新しい創傷治療:正体不明 THEM(ゼム)

《正体不明 THEM(ゼム)》★★★★ (2006年,フランス/ルーマニア)


 すごーく後味の悪い映画です。そしてかなり怖いです。正体不明の侵入者から逃げる二人の視点から描かれているため,否応ない恐怖感に襲われます。そして,全体的に画面は薄暗く,音楽も控え目。そして実に不気味な効果音。ここぞと言うところでの音楽の使い方がすごく効いています。ハンディカメラを多用した画面のブレがこれまた緊迫感が強くなります(最近,ハンディカメラを使った映画が多いですね)。70分ちょっとと短い映画ですが,それ以上に長く感じるんじゃないでしょうか。
 いずれにしても,ホラー映画としては水準以上の出来だと思います。


 とにかくストーリーは単純明快で,ルーマニアのフランス人学校の教師をしているクレモンティーヌと,彼の夫で作家のリュカ,この二人がクラス郊外の屋敷に,ある日,複数の不審者が侵入し,彼らから逃げるための二人の必死の脱出劇を描いたもので,実際にルーマニアで起きた事件を元にしているらしいです。

 侵入者たちの正体は最後の最後に明かされます。夫婦と周囲の人たちの人間関係は全く描かれませんから夫婦に恨みを・・・という線は最初からありません。冒頭のシーンで母親とその娘が殺されるシーンで始まりますから,おそらく無差別殺人だろうと言うことは初めから予想がつけられます。実話ですから,宇宙人,悪霊,化け物,妖怪・・・という線もありません。犯人は人間しかいません。

 となると,快楽殺人を楽しむグループか,悪魔信仰にとりつかれた集団か(何しろ吸血鬼の本場,ルーマニアが舞台だし),そうでなければ○○か,この3つくらいしか可能性がなくなります。そして,最後に明かされる正体はまさにこの○○でした。こんな理由でこんな連中に襲われたら死んでも死にきれないですよ。
 エイリアンよりもプレデターよりもジェイソンよりも悪霊よりも亡霊よりもゾンビよりもヴァンパイアよりも怖いもの,それはやはり人間でした。


 というわけで,凄惨なシーンがあるわけでも,血や内臓がドバドバ出るわけでもなく,ひたすら逃げ回るだけの映画ですが,怖さは第一級です。そして,後味の悪さもこれまた第一級です。そういう映画がみたいという人だけ気合いを入れて見て下さい。後味が悪い映画はちょっと・・・という人は見ない方がよろしいかと・・・。

(2009/05/22)

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