で100年前,そこまで残虐な殺され方をされなければいけなかったのか,ってそっちの方が気になったりして・・・。

 でも,悲恋映画,ちょっと異色のラブ・ロマンスとして鑑賞するには残虐シーンが多すぎるし,昆虫の大群が苦手という人は悲恋の真相に到達する前に見るのを止めちゃうだろうし,その点では損をしているような気がする。もしかしたら,悲恋物語を描きたかった脚本家と,何が何でもスプラッター・ホラー映画にしたかった監督が最後までケンカをしながら作っちゃったんだろうか?

 それと,ミツバチの大群が登場する意味がよくわからなかったな。もちろん,キャンディマンの死因に絡んでいるわけなんだけど,ミツバチが登場するシーンは途中の汚い公衆トイレのシーンと,最後のキャンディマンとヘレンのキスシーンだけで,ミツバチそのものはストーリーに全然絡んでこないのです。ミツバチはキャンディマンの死因ではあるけれど,その後の展開にはなくてもいい小道具の一つに過ぎません。むしろ,この映画から虫嫌いを遠ざけるだけじゃないでしょうか。

 それと,なぜ彼がキャンディマンと呼ばれているのかも不明。生前の職業でもないし,彼が殺しに使う小道具でもないし,どこにも「キャンディ」は登場しません。俗語かなと思って "Candyman" を調べてみたけど見つかりません。なんなんだ,この原題は?


 というわけで,一応映画の紹介ね。

 「鏡の前でその名を5度唱えるとキャンディマンが現れ,カギ爪の手で体を引き裂く」という都市伝説があって,それを研究しているのが女子大生のヘレン。そして,キャンディマンに殺されたと事件が起きた公営団地を調べるうちに,赤ん坊を育てている黒人のシングルマザーや,キャンディマンを知っているという少年ジェイクと会ったりします。そうこうしているうちに,本物のキャンディマン(すらりとした長身美形の黒人青年ですね)が登場したところで気を失い,気がつくと,先ほどのシングルマザーの家にいて,衣服は血だらけで手に大きな包丁を持っていて,そこに警察が踏み込んできて殺人犯として逮捕されます。

 何とか釈放されるんだけど,さらに彼女の身辺で殺人事件が起こり,精神異常の犯罪者として収容されます。彼女は,自分が犯人でないことを証明しようと,鏡に向かってキャンディマンの名を5度呼びます。そこでキャンディマンが登場して精神鑑定医を惨殺し,彼女に,自分と一緒に暮らそう,と呼びかけます。

 何とかそこを抜け出して自宅に戻ると,夫のトレバーは浮気中。絶望した彼女は,前述の公営住宅の謎の部屋に踏み込み,その部屋の壁に書かれている絵から,自分がキャンディマンの恋人(もちろん,キャンディマンが惨殺された原因は彼女との悲恋だったんですね)の生まれ変わりであり,黒人シングルマザーの赤ん坊が,実はキャンディマンとヘレンの間にできた子供の身代わりとして殺されようとしていることを悟ります。

 そして,赤ん坊の泣き声が積み重ねられたガラクタ・ゴミの山から聞こえていることに気づき,何とか赤ん坊を助けようとその山を登りますが,その姿を見た少年ジェイクは「キャンディマンが出た!」と勘違いし,その叫び声に人々が集まり,キャンディマンを殺せと叫びながらゴミの山にガソリンを撒き火をつけます。赤ん坊を助けようと抱き上げるヘレン,その彼女逃がすまいとするキャンディマン,そして迫る炎・・・ってな映画でした。


 映画の前半は,完全にホラー・モードです。血みどろシーンは結構多いし,いかにもという感じの恐ろしげなシーンが連続します。この映画に限らず,鏡ってのは怖い小道具ですね。そういう恐ろしげな部屋を,「研究のためよ」とズンズン進むのがヘレンちゃん。普通,こんな部屋に入らないよな,大体,不法侵入じゃん,と誰しも思うシーンですが,こういう思慮のない登場人物がいないホラー映画にならないからしょうがありません。それにしても,いかに研究のためとはいえ,男性トイレに一人で入るヘレンちゃんは,無思慮にもほどがありますよ。これじゃ,レイプしてくれ,って宣伝しているようなものです。実際,そのあと「いかにも」って感じの危なそうなお兄ちゃん4人が入ってくるわけですから,何もされないってのがかえって不自然でしたね。

 それが後半は一転して,悲恋モードに転換。最初は,なぜキャンディマンがヘレンを殺さないのかがよくわかりません。ただ,謎めいた言葉を残すだけで,彼は姿を消すだけです。真相がわかるのはラスト15分くらいかな。ここまで来て初めて,二人の関係が明らかになり,キャンディマンの行動がわかってきます。

 でも,それならなぜ,キャンディマンが最初から事情を彼女に説明しないのか,ちょっと意味が不明です。最初から彼女に十分に説明していたらこれほどの惨劇にはならなかったような気がするし,何より,映画前半は「可愛い女子学生をあの世に連れて行こうとするしょうもない亡霊」にしか見えないキャンディマンと,実は恋人とあの世で一緒になろうと必死になる可哀想な青年の亡霊とのギャップが,最後まで埋まらないのです。


 となると,キャンディマンとヘレンのキスシーンに登場するミツバチ・ウジャウジャの内臓と,キャンディマンの口からあふれ出すミツバチ軍団が,二人の愛の物語とすごく違和感があるのですよ。このミツバチのシーンは要らなかったんじゃないでしょうか。

 ちなみにこの後,ヘレンは「キャンディマン2代目」を襲名し(?),裏切り夫の前に甦るのでありました。

(2008/06/1)

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