新しい創傷治療:マインド・シューター

《マインド・シューター "Sleep Dealer"★★★(2008年,アメリカ/メキシコ)


 2008年のサンダンス映画祭出典作品をアルバトロスが買い付けた作品とか。アルバトロスだからというわけではありませんが,何というかビミョーな作品です。素材的には決して悪くないし,もっと丁寧に,そしてもっと金をかけて作ったらかなりの傑作SFになったんじゃないかと思います。映画監督が描こうとした主題というか狙いはすごくいいのですが,それを映像で見せるための資金と技術が足りなかったようです。映画が描こうとする世界観をしっかりと作り直して,ハリウッドがリメイクしたらいい作品になりそうです。


 舞台は近未来のメキシコ。アメリカとの国境は完全に封鎖されてメキシコからアメリカへの人の移動ができない状態になっている(逆方向の移動は可能みたいだけど)。メキシコの片田舎に青年のメモ(ルイス・フェルナンド・ペーニャ)は暮らしていたが,巨大なダムが造られたために川は干上がり,ダムを管理する組織から水を買う毎日だった。彼の唯一の趣味は国境向こうのアメリカのテレビを見ることと,飛び交う電波をハッキングする事だったが,ハッキングしたことを知られ,軍(?)はハッキング元をつかんで攻撃命令を出し,自宅は爆破され,父親は殺されてしまう。

 そこで彼は,国境近くの町ティファナに仕事を探して移住すが,碌な仕事はない。ここでは「Sleep Dealer」という工場が唯一の働き口なのだ。これは体内に「ノード」という装置を埋め込み,皮膚表面に露出した端子をネット接続することで,メキシコにいたままアメリカのビル建築現場のロボットを動かして作業をすることができるというものだ。

 しかし,ノードを埋め込むのには金がかかる。そんな時,彼は記者と名乗る美しい女性ルース(レオノール・バレラ)と知り合いになるが,実は彼女はノード埋め込みの技術を持っていて,メモの体にノードを埋め込み,彼は無事に仕事を得ることができる。メモとルースはつき合うようになり,メモは彼女に自分の生い立ちやこれまでの人生のことを打ち明けるようになる。

 しかし,ルースにはもう一つの職業があった。「ネットに記憶を売る」商売である。彼女はメモの記憶を市場(?)に出し,一人の人間が彼の記憶を購入する。実は彼は軍からの命令でメモの父親を殺した兵士で,彼は自分が人殺しをしたことを悩んでいたのだった。アメリカ国境を越えてメキシコにきた兵士はメモに会い,贖罪としてあることをしようと決意し・・・という映画です。


 ううむ,かなり分かりやすくストーリーを要約したつもりなんだけど,それでもわかりにくいですね。いろいろな要素を詰め込み過ぎなんですよ。

とまぁ,これだけ詰め込んで85分足らずの映画にしようというのがそもそも無理じゃないかと思います。

 多分,「他人の記憶を売って商売にする」という要素が余分じゃないかと思います。こういう商売は最初のうちは物珍しいでしょうが,いずれ,同じ商売をする人間が雨後の筍の如く現れ,どうでもいいような情報と嘘情報だらけになり,そんなクズ情報に金を払う奴なんていなくなるからです。だから,ルースは単に「ソード埋め込み闇業者」にして,兵士はネット情報をハッキングして自分が殺した男の家族を見つける,とした方がすっきりしたような気がします。


 それと,ダムができたために川が干上がるのはありとしても,飲み水もなくなった住民が反対運動もせずに大人しく水を買いに行く,というのはちょっと非現実的。いくらダムが武装してあると言ったって反対運動くらいするだろうし,それを政府が見逃しているというのはあり得ないでしょう。

 もちろん,なぜこのダムが登場したかというと,最後の場面で兵士がバーチャル戦闘機に乗り込んでダムを破壊するためです。バーチャル戦闘機同士のバーチャル・ファイトシーンを撮影したかっただけじゃないか,という気がします。なぜかというと,この兵士はダムの一部を破壊しただけですから,いずれダムは修復されて元の状態に戻ってしまい,問題は何一つ解決されません。こう言うときはダムを壊した後,それを管理する親玉まで潰さなければだめでしょう。

 それと,電脳工場「Sleep Dealer」内部の近未来的な様子と,そこから一歩外にでたスラムまがいの町の様子,そしてメモの田舎町の様子のギャップがあり過ぎ。そのため,工場内部のセット組み立てで資金が尽き,その外の世界を作れなかったためにそこらの村で適当に撮影しただけなんだな,ということが観客にバレバレです。やはりSFというのはそれなりに金をかけないとダメなんですよ。観客に「未来はこうなっているんだ」ということをリアルに感じさせなければ失敗でしょう。


 そうそう,いかにも田舎者にしか見えないあか抜けないメモと,都会的美人のルースの組み合わせもちょっと微妙。何でこんなダサい兄ちゃんに,ルースちゃんのような美女が心惹かれるわけ? メモの俳優さん,もうちょっと格好いい人を使った方が良かったと思うぞ。それもこれも,兵士がダムを壊すためには,その前にメモが自分が撃ち殺した男の家族だということが必要だし,そのためにはメモの情報が流されている必要があるし,そのためにはルースが他人の記憶を売っていなければいけないし,そのためには・・・という後ろ向きの理由付けが必要だったからだ。
 それだったら,前述のように兵士が自力でメモを見つけ出す設定にした方がよほど自然だと思うし,ルースとメモが愛し合う必要もないわけだ。

 安っぽいと言えば,何度か登場するメキシコとアメリカを隔てる海岸の壁。これが鋼鉄製の高さ5メートルもある壁だったら,なるほどこれは越えられないなとなりますが,映画に登場するのは直径10センチにも満たない木の杭を打って並べただけのもの。この木の杭の間からメモはアメリカを覗き見るんですが,こんな木の柵,すぐに押し倒せるはずです。さっさと壊してアメリカに行っちゃえよ,とアドバイスしたくなります。


 ちなみにこの映画,サンダンス映画祭では脚本賞を受賞したそうですが,余計な部分をそぎ落として,金をかけるべき部分にしっかり金をかけて作り直した方がよさそうです。

(2011/01/11)

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