《unknown アンノウン》★★★★★(2005年,アメリカ)


 こういう設定できたか,よく考えたな,上手いな,と感心したサスペンス映画。密室を舞台にしているだけに,それほど金をかけずに作ったんじゃないかと思うが,記憶を失った男たちが密室に閉じ込められ,お互いに敵か味方かもわからない,という状況設定は素晴らしいと思う。やはり,映画はアイディアであり,金じゃないなと思う。まだ見ていない人がいたら,レンタルショップで借りてきて損はないと思うよ。


 主人公の男が目を覚ますとそこは廃墟のような工場の中だった。そして,4人の男たちが眠っていた。一人は床にうつぶせ,一人は椅子に縛られ,一人は二階の手すりに手錠でつながれていて瀕死の状態だった。一人目を覚ました主人公は訳がわからないまま出口を探すが,その工場の窓は全て強化ガラスが入っていて,ドアは電子錠で強固にロックされていた。5人は密室に閉じ込められているのだ。しかも床には大量の血痕と血で汚れたシャベルがあり,激しく争ったものらしい。そこで主人公は気がつく。自分は誰なんだ,と。彼は全く記憶がないことに気がつく。そして,電話がかかってくる。訳がわからないままに電話に出ると,彼を仲間と勘違いした男が出て,夕方,迎えに行くという。

 そして,男たちは次々と目を覚ますが,彼ら全員も記憶を失っていた。そして,工場内にわずかに残っている手がかりから,自分たちが誘拐事件の犯人と被害者らしいことを知る。だが,自分が犯人なのか,誘拐されたのかも思い出せない。そして,少しずつ記憶が戻ってくるが,記憶が断片的なために敵なのか味方なのかはなかなかわからない。お互い疑心暗鬼になり,さらに,一丁の銃が見つかることから,その銃をめぐって争いが起こる。

 しかし,夕方になれば確実に誘拐犯の首謀者たちが戻ってくる。そいつらが戻ってくれば誘拐事件の被害者は間違いなく殺されるし,かといって誘拐犯側なら犯罪者だ。しかも,その工場からは逃げ出せない。そこで彼らは事件の真相の記憶が戻らないまま,生きてこの工場から出るために協力し合い,工場に転がっている物を利用して罠を仕掛ける。そして,犯人たちが乗る車が工場の入り口から入ってきた。果たして彼らは生きて出られるのか,犯人側なのは誰なのか,被害者は誰なのか,そもそも主人公は一体どちらの味方なのか,それすらまだわからない。全てが謎のまま,工場の扉が開かれ,銃を構えた男たちが入ってくる・・という映画だ。


 映画は密室と化した工場内での出来事と,誘拐事件の身代金引渡しとその後の展開が交互に映され,密室にいる5人がその事件の関係者であることは早い時期に明かされる。また,なぜ5人の男たちが記憶を失ってしまったのかについての説明も,まずまず納得できる。「外からかかってくる電話があるんなら,警察に電話をかけたらいいのに」と咽喉(のど)まで出掛かったが,考えてみたら自分が犯人側だったら警察に捕まってしまうのだ。なるほど,見事な設定だ。

 おまけに,記憶が次第に戻ってくるといっても,それは断片的だったり,事件と無関係の記憶だったりするので,そのたびに5人の人間関係は微妙に変化していく。誰しも自分は助かりたいから,嘘を言っている可能性もあり,お互いに生死を賭けた腹の探り合いが続く。このあたりは,自分がこのシチュエーションに巻き込まれたらどうなるんだろうかと,見ている方も一瞬も気が抜けない。

 しかも,誘拐事件の首謀者たちが加わり,お互いに敵なのか味方なのかがわかるのだが,その後にもどんでん返しがあってようやく事件の全体像がわかり,これで一件落着かなと安心してから,さらに隠されていた真相が明かされるのだ。この人物の行動がなんとなく変な感じというか違和感を感じていたのだが,なるほど,そういう理由だったのか。とはいっても,この最後のどんでん返しはそれまでに一切伏線が張られていなかったため,「後出しジャンケン」の感は否めないが,ここまで楽しませてくれたのだから,目をつむろうと思う。


 問題があるとすれば,あまりにストーリーの展開が速過ぎる事。特に後半,5人の男たちの記憶が相次いで戻ってくる部分のテンポが速過ぎ,人間関係を咀嚼できないうちに次の記憶(=事実)が提示されるため,事件の全体像が掴めないのだ。敵味方関係が次々と変わっていくのはいいとしても,これほど複雑に組み上げられた作品なのだから,観客側に人間関係を咀嚼させるための配慮はすべきだったと思う。それと,過去の回想部分が短すぎ,どこに関連があったのかがわからないままに次のシーンになってしまったのも,計算違いだったと思う。

 それもこれも,映画本編が80分足らずと短いためだ。そのため,全体が急ぎ足になってしまった。多分,もう20分くらい長くして,このあたりを理解しやすい展開にしてくれたら,傑作映画になっていたと思う。


 こういう問題はあるが,基本的には秀作サスペンス映画だと思うし,最後まで興味をひきつける展開の見事さは一見の価値があることは確かだ。

(2008/04/14)

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