《ゾンビ・トランスフュージョン "Automaton Transfusion"》★★★(2008年,アメリカ)


 普通の映画として見ると,見所も何もないクズ低予算映画ですが,ゾンビ映画として見るとまぁ,そこそこ面白いというか,金をかけてない割には悪くないじゃん,という出来です。何より,余計なシーンなしに次々と話が進んでいって,ゾンビに襲われるシーンが即物的に描かれているのがいいです。おまけに,ラストまで見ても75分とコンパクトなのも好印象です。内容のなさを意味のない人情話や夫婦の愛情物語で膨らませて90分映画に引き延ばす作品が多い中,この姿勢は潔くって拍手ものです。

 ただし,グロいシーン,スプラッター・シーンはかなり気合いを入れて作っているため,そういうのに弱い人は絶対に見ちゃダメだよ。


 舞台はアメリカのどっかの田舎町。まず,死体安置所みたいなのが写され,死体に慣れてない新人兄ちゃんがいきなりゲロを吐いています。そして,ゲロを吐き終わったと思ったらいきなり,ゾンビに襲われちゃって喰われちゃいます。余計な前フリなしに,いきなり血みどろシーンでございます。

 で,舞台はこの町の高校に移ります。アメリカの高校ですから,カップルはイチャイチャして発情期に入っているし,もてない君は欲求不満です。教師が生徒に噛まれて重傷を負う事件が起きますが,まだこの時点では騒ぎにはなりません。男子も女子もその夜のライブに夢中でございます。

 そして,3人の学生がライブハウスに向かいますが,異様に静かな町の様子に異変を感じ,車を降りますが,その途端,血だらけのゾンビが群をなして襲ってきたため,ライブハウスに逃げ込みます。しかしそこもゾンビに襲われ,辛くも脱出した彼らは友人たちが集まっているパーティー会場に向かいますが,そこも既に血の海でした。ただ一人生き残っていた女子生徒も彼らに合流し,災害時の避難場所として指定されている学校に向かうことにし,何とかたどり着きますが,その体育館も死体の山で,その死体たちも襲ってきます。

 絶体絶命のその時,彼らは学校の用務員のリーに助けられ,これは突発的な事件ではなく,軍と政府が絡んだ秘密実験だったことを知り・・・という映画です。


 私の記憶では,2001年頃以降,「ゾンビ=死体を生き返らせて兵士として使う」という秘密実験である,と説明するゾンビ映画が多い気がしますが,これもその一つです。どうせゾンビなんて,架空の存在なんだから変に合理的に説明しなくてもいいような気がするんですが,これも一つの世の流れ,流行なんでしょうね。この映画でも「1970年代から反戦ムードが高まり,自分の子供が戦地で死ぬのは嫌という親が増えてきた。その点,死体を兵士にすれば悲しむ親はいないし好都合だ」と説明しています。要するに,人手不足の軍隊としては「猫の手でも死体の手でも借りたい」というのが本音でしょうね。


 で,このゾンビ映画は明らかに低予算です。エキストラはやたらと多いですが,主要登場人物はどれも無名の若い俳優さんだけだし,CGは使っていないし,ゾンビのメイクも「ちょっと顔を白く塗っただけ」です。それなのに,ゾンビが人間を襲うシーンはやたらとリアルで凄惨で迫力があります。

 映像の質ははっきり言って悪く,粒子が目立ちます。学生が卒業制作で作った映画の方が,おそらくもっといい映画が撮っただろうと思います。おまけに,ハンディカメラで撮影したと思われるシーンがやたらと多いです。ハンディカメラで撮影して臨場感を出す映画は数年前から流行で,逃げまどう人間たちの臨場感を出すために使われた手法なんですが(P.O.V.ってやつね),この映画のようにのべつまくなし,素人が撮影したようなハンディカメラ画像を見せられると,さすがに疲れます。「過ぎたるは猶及ばざるが如し」という諺をこの映画の監督に贈りたいと思います。


 最後の方で,用務員のリーさんから「君のお父さんもこの研究に関与していて,お父さんはゾンビに対する血清開発に成功したのだ」と告げられ,息子は死体安置所に向かって血清を手に入れようとします。でも,医学的に考えると,血清というのは「ゾンビに噛まれたが,ゾンビ病(?)を発病する前の患者」に投与して発病を押さえる効果しかないはずですから,血清ではゾンビ蔓延は防げないんじゃないでしょうか。必要なのは「血清」ではなく「ワクチン」じゃないかと思いますが,ま,気がつかないフリをしてあげましょう。。


 この映画の最大のクライマックスは,死体安置所から出た主人公のカップル(?)がゾンビの大群に教われ,武器はなく,しかも建物にも入れない,という絶体絶命のシーンでしょう。二進も三進もできない,とはこういう状態をいいますが,なんとここでこの映画は禁断の一手を出します。画面に "To Be Continued",つまり「次回に続く」というテロップを出しちゃうのです。

 オイオイ,ここで「トゥ・ビー・コンティニュード」か? この映画,続編を作るつもりか? というか,続編が作れると思っているのか? 主要登場人物はほとんど死んでるだろ! これで続編は作れると思ってるのか?

 たぶん,映画の作り手はここで映画作りに飽きちゃったんでしょうね。ゾンビが人間を喰うシーンはリアルに撮れたし,女の子のエッチシーンも撮れたし,もうこれでいいや,って思っていたんじゃないでしょうか。主人公が追い詰められるシーンを撮ったはいいけど,そこからどうするかは考えてないし,予算も尽きちゃったから,もういいや,という感じじゃないでしょうか。でも,それじゃ格好悪いから,「次回に続く」って出しちゃったんじゃないかなぁ。


 ちなみに,単なる思いつきですが,ゾンビというのは土葬文化と「最後の審判」文化が生み出したものじゃないでしょうか。Wikipediaによると,最後の審判とは「世界の終わりにイエス・キリストが再臨し,あらゆる死者をよみがえらせて裁きを行い,永遠の生命を与えられる者と地獄へ墜ちる者とに分ける」ことだそうですが,火葬した灰から甦るのはさすがに無理っぽいので,やはり復活するためには土葬の方が都合が良さそうです。
 ・・・という訳で,最後の審判現場では土葬にした墓場から次々に死者が甦るのでしょうから(・・・多分),その光景はそのまんまゾンビ映画と同じなんじゃないかと思います。少なくとも,火葬文化圏ではゾンビの発想は生まれないんじゃないでしょうか。


 というわけで,ゾンビ映画が好きな人なら見ても損はないと思いますが,それ以外の人は見ない方がいいと思います。

(2010/04/15)

Top Page