新しい創傷治療:ガリシアの獣 Romasanta

《ガリシアの獣 Romasanta》★★★(2005年,スペイン)


 DVDジャケットを見るといかにも「B級狼男もの」みたいに見えますが(狼は何度も登場するし,狼から人間への変身シーンもある),それは見かけだけで,実はかなり良質のサイコサスペンスです。説明がちょっと判りにくい部分もあるけど,起承転結はきちんとしているし,人間関係も十分に説明されています。ちょっとスプラッター一歩手前のシーンはあるため,そういうのに弱い人にはちょっと問題があるかもしれませんが,普通に「見て損はない」作品の水準はクリアしています。ちなみに,19世紀のスペインで実際に起きた「アリャリスの狼男事件」というのをベースに作られているそうです。


 舞台は1850年頃,スペインはガリシア地方。この地方では住民の失踪事件が続き,次々と惨殺された死体が発見されていた。住民たちは狼の仕業と考え,大掛かりな狼狩りを行い狼を捕らえたが失踪者は減らず,今日もまた死体が見つかる始末だった。それに対し,警察は大学のフィリップ教授に鑑定を遺体の鑑定を依頼し,教授はそれらが狼の仕業に見せかけた人間の犯行による殺人事件であることを見抜く。

 その地方に若く美しい娘,バーバラが暮らしていた。彼女は姉とその娘と一緒に暮らしていたが,姉の夫は事故で亡くなり,夫の亡くなった様子を伝えに来た行商人ロマサンタと親しくなり,彼が行商で村に立ち寄るたびに自宅に泊めていた。そしてロマサンタは姉に,子供の教育のために大きな街に引っ越そうと提案する。バーバラも彼らと一緒に行こうとするが,姉はバーバラがロマサンタに心惹かれていることを知り,同行を拒否する。

 しばらくたって,また村を訪れたロマサンタから姉たちが街で幸せに暮らしていると伝え,一緒に行こうと言う。

 しかし,ふとしたことから彼女はロマサンタの言葉に疑いを持つようになり,彼が馬車の床に隠していた箱の中身を見てしまい,ロマサンタが連続殺人の犯人であることを知ってしまう。そしてロマサンタはバーバラの前から姿を消すが,バーバラは箱の中身のわずかな手がかりを元に,ロマサンタの居所を付きとめようとし,やがて警察も彼女とともに捜査に乗り出す。

 そしてロマサンタは発見され,拘束されるが,裁判の場で彼は常軌を逸した証言を始める・・・という映画です。


 このDVDジャケットを見ると,いかにも狼男映画という感じで,誰でも人狼映画かと思ってレンタルしてしまうと思うが,多分そういう人は肩透かしを食うと思います。もちろん,死体はバンバン登場するし,損傷された死体のアップはありますが,それは「ちょっとした味付け」程度であり,映画そのものは「連続殺人の犯人は誰なのか」,「本当に人狼は存在するのか」という謎解きがメインとなります。その意味で,ロマサンタが自分を狼男であると自覚するようになった経緯をもうちょっと丁寧に描いて欲しかった気もします。

 何よりいいのは,ヒロインのバーバラ役の若い女優さんです。かなりの美人です。そして同時に,姉とその娘の失踪に自分にも責任があると考え,殺人鬼ロマサンタを追う行動力もあります。彼女が画面に登場するだけで,画面全体が輝くほど魅力的です。なお,一箇所だけ入浴シーンがあり背後からロマサンタが近づく,というところがあります。ここでの二人がかなりエロティックです。特にバーバラのあの行動! お子様は見ていけません。

 それと同時に,科学の信奉者であり,犯罪と犯罪者を科学で分析し,分類しようとする大学教授の存在が面白いです。もちろん彼の学説は今日の目から見ると噴飯ものですが,19世紀のスペインの片田舎と言えば文化の辺境地で,因習とか迷信がまだまだはびこっていたはずですから,この映画はそういう古い時代と,教授に象徴される科学の時代の相克という見方も可能でしょう。


 このような本格的サスペンスなのですが,問題点としては,エピソードが細切れに,しかも時間軸がバラバラで提示される部分が多いため,前後関係と人間関係がわかりにくいです。特に,ロマサンタを追うアントニオに関する部分(ロマサンタとの関係はどうなっているのか,なぜ彼を追っているのか,なぜつかまって投獄されているのか,など)は最後までよくわからなかったし,「バーバラ」「姉とその娘」「ロマサンタ」の関係も途中まで明確に示されないため(彼らの関係は映画後半になってようやく説明される),姉とロマサンタが夫婦なんだか恋人なんだかわからないまま見続けることになり,これはちょっと辛かったです。ここはさすがに「懲り過ぎ」という気がします。

 映像的には非常に丁寧に作られています。19世紀中ごろの街の風景,村の祭りの様子などかなり正確な感じですし,重厚な映像とそれにマッチした音楽も見事で,映画全体に安っぽい感じの部分はほとんどありません。


 と言うわけで,見て損はない佳作だと評価します。

(2009/08/04)

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