《リヴァイアサン "Razor Tooth"》★★(2006年,アメリカ)


 こういうB級、C級モンスター・パニック映画を見ていると、《ジョーズ》や《ジュラシック・パーク》がいかに優れた作品だったかよくわかります。モンスターの造形は素晴らしいし、彼らの動きは自然で完璧だし、モンスター出現の理由は納得いくし、非の打ち所がありません。おまけに、ストーリーの運びも見事だし、話の緩急のテンポがいいし、登場人物もキャラが立っています。

 もちろん、《ジョーズ》と《リヴァイアサン》ではかけている金が違いすぎているから比べちゃいけないのかもしれないけど、たぶん両者は、根本的なところが何かが違っているんでしょう。両者を分けるものは、「これまで誰も作ってこなかった映画を作ってみたい」という意志の有無じゃないでしょうか。そういう意志がある人が作ると、低予算でもおもしろい映画が作れるんですよ。《ソウ》《エル・マリアッチ》がそのよい例ですね。


 というわけで、箸にも棒にもかからないショーモナイ系モンスター映画のはじまり、はじまり! ストーリーを紹介しながらツッコミを入れていきます。

 舞台はアメリカ南部(?)のどっかの湖沼地域(・・・というのでしょうか、地面より水が溜まっている部分の方が多そうな一帯)です。

 いきなり登場するのが刑務所から脱走した囚人二人組です。警察官たちが追ってきて、ハイウェイを封鎖しろ、なんて無線で連絡しています。ところがいきなり、一人の警官が何かに襲われて喰われちゃいます。おっ、なんだ、なんだ、と思っているとあっという間に警官隊は全滅。何やら、怪物みたいなのに襲われた模様です。この時点では、この怪物くんは体をチラッと見せるだけでございます。まだ映画が始まって5分もたっていませんから、正体は隠さないといけません。
 脱走二人組は隠れていて襲われないので、怪物くんはどうやら目で見て獲物を探す動物のようで、臭いでは探さないようだと推理しちゃう場面です。もちろん、この推理は全然役に立たないんですけどね・・・。
 で、脱走二人組は、木の上の警察官の死体を見て「ワニにでも襲われたんだろう」とムチャクチャな推理をして納得。「この二人組、映画の後半で主人公たちと協力してリヴァイアサン退治に活躍するんじゃないかなぁ」なんて考えたくなりますが、実は無駄な期待でした。


 そして、本編の主人公、動物管理局のデルマー君登場。なぜか唐突にハーモニカを吹くナイスガイです。あまりにもハーモニカを吹きまくるため、実はこのハーモニカがリヴァイアサン退治に重要なアイテムになるのかな、なんて考えたくなりますが、これも無駄な期待でした。レストランの調理場に仕掛けたネズミ取りにかかったネズミ(結構でかいぞ)をレストランの客の前で振り回したりするナイスガイです。モンスター映画なんだから動物に詳しい人間を主人公にした方がいいよね、という配慮から登場した模様です。

 で、この沼のほとりのキャンプ場にカヌークラブの面々が集まり、カヌーの練習を始めます。いかにも虚弱でトロそうな青年が登場します。みんなにバカにされていますが、バカにしている面々はいかにも「こいつら絶対に映画が始まって30分以内に喰われる連中だな」と誰しも気がつきます。この予想、正しいです。

 で、大学生4人組(男3人、女1人)登場。女子学生はメガネっ娘、男3人のうち2人は筋肉バカ、1人はデブちゃんです。メガネっ娘とデブは「外来生物のタウナギの研究をしている教授の研究を手伝う」ため、筋肉バカの二人組は単位欲しさに研究の手伝いをするようです。お利口二人組はバカ二人組に、タウナギがいかに恐ろしい生物か、どれほど生態系に脅威なのかを得々としてレクチャーします。ほとんど間違っているような気がしますが、気にしないようにしましょう。


 で、さっきのキャンプ場にデルマー君到着。そこに女性保安官のルースも「昨夜、刑務所から二人の囚人が脱走し、まだ見つかっていない。しかも、彼らの捜索に当たっている警官隊からの連絡も途絶えている」という理由で登場。実はデルマー君とルースはつい最近、離婚したばかりのようですが、再会した二人はいきなりラブラブモードに突入。どうやら,二人同時に発情期に入った模様です。離婚した理由が全然わかりません。

 で、ラブラブの二人はキャンプ場と沼のほとりの捜索をしますが、5人以上と思われる警察官の死体は見つけず、捜索願いの出ていた犬の死体を見つけます。水面からリヴァイアサンが顔を出しますが、二人とも気がつきません。ここまでの話で、リヴァイアサンが巨大化したタウナギだとわかっていますが、とてもレベルが低いCGです。

 タウナギ君、手当たり次第にどんどん人を喰っちゃいます(・・・魚なんで手はないけど)。タウナギ君、実は陸上生物じゃないの、と思うくらい、陸上を自由自在に走り回ります。木にも登ります。家の中にも入ってきます。レストランも襲われて従業員も客も全滅します。カヌー練習中の皆さんも全員、タウナギ君の胃袋に直行です。

 リヴァイアサンは人間を一口で喰いちぎる巨大魚なんですが、なぜか直径10センチくらいの排水口からでも入ってきます。そうそう、メガネっ娘ちゃんは「タウナギは自由自在に体の大きさを変えられるのよ」って説明していたっけ。なるほど、勉強になるなぁ。


 一方、例の囚人二人組は画面にチョコチョコ登場しますが、全然活躍しません。保安官のルースちゃんは脱走二人組のことを忘れてしまっているし、観客も彼らの存在を忘れかけていますが、息子が行方不明になった一人の父親が「脱走囚人が犯人だ」と喚いているおかげで、「そうそう、この映画は脱獄囚人の話から始まったんだっけ」と思い出させてくれます。

 そろそろ、巨大タウナギ君の正体を明かさなければいけないよね、というわけで、デルマー君がタウナギ博士に「この怪物はお前が作り出したものだろう!」と殴りかかります。どうやら、リヴァイアサンは遺伝子操作で作り出したタウナギで、孵化して2ヶ月で2メートルまで成長し、しかも研究所内でこいつに襲われて死者まで出たことが明らかになります。ちなみに、タウナギ博士は「糖を分解できない遺伝子を導入したら、巨大化したんだ」と説明しています。なぜ、糖を分解できないようにしたかというと、果樹園から「ウナギが果物を食べないようにしてほしい」と頼まれたからなんだそうです。「果物を喰い荒らすタウナギ」という時点で既に大幅に間違っているような気がしますが、気にしないようにしましょう。

 そんなわけで、殺人事件の犯人は脱走囚人でなく巨大タウナギだとわかり、みんなでこいつを捜して殺そうということで意見が一致します。ただでさえ影が薄い脱走囚人君たち、さらに影が薄くなります。苦労して脱獄した甲斐がありません。

 というわけで、みんなで水辺を探したり、ボートに乗って捜索したりするのですが、なぜか物見遊山気分で緊迫感がありません。そうそう、前のシーンでデルマー君とルースちゃんはエッチしていましたね。いよいよ、なぜこの二人が離婚したのか、訳が分からなくなります。


 そういう人間様をしり目に、タウナギ君は元気一杯に人間をパクつきます。冬眠前の熊だってこれほどの食欲はないと思います。ギャル曽根級の食欲です。おまけに、アナコンダより速く陸上を移動します。どうみてもウナギというよりヘビです。

 ちなみに、タウナギというのはウナギではなく、肺魚の仲間のようでして、肺呼吸できる魚なんだそうです。どうやらこの映画のタウナギ君は、完璧に陸上生活に適応したようです。

 ちなみに、タウナギ君のシーンは何度も同じCGを使い回します。おまけにCGの出来はあまりよくありませんが、見て見ぬ振りをしてあげましょう。


 脱獄囚人二人組もこのころ、タウナギ君に喰われちゃいます。全然、活躍しませんでした。というか、なぜ、彼らの脱獄話を絡ませたか、訳が分かりません。

 巨大タウナギ君、ここと思えばまたこちらと、あちこちで人間を襲います。ほとんど、瞬間移動をしているとしか思えません。観客は「もしかしたら巨大タウナギは一匹だけじゃないかも」と疑い出しますが、なぜかデルマー君もルースちゃんもその可能性に気がついていません。

 デルマーとルース、どっかの小屋に到着します。ここで、あの武装オヤジの息子が死んでいることがわかります。ルースちゃん、なぜか「私たちにできるのはここまで。あとは検視官に来てもらいましょう」と言います。ここは検視官でなくて州兵を呼ぶべきだろ、というツッコミが四方八方から入りまくっております。


 巨大タウナギ君、登場人物が残り少なくなってきたというのに、食欲は衰えません。空気読めよ、と言いたくなります。あまつさえ、タウナギ博士はリヴァイアサン退治に用意した青酸カリウム弾を発射しますが、なぜか武装オヤジを撃ってしまいます。少なくなった登場人物間で同士討ちしてどうする気なんでしょうか。観客も「こんなに死んじゃ、誰がタウナギを倒すんだ?」とそろそろ心配になってきます。

 ここで、最初の方にちょっと登場しただけの「カヌー・クラブの虚弱少年」が再登場。カヌー・クラブの中で唯一の生き残りです。どうやら彼はT型糖尿病患者らしく、インスリン注射を忘れて血糖値が上がったために巨大タウナギ君が食べなかったんですよ。「糖を代謝できない」というタウナギ博士の説明がここで生きてくるんですね。

 で、筋肉バカが持っていた「グルコースのサプリメント(この筋肉バカ君はグルコースがなにかわからないくらいの馬鹿だったことがここで判明!)」を煮詰めて高濃度ブドウ糖液を作り、ボウガンにセット。デルマーが囮になってタウナギ君をおびき寄せ、ルースちゃんがブドウ糖弾を打ち込みます。タウナギ君、倒れます・・・が、すぐに起きあがって沼に隠れます。「10mlくらいのブドウ糖じゃ足りないだろ。バケツ一杯のブドウ糖を飲ませないとだめだろ!」というツッコミが入りまくり状態です。


 万策尽きたかに思われたその時、デルマー君は「あの全てにおいて慎重な武装オヤジ、もっと兵器を持っているはずだ」ということに不意に気がつき、オヤジの持ち物から手榴弾を発見します。民間人も普通に手榴弾を持ち歩いているアメリカに乾杯!

 で、デルマー君、沼に入ってタウナギ君をおびき出し、何をするかと思ったら、タウナギ君の胴体にしがみついて格闘します。「水中のウナギはヌルヌルして掴めないだろ!」というツッコミが四方八方から入りまくる名シーンです。でも、しがみついているだけじゃ手榴弾は爆破できません。どうするんだろうと思っていると、手榴弾はいきなり宙に舞います。万事休すと思ったその時、なぜかタウナギ君は手榴弾を器用に空中で口キャッチして、飲み込んでくれます。そしてなぜか、デルマー君を襲うのを諦めて水中へ!

 デルマー君とルースちゃん、陸に上がってベンチみたいなのに座り、見つめ合い、熱いキスを交わします。タウナギ君が大爆発し、血みどろの肉片が二人に雨あられと降ってきます。でも、愛し合う二人は大丈夫。血みどろの顔でキスを続けるのでありました。今にも交尾しそうな勢いです。

 「すっかりお腹が空いちゃったわ」「俺もさ。でもシーフードはごめんだぜ」なんて脳天気な会話をしながら帰っていく二人の後ろ姿を、3匹の巨大タウナギ君たちが見送るシーンで終わるのでありました。


 それにしても、こんな映画に「リヴァイアサン」というタイトルを付けた配給会社、いい仕事をしていますねぇ。


 ここで,一つくらいは正確な情報を。
 リヴァイアサン(Leviathan)は旧約聖書の「ヨブ記」や「詩篇」に登場する海の怪物です。
 一方,『リヴァイアサン』は啓蒙思想時代の哲学者トマス・ホッブスの哲学書のタイトルです。彼は,自然状態の人間は「万人の万人に対する闘争」に明け暮れて常に混乱状態に陥ってしまうため,人間は天賦の権利である自然権を政府(=リヴァイアサン)に譲渡し・・・というようなことを考えた人らしいです。

(2010/04/30)

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