新しい創傷治療:ギリシャ・ゾンビ

《ギリシャ・ゾンビ》 ★★★★(2005年,ギリシャ)


 いろいろな映画を見てきたけど,ギリシャの映画って見たことがあったっけ? 記憶が定かでないけど,もしかしたらこの映画が初めてじゃないだろうか。そういう私のギリシャ映画初体験がこの《ギリシャ・ゾンビ》でございます。何でギリシャでゾンビなのか,もちろん,ギリシャのゾンビ好きが集まって映画を作ったからです。もうこうなったら,《ベネズエラ・ゾンビ》とか《モンゴル・ゾンビ》とか《エジプト・ゾンビ》とかもありだな。世界に広がるゾンビの輪,ってやつだ。

 もちろん,このタイトルを見てピンとくると思いますが,しょうもないB級映画でございます。俳優さんは素人っぽいし,ストーリーはあってないようなものだし,普通の映画ファンは近寄らない方がよろしいかと思います。

 しかし,画面全体から「俺たち,ゾンビが大好きなんだ!」というゾンビ愛がビンビンと伝わってくるのです。ゾンビ映画の基本的な約束ごとを守りながらも,ゾンビ映画の歴史に何か付け加えたという工夫とパワーが感じ取れます。低予算映画ながら,随所に見せる工夫,飽きさせない工夫がしてあって,「制作費史上最高+超豪華有名俳優多数参加+圧倒的なSFX+目を見張るようなCG効果」しか売り物のないどっかの国の豪華絢爛馬鹿クズ映画よりははるかにましです。

 ちなみに,私はこういう「馬鹿だけどパワフル,チープだけどやる気に満ちている」映画が好きなんで★★★★という評価にしましたが,常識ある映画ファンならもちろん★★くらいですね。


 映画のストーリーですか? 120字で要約できます。「新発見の洞窟には行った学者3人が何者かに襲われ,何とか逃げ出したものの,その後ゾンビと化し,人々を襲い始め,噛まれた人間はゾンビとなる。生き残った数人の人間たちは果たして,廃墟と化す街をうろつくゾンビの群から逃げられるのだろうか?」。これだけです。逆さに振ってもこれしかありません。


 逃げ回る人間は女性3人と男性2人,それにあとで1人の兵隊さんが加わるだけです。女性は15歳の少女(父親は例の洞窟でゾンビ・ウィルスに感染してゾンビに変身),20代半ばくらいの鼻筋の通った美人さん,20代後半くらいの黒髪の女性です。超美人というわけではありませんが,どの人も魅力的です。残りの男性は「ギリシャのスケベ男」丸だしのタクシー運転手と,ちょっと頼りになりそうな中年男性という組み合わせです。他にもあと数人いたような気がしますが,ま,いいでしょう。彼らはたまたま一緒になって逃げ回ることになったため,中心人物がいません。そのため,「こいつは最後まで生き残るんだよね」という登場人物がいないため,次にこいつが犠牲になりそうだな,という予想が立てられず,最後まで目が離せません。このあたりの作り方は見事ですね。

 ゾンビのメイクはごく普通ですが,スプラッターシーンはかなり気合いが入っています。頭は吹っ飛ぶわ,首がちぎれるわ,頭がまっぷたつになるわ,銃で顔のど真ん中にどでかい穴が開くわ,両側のこめかみに蝋燭を突き刺して首をもぎ取るわ,ゾンビの頭を床にたたきつけてグシャグシャするわ・・・という連続シーンが数カ所あります。それが実に爽快なんですよ。「このゾンビども! おめえら,好き勝手に暴れるんじゃねぇ! 俺たちを怒らせるんじゃねぇ!」という怒りがストレートに伝わってくるからなんですね。目を覆いたくなる残虐シーン,ではなく,闘争本能に火がついた人間の逞しさを感じるスプラッターシーンです。

 しかも,鼻筋美人のお姉さんは普段から体を鍛えているという設定でやたらと強いし,黒髪のお姉さんはなぜかカンフーの使い手で,ゾンビを次々に素手で倒していきます。「絶叫要員」だとばかり思っていた15歳の女の子もナイフを手にしっかりと戦います。

 ゾンビがウヨウヨしているという非常事態なのに,女を口説くことだけは忘れないタクシー運転手の中年おっさん,いい味を出しています。車のキーで遊んでいて側溝(?)に落としてしまい,そこにゾンビが襲ってくるなんてシーンには笑ってしまったぞ。しかも,このスケベおっさんを女性が誘って○○のシーンになったかと思うと・・・という月並みの展開があって,そこでオチが付いたかと思ったらまた同じシーンがあって・・・というあたりもおかしかったな。しかもこのおっさん,結構格好よく死んじゃうんだ。


 それにしても,登場人物たちの走ること,走ること。逃げる方は途中から走って逃げるんですが,それを追いかけてくるゾンビさんたちもかなりのスピードで走って追いかけてきます。さすがはオリンピック発祥の地,ギリシャのゾンビはひと味違います。名作ゾンビ映画《ドーン・オブ・ザ・デッド》を彷彿とさせる走りっぷりです。

 最後は,生き残った4人がなぜかサッカー場に入り(この映画監督,よほどサッカーが好きらしく,サッカーが随所に登場します),4人で輪を作り,ゾンビを待ちかまえます。すると映像はいきなり空撮に切り替わり,カメラはどんどん上昇。そして,豆粒みたいに小さくなった4人に四八方からアリのようにゾンビが群がろうとしているところで終わります。圧倒的に絶望的で救いようのないエンディングなんだけど,なんだか突き抜けた悲しさみたいなものを感じさせます。


 というわけで,素人臭い演技と演出が気にならず,とにかくひと味違うゾンビ映画を見たいという人にだけお勧めする作品です。

(2008/12/19)

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