《烏 "Die Krahen"》★★★(2006年,ドイツ)


 この映画のタイトルを見た100人中100人が,おっ,これはヒッチコックの《鳥》のリメイクか,と早とちりするはずですが,配給会社もその線を狙ってこのタイトルをつけた模様です。ちなみに原題は「烏(カラス)」であって,「鳥(とり)」ではありません。

 ちなみに,タイトルと言いDVDジャケットと言い,動物パニック映画を想像してしまいますが,そっちの方にはあまり発展しませんので,そっち方面は期待しない方がよろしいかと・・・。


 冒頭,トレーラーみたいなので巨大な箱みたいなやつを積み込もうと作業をする男たちが登場します。この時点で誰もが,「あの箱の中に遺伝子操作かなにかで凶暴化させた鳥が入っていて,この男たちの一人が操作ミスして箱が壊れ,逃げちゃうんだろうな」と気がつきますが,まさしくその通りに展開します。定石ってやつです。男たちは逃げたカラスを素手で捕まえようとしますが,もちろん,素手の人間に捕まるような間抜けなカラスはいませんので,どこかに飛び去ってしまいます。

 そして,主人公のアレックス(女性獣医)とその旦那様(弁護士)が登場。ちなみにアレックスは妊娠7ヶ月くらいで,二人で都会を離れ,田舎に移り住もうとしています。引越しも終わり,お祖母ちゃんや兄夫婦と一緒にバーベキューをしますが,そのさなかにカラスが襲ってきます。別働隊の数羽のカラスが降りてきて人間の気をそらしているうちに,本隊のカラス軍団が舞い降りてきてテーブルの上のお肉をかっさらっていくという高度な戦術を披露します。アレックスはもちろん,カラスがこんな行動をするはずがないことに気がつきます。そして,仕事で牛舎を往診している際,仔牛がカラス軍団に襲われて殺されたことを知り,何かただならぬことが起きていることを知ります。

 彼女は動物研究所(?)に向かい,かつての上司であるカラス研究家の教授を訪ねますが,彼は1ヶ月前に死亡したことを新任の所長から聞かされ,教授の自宅に向かいますが,未亡人の奥さんはなぜかアレックスを追い出します。何かを隠している模様です。さらに,この所長も最初から誰が見ても怪しそうです。

 その頃から,その街の各地でカラスが襲ってきて食べ物を奪ったり,人を襲ったりするという事件が起こり,アレックスは友人の新聞記者の助けを借りて,捜査を進め,やがて旦那様も捜査に加わります。そして教授未亡人から教授がカラスの知能を高める実験を行なっていたことを知りますが,やがて教授の研究を巡る陰謀が明らかになり・・・という映画です。


 全体に地味というか,真面目というか,ウケ狙いの部分がありません。最後のカラスの大群が車を囲むシーンは映像的にもきれいですし,カラスの大群のCGも悪くありません。カメラワークも手堅いし,安っぽさは全く感じさせません。ただいかんせん,この手の映画としては真面目すぎます。

 何より,カラスの集団が全く怖くありません。どのカラスも行儀よく行動しているため,さすがはカラスは知能が高いなぁ,よくここまで芸を仕込んだなぁ,と感心はしますが,あのヒッチコックの名作の「怖さ」を期待すると肩透かしを食います。もちろん,カラスが人を襲うシーンもありますが,流血の惨事になることはないし,グロいシーンは皆無です。その点は,お子様も安心して見られます(一部ちょっと,アレックスと旦那様の発情シーンはあるけどね)。要するに,どこまでもお行儀の良い映画ですね。

 そして,カラス軍団が活躍する割には,起こる事件は規模が小さいし,パニックのパの字も起こりません。アレックスが大きなお腹を揺らしながら町中を走りまわって事件を未然に防いでくれたからです。もちろん,それはそれで「メデタシ,メデタシ」なんですが,もうちょっと派手な事件が起きてもよかった気がします・・・これだけカラスが集まっているのですから・・・。


 ヒロインのアレックスは普通の美人さんですが,かなりウルサイです。臨月が近づいて神経質になっているから,これから生まれる子供を守ろうとするのは母親の本能だから,と説明されていますが,ここまでヒステリックに行動されると,旦那様も大変だろうなぁ,とちょっと気の毒になってしまいます。それと,もう少し考えて行動しろよアレックス,と文句を付けたくなるような衝動的行動が多いです。
 新聞記者や旦那様を巻き込む前に,常識的にはまず,同僚の獣医師にカラスの異常行動を知らせますよね。素人は「カラスがお肉を奪っても大した事件じゃないわね」と思いますが,獣医師ならその意味と重要性がわかるからです。真っ先に知人の獣医師たちに連絡していたら,もっと楽に事件を解決できたんじゃないでしょうか(・・・もちろん,それじゃ映画にならないけどね)

 一方,旦那様の働く事務所の女性秘書さん,若くて色っぽくて胸の谷間を見せたりして,おまけに旦那様にいかにも意味ありげな言葉をかけたりします。てっきり,この二人はデキてるんだな,と思ってしまいましたが,そっち方向には全然向かいません。それに何より,最初の方で発情したアレックスちゃんを押し倒そうとするんだけど,元気がなくてダメポちゃん,というシーンがあるもんだから,これは絶対,浮気していると誰しも思ったはずです。何でこのお色気秘書さんを登場させたのか,意味不明です。

 それにしても,アレックスのヒステリーに付き合わされて重要なクライアントとの面談を途中で打ち切っちゃった旦那様は,その後,仕事そっちのけでアレックスと行動することになります。無事に職場に戻れたのか,そっちの方が気になってしょうがなです。普通ならこの旦那様,クビですよね。


 ネタばらしになりますが,研究所の所長さんが黒幕です。もちろん,この映画を見た人は例外なく,彼が一番最初に登場したあの窓際のシーンで,こいつが黒幕だなと気がついちゃいますから,ネタバレと言うほどのことはないでしょう。普通ならこういう黒幕さんは最後の最後までアレックスを苦しめたり,裏で手を回して妨害してきて,最後はカラス軍団に襲われて因果応報となるのが定石です。私もそっち方面の活躍を期待したのですが,これも期待はずれでした。持っていた拳銃は簡単にアレックスの旦那様に奪われちゃうし,後ろ手に拘束されていても抜け出そうともしません。悪党は悪党らしく,最後まで悪党としての職務を全うして欲しいものです。見ている方もそれを期待しているんだから。


 というわけで,ヒッチコックのリメイクじゃなくて,多数のカラスは登場するけど怖くなくて,動物パニック映画じゃなくて,妊婦さんが頑張る普通のサスペンス映画だということを最初から念頭に入れておけば,そこそこ楽しめると思います。決して悪い映画ではありません。

(2010/06/24)

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