《HAKAIJYU 破壊獣》★★ (2006年,アメリカ)


 登場人物の背景とか人間性とか過去の出来事とか,そういうのはとても丁寧に描写していて好感が持てるんだけど,肝心のサスカッチという伝説のモンスターがあまりにもチープで悲しくなるくらい手抜きでございます。悪い作品じゃないし,安っぽいモンスター映画では終わらせたくないぞ,という作り手側の意図はビンビン伝わってくるのですが,モンスターが安っぽすぎるために,その意図は空振りに終わっちゃいました。そうです,貧乏が悪いんです。同じ設定でいいから,モンスターをもうちょっとましに作っていたら結構いい映画になったのになぁ,って思います。これだったら,最後までモンスターの全身を映さないで謎のまま終わらせた方が良かったかも。

 ちなみに,物語の陰の主人公はサスカッチ(Sasquatch)というUMAです。どうやらアメリカでは「ツチノコ」級に有名らしく,ネイティブ・アメリカンの伝説に登場する "Big Foot" と同じもので,正体は巨大な類人猿と考えられています(要するにヒマラヤのイエティと同じですね)


 映画は冒頭はいろいろありますが,ちょっと経つとエリン(セリナ・ヴィンセント)という女性が登場します。彼女は過去に色々あったらしく,過去と決別するために旅をしているようです。そこで,自宅前(?)でフリーマーケット(?)を開いているラクエルという若い女性と知り合いになり,一本のVHSビデオテープを渡されます。それには彼女の母親が謎の生物に襲われた様子が一瞬写っていて,そのビデオで街が有名になったといういわくつきのビデオです。

 エリンは山奥に向かって車を走らせますが,その時,一台の車と衝突してしまい車は動けなくなってしまいます。なんとその車は,さっきの街の銀行を襲って逃走中の犯人たちが乗っている車でした。そして犯人たち(男性4人と女性1人だったかな?)と彼らを追ってきた警官の間で銃撃戦となり,犯人たちはエリンを人質に取り,山中に逃げ込みます。

 しかしその山は,伝説のUMAサスカッチの伝説で有名な山だったのです。そして追う者と追われる者の両方が正体不明の怪物に襲われ,一人,また一人と犠牲者が増えていき,ただならぬ気配を察した二つのグループは生き残るために協力し合い,怪物を倒そうとしますが・・・というストーリーでございます。


 生命の危機に瀕し,警察(保安官)と犯人側が一時休戦して共通の敵に立ち向かい,その中で犯人と警察側に心の交流が生まれていく,という映画はサスペンス映画ではたまにありますが,モンスター映画ではちょっと珍しいかもしれません。


 しかもこの映画では,銀行強盗側の冷酷なボスが,実は父親との葛藤に悩んでいたりして,最後の方では心臓発作(・・・多分だけど)に倒れた保安官の爺ちゃんを心臓マッサージして助けようとしますし,女たらしの軽薄野郎のイケメン君も後半はしっかりと改心して,騙した女性に大金(・・・とは言っても,これって盗んだ金ですけどね・・・)を渡して「いい人」になっちゃいます。同様に,犯人側の唯一の女性は東洋系の顔立ちのお姉さんで,基本的に凶暴冷酷キャラなんですが,途中でエリンと心を通わすシーンもあり,実はちょっぴりいい奴だったりします。そして,事件に巻き込まれるエリンも,どうやら男に騙されてひどい目に遭い,そこから立ち直ろうとしているという背景があるらしく,サスカッチを倒すほどの戦闘能力はありませんが,基本的に「強い子キャラ」です。

 というわけで,こういうタイプの映画には珍しく,「モンスターに遭遇してパニックになり,ギャアギャア騒ぐだけ」のキャラがいないんですね。こういう「騒いで勝手にパニック」キャラがいないのは,この手の映画ではかなり珍しいです。

 そしてそれ以上にいいのが3人の爺ちゃんたち。みんな風雪を感じさせるいい顔をしていますし,なにより精神的にタフです(とはいっても,ちょっと歩くと息切れしたり,心臓発作を起こしたりしますけどね)。私は年齢的にこういう爺ちゃんたちの年齢にどんどん近づいているため,こういう爺ちゃんになれたらいいよなぁ,なんて思っちゃうわけです。


 というわけで,登場人物に関してはそれぞれキャラが立っていてよろしいのですが,モンスター・パニック映画としては展開がのろのろし過ぎているんですね。なぜこうなったかというと,主役であるモンスター「サスカッチ」の造形が余りにしょぼすぎるため,「未知のモンスターと遭遇した恐怖感」を観客側が全く感じられないからなんですね。本来なら,一人,また一人と犠牲者が増えていくとともに,観客側にも得体の知れない恐怖感が伝わり,それが次第に増大していくものなんですが,それが全くないのです。この弱点には映画監督も気がついていたからこそ,銀行強盗側と保安官側の会話やら心の交流やらを延々と流すしかなくなってしまい,そのためにだらだらした展開になってしまったのでしょう。

 ミスといえば,サスカッチに妻を殺されて以来,周囲から心を閉ざしているという設定の老保安官を主人公にしている以上,再度サスカッチに立ち向かうことで何かを取り戻していく,というシーンも絶対に必要だったと思うし,同様に,亡き妻との間に残された娘のラクエルとの葛藤,なんてのも描くべきだったはずです。というか,これは絶対に必要じゃないでしょうか。


 というわけで,とにもかくにもこの映画の最大の失敗は,目玉ともいうべき「サスカッチ」のチープさに尽きます。何しろ,ガチャピン&ムックの毛の長い方(ムックでしたっけ?)を真っ黒にし,オモチャ屋さんで買ってきたと思われるゴリラの被り物を被っているだけなんですぜ。スーパーの店先での「○○マン・ショー」の怪物より安っぽいです。

 しかもどう見ても,身長は2メートル以下で,チェ・ホンマンよりはるかに小さいです。というか,和○アキ子さんの方が絶対に強いと思います。だから,こいつが襲ってきても恐怖感を感じられないんですよ。せめて,もうちょっと異形のモンスターにするとか,せめて身長3メートル以上の巨大なものにして欲しかったです。

 そういえば,映画の後半,村人がサスカッチに餌を与えていたということが判明します。そして,サスカッチの死体もしっかりと残っているはずなのに,地元新聞には「銀行強盗とそれを追う保安官が熊に襲われて死亡」と載るんですが,ここあたりも説明不足です。本来なら,「地元住民たちはサスカッチを神として大事に扱っていて,サスカッチの存在が知られることを望まなかった」というような説明が事前にすべきだったと思います。でないと,これらのシーンは理解不能です。というか,普通ならサスカッチの死体を使って,「サスカッチの山」として村おこしの目玉にしますよね(私なら絶対にそうするよ)


 ヒロイン役のセリナ・ヴィンセントですが,結構ナイスバディで,終始,胸の谷間を見せてくれますが,それ以上のシーンはございませんし,同様に,強盗側の東洋系お姉さんもちょっとセクシーなんですが,「そっち」系の行動はしません。また,強盗側の男性陣も谷間見せまくりのエリンを襲ったりしません。彼らにとっては性欲より着ぐるみサスカッチへの恐怖の方が強かったのかもしれませんが,揃いも揃って品行方正というか草食系男子ばかりです。ま,どうでもいいですけどね。


 というわけで,モンスター・パニック映画としてみるとかなり異質というか,物足りない感じがありますが,モンスターがちょっとだけ登場する密室スリラー映画として見ればいいのかもしれません。

(2010/02/02)

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