《メモリー 〜殺戮のビジョン〜》★★ (2006年,アメリカ)


 ある薬物の作用で過去の事件が見えるようになってしまった医師を主人公とする映画ですが,やたらと仰々しい副題と複雑そうな伏線の数々の割には,全体像がわかってしまうと実はこじんまりとしたサスペンス映画でした。30年以上にわたるおどろおどろしい連続誘拐事件を扱っているのに,実は「主人公の半径20メートルくらいで起きた」事件なんですよ。真相が分かってしまうと,オイオイそれかよ,ってな感じです。

 それと,主演のビリー・ゼイン(《タイタニック》に出演)の他,二人の大御所的俳優が登場しますが,この二人がでてきた時点ですでに勘のいい人は,「犯人はこいつらのどちらかかに決まってるな」とわかっちゃいます。この二人がどちらも犯人でないとしたら,大御所二人とも真犯人(ゼインが真犯人でないとしたら,さらに端役級の俳優が演じる)に殺されるだけの役になっちゃいますが,それは絶対にないだろうと誰しも気が点くはずです。このあたりは,サスペンス映画としては致命的なミスと言えるでしょう。

 それと,事件の全体像がなかなか見えてこないのに,小細工的伏線が次々と張られていくため,途中から「どうでもいいけど,早く結末を教えてくれよ」という気にもなってきます。ここらも,作り手側の一人相撲かもしれません。


 舞台はまず,ブラジルのサルバドル。一人の男が逃げ回っているが,ついに先住民(?)たちに捕まってしまうシーンから始まる。

 そしてそのブラジルでのアルツハイマー学会(?)に出席しているのがテイラー医師(ビリー・ゼイン)だ。彼の元に地元病院から要請があり行ってみると,先ほどの「先住民に捕まえられた男」がベッドに横たわっていて,担当医師は「このMRIを診て欲しい」という。そしてMRIはなんと,男の記憶野だけに脳腫瘍ができていることを示していた。脳専門医のテイラーでも診たことがない奇妙な所見だった。そして,男の手がかりとなる持ち物を調べたテイラーは指先を切ってしまい,袋の中に入っていた白い粉を傷口につけてしまう。その夜,ホテルに戻ったテイラーは「バーバリーのコートを着て白い仮面をかぶった男」と,彼に閉じこめられた少女の幻覚を見る。あまりにも生々しい幻覚に彼は混乱する。

 翌日病院を訪れたテイラーは,昨夜の病人が死亡したことを告げられ,彼の荷物をこっそりと持ち出してしまう。

 そして舞台はボストンに移る。テイラーはアルツハイマーで寝たきりの母親と二人で暮らしていた。彼は母親のためにアルツハイマーの研究をしていたのだ。父親は彼が生まれる前に亡くなり,母の古くからの友人で画廊を経営しているキャロン(アン・マーグレット)とその夫のマックス(デニス・ホッパー)が実の子供のように愛してくれていた。

 そして街を歩いていたテイラーの目がある画廊に飾ってある一枚の絵に止まる。なんと,自分の幻覚に登場した「コートの男」にそっくりあったのだ。こうしてテイラーはその絵の作者の若い美女,ステファニーと知己を得る。

 自宅に戻ったテイラーは,死んだ男の遺品からCD-Rを見つけだし,彼が遺伝学者で,両親の記憶が子供に遺伝し,普段はブロックされているその記憶が「ブラジル先住民が儀式に使う白い粉」により呼び戻される,という研究をしていたことを知る。つまり,テイラーは偶然の事故から「両親の記憶」を見てしまったのだ。

 そしてテイラーは,母親が写っている写真からその場所がサラワク湖であることを知り,その湖へと急ぎ,そこで驚愕の事実を知る。そして,不自然に切り取られた母親の写真に写っている車のナンバーから・・・という映画である。


 というように要約してみると気がつきますが,映画を見ている最中は無駄なエピソードが多くてゴチャゴチャしてわかりにくい映画ですが,実はテイラーが見た幻覚は「彼の両親の記憶の遺伝」です。ということは,少女誘拐・殺人事件は彼の実の親が犯したものです。テイラーの父はすでに死んでいますから,「この事件は亡き父が起こしたもの」というオチはあり得ません。かといって,アルツハイマーで意識もほとんどない母親が実は若い時・・・というのも話としてはあり得ても,「真相を暴いたテイラーに身の危険が迫る」と続きませんから,この線も消えます。となると,この映画の登場人物で30年前から生きているのは○○と▽▽しかいなくなってしまいます。つまり,脳腫瘍患者の遺品にCD-Rがあったことを思い出すと,物語の全体像と結末はある程度わかってしまうんですね。

 つまり,サスペンスとしては最後までテイラーの幻覚を「誰の記憶を見ているのかわからない」という設定にすべきで,最後に真犯人が分かってから例のCD-Rが見つかり・・・とした方がよかったと思いますね。


 それと,画家のステファニーが描いた「森の黒いコートの男」とこの事件の関連性がいまいちよくわかりません。どうも,「真犯人が両親を事故に見せかけて殺して孤児になった少女」らしいのですが,なぜその彼女がその様子を覚えていたのか,全くわかりません。それとも,ステファニーが偶然描いた絵が,テイラーの記憶の男と偶然似ていただけとなってしまうけど,それでいいの?

 この映画は要するに,30年前から繰り返し行われている少女誘拐・殺人事件の犯人探しと,主人公の出生の秘密を絡めたものなんですが,そもそもブラジルの病院の医者が「有名な医者がブラジルに来ているから,この患者のMRIを見てくれないだろうか」ということから始まったものです。同じブラジル国内の医者同士とか,学会でよく知っている間柄ならいざ知らず,全く面識のない外国の医者を病院に呼ぶ,というのは絶対にあり得ない設定です。しかも,たまたまテイラーがブラジルに行った時期に,あの遺伝学者が先住民といざこざを起こすという事件が偶然重なったというのも都合よすぎます。せめて,ブラジルの病院の医者が以前からテイラーをよく知っていた,なんて伏線を張っておくべきでしたね。


 というわけで,謎解き系サスペンス映画としては可もなく不可もない,というレベルです。一応最後まで見続けましたが,面白くて目が離せないというより,真犯人が誰で事件の真相がどうなっているのかがわからないと気持ちが悪いから見た,という感じです。

(2009/12/03)

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