新しい創傷治療:テンペスト 旋風の破壊神

《テンペスト 旋風の破壊神 "Maximum Velocity"★★(2003年,アメリカ)


 「世界規模の異常気象と言えばカリブ海の巨大ハリケーンに決まっているじゃないか,ハニー」,ってなアメリカンな人にしか楽しめないであろう低予算ハリケーン・パニック映画。それと同時に,この手の大規模災害パニック映画はやはり予算をケチっちゃ駄目なんだな,ということがよくわかります。発想自体は悪くないし,人間ドラマもそれなりに描かれていますが,セットがチャチで登場人物が少なすぎるために,すべて台無しになってしまいました。


 こんな映画,観る人もいないと思いますが,ちょっとストーリーなんぞを紹介しときますね。

 アメリカ軍はアンバーソン将軍を中心に巨大ハリケーンを発生させる装置 "Storm Fury" を極秘で開発していました。その計画に協力していた気象学者のブリッグスは完成したての特殊飛行機に乗ってハリケーンの中心部に突入して実験を開始しますが,急激な気象の変化のために事故が起き,一緒に乗り込んでいた新妻のカレンを失います。アンバーソンはブリッグスを解任し,実験の資料も廃棄します。

 4年後,巨大彗星が地球に異常接近します。それは地球の大気圏をわずかにかすめて飛び去りますが,最接近した時にカリブ海に巨大なエネルギーを放出したため,風速800メートルという超巨大ハリケーンが突然発生してしまいます。フロリダ上陸までに残された時間は90時間足らずで,しかも,あまりの巨大さに上陸後にも勢力は衰えず,永遠に嵐が続くという予測がされます。

 この異常事態に軍で気象研究をいていた女性気象学者ジェイマスは,密かに研究が続けられて完成したばかりのStorm Furyを使い,「ハリケーンが作れるなら,逆に使えば消せるはずよ」とアンバーソンに進言し,この計画を知り尽くしているブリッグスとかつての同僚レイノルズを召集します。そして彼らはStorm Furyを搭載したボーイング747に乗り込みます。

 B747はハリケーンに突入し,ここで燃料補給Storm Furyの起動に大量の燃料を消費するために燃料補給が必要)の予定でしたが,嵐のために燃料補給は途中で中断を余儀なくされます。それでも何とかハリケーンに接近し,装置は起動してハリケーンは次第に収まってきますが,装置に負荷がかかりすぎてハリケーンは消滅しません。おまけにジェイマス博士が乗り込んだポッドの回収も不可能となってしまいます。そこでブリッグスは小さくなったハリケーンをポッドで牽引しながら低速で移動し,北極海で消滅させるという作戦を思いつきます。

 B747は燃料残りわずかというところで何とか作戦を成功させますが,ポッドを切り離さないと無事に着陸できなくなってしまいます。アンバーソンは42億ドルをつぎ込んだ機体を失うことを許さず,ジェイマスが乗り込んだポッド切り離しを命じますがブリッグスはあくまでもジェイマスを助けるべきだと主張し・・・という映画です。


 この手の「軍が極秘で開発した兵器に逆の動作をさせて災害を防ぐ」というのはアメリカ映画ではよくあるパターンです。「核兵器を爆発させて熱で月の割れ目をくっつけよう」なんてのがその例ですが,ハリケーンを人為的に発生させる装置があるのはいいとしても,それをどう使ったらハリケーン消滅装置になるのか,全然理解できません。「人殺しの武器を使って瀕死の人を助けよう」,あるいは「穴を掘る機械で高い建物を作ろう」という発想ですが,これで理解しろと言われて無邪気に納得できるのは脳天気なアメリカンな人々くらいのものでしょう。

 これだけでもオイオイ,という感じなのに,映画はさらに輪をかけて「オイオイ」なんですよ。


 まず,軍の研究所(?)がすごくチャチ。10人くらいしか働いていない模様です。しかも,アンバーソン将軍とほか1名くらいですべての作戦を決めています。どう見ても小規模会社にしか見えないため,これで42億ドル(=3兆8000億円!)といわれても「コンビニ1店の売り上げが3兆円」みたいなものなんで,見ている方が恥ずかしくなります。

 それにしてもアンバーソンさん,4年前の最初の飛行で見事に計画失敗したはずなのに,どうやって42億ドルの資金を政府から引き出したんでしょうか。むしろ,そちらの方に興味があります。

 考えてみたら,これほど大規模な災害(言ってみれば地球規模の災害みたいなもんです)に対し,数人の人間だけで立ち向かおうというのがそもそも無理があるんじゃないでしょうか・・・と思うのが常識ある人々ですが,アメリカンな人々は全然気にしないのですよ。


 しかも,被害が起こるのはフロリダとかそのあたりだけなんで,映画のコンピュータ画面上のハリケーンの巨大さの割には,大して被害が出ていない感じにしか見えません。そして,暴風雨のシーンがまるっきりダメです。遠景は晴天なのに,手前の方だけ雨が降っていて数十人の人間が逃げまどっているシーンなんて,お笑いかと思っちゃいましたよ。

 おまけに,途中で軍の内部の一人が,「実は軍の暴走でとんでもない計画が実行されているんだ」ということをテレビ局に機密漏洩(?)するシーンも,まさにお笑いです。だって,軍の指令室のどっかにある電話で「これから機密情報を伝えるが・・・」って言うんですぜ。どんだけ,機密管理が緩いんだよ,アメリカ軍は・・・。
 しかも,電話の相手はテレビ局のディレクターなんだけど,こいつは単にお天気おじさんの上司というだけで,こいつに伝えても意味がないと思うぞ。どうせなら,ニューヨークタイムズとかワシントンポストとかBBCとかNNNとかウィキリークスとか,そういうところを選ぶんじゃないでしょうか。

 そして,どうせ内通者が軍の機密をバラすシーンをあれほど描いたのだから,それがどういう影響を及ぼしたか,アンバーソン将軍はどうなったのかをきちんと描くべきじゃないでしょうか。そういう描写なしに,「翌日,嵐は去って人々に平和が訪れました」というラストを持ってこられても困るんだよね。だって,ここまでおつきあいした観客の興味は,悪役アンバーソンに罰が下されたのか,それとも,またもやブリッグスに罪を被せて逃げおおせるのかにあるわけですよ。さらに言えば,この "Storm Fury" 計画がその後どうなったのかも説明してくれないと困るんだよね。


 というわけで,低予算自然災害パニック映画の中では,それでもまだ良心的な作品だと思うし,幾多のクズ・パニック映画に比べると,かなりましな方だと思います。「低予算ということを考慮すれば悪くない出来かもしれない」というのを誉め言葉だと受け取れる心の広い人にだけオススメする映画です。

(2011/02/01)

Top Page