新しい創傷治療:デス・ルーム

《デス・ルーム "Trapped Ashes"(2006年,日本/アメリカ)


 ケン・ラッセル他,ちょいと名前が知られている映画監督を4,5人集めて作られたオムニバス・ホラー映画なんですが,これほど出来の悪い映画も久しぶりです。とにかく,「ヤマなし,オチなし,イミなし」というヤオイ系同人誌が映画を自主制作したらこんなものができあがるかもしれないな,というレベルです。個々の場面もストーリーらしきものが朧気ながら感じ取れるならまだいい方で,ストーリーそのものがない作品まであります。

 おまけに,一応ホラー映画らしいんですが,これが全く怖くないというか,怖さのカケラが爪の垢ほどもありません。どういうつもりで5人の映画監督を集めたのか,それすら意味不明です。唯一わかるのは,全体の統一テーマが「チープ系エロ映画」ということですね。

 おまけに,第2話は日本でロケされていて,日本代表選手(?)として石橋凌さんと杉本彩さんも出演なさっておられます。お二人とも,よほど暇だったんでしょうか。それとも脚本を全然読まずに「出演OK」をしたんでしょうか。


 映画は4つのお話をプロローグとエピローグが挟むという構造をしております。ちなみにプロローグとエピローグを撮影したのはジョー・ダンテ(代表作は《グレムリン》,《ハウリング)》

 まず,ハリウッドのセットを巡る小さなバスに6人の男女が乗り込むところから始まります。そして案内役のおっさんがいきなり,入り口が閉鎖されているセットの前に車を止めて,「これはかつて《ヒステリア》が撮影されたセットですが,恐ろしい怪奇現象が起きたために閉鎖されております」って説明するんだよ。オイオイ,ガイドがいきなりここに案内するか?

 もちろん,乗り合わせた6人のおバカさんたちは「それなら絶対に見たい。これはVIPコースなんでしょう? 見られないところはない,って説明があったぜ!」と強引に扉を開かせて中に入ります。もちろん,中には小道具の生首とかがゴロゴロ転がっております。そして奥の部屋に入ったところで扉が開かなくなり,閉じこめられます。

 すると案内のおっちゃん,「これは映画《ヒステリア》と同じ展開。あの映画では皆が一つずつ,自分が体験した恐ろしい実話を話すんですよ」ってなムチャクチャな説明をします。すると,6人のおバカさんたちはその説明に納得しちゃいまして,それぞれの恐怖体験を話すのでした。多分,ほとんどの人がこの時点であまりのアホらしい展開に呆れてDVDを止めちゃうと思いますが,この程度のアホらしさに驚いてはいけないのがこの映画です。我慢して観続けるとしましょう。


 第1話:私は吸血オッパイを移植された!(監督はケン・ラッセル。彼の代表作は《マーラー》,《ケン・ラッセルの白蛇伝説》)

 売れない女優のお姉さんがいて,自分が映画に出られないのは貧乳だからだと気づき,豊胸手術に踏み切ります。いかにも胡散臭そうな美容外科医が「たまに失敗するとこうなっちゃうけど,それはシリコンを入れるからだ。私は死体から摘出した脂肪を入れるから大丈夫」と,手術失敗例を見せながらものすごい説明をします。そして手術当日,麻酔で眠ったお姉さんに,葉巻を吸いながらメスに唾をペッと吐きかけて手術開始。

 手術が終わった女優さんはできあがった巨乳(・・・というほどじゃないけどね)に大満足。そして,映画に出られるようになり,俳優さんの恋人もできますが,実は彼女のオッパイの乳首には歯があって(カンブリア紀のアノマノカリスの口にそっくりだぞ),それで男の体に食いついて生き血を吸っちゃうのです。そして,生き血を吸う度に彼女は若く美しくなり・・・というお話です。

 ちなみに,彼女のボーイフレンド(まだ血は吸われていないようです)は,「そういえば,エッチの時に胸だけ見せていない」ということにその時気がつきます。オイオイ,ここで「そういえば」と驚く君に,皆が驚いちゃうよ。

 ちなみに,なぜ美容外科医が吸血オッパイを移植したのか,その吸血オッパイはどこからきたのかは最後まで説明なし。一応説明らしきことをする3人の医者(?)は年老いたおねえキャラで,「吸血オッパイがあると若さを保てるの」という彼らの説明とまるっきり矛盾しております。


 第2話:日本のお寺でスケベな怨霊にとりつかれた私(監督はショーン・カニンガム。代表作は《13日の金曜日》)

 えーとですね,中年前期のご夫婦が「倦怠期だけど,日本に旅行すれば情熱を取り戻し,情熱的なエッチな夜を過ごせるはず」というショーモナイ理由から日本を訪れます。一応,旦那様の仕事がらみなんでネズミ色スーツのジャパンなサラリーマンと商談なんぞをしていますが,奥様はそれに飽きたのか隣の部屋に行きます。すると,若い男がやってきていきなり口説いてきます。そして,奥様はエロい幻覚を見ちゃいます。

 で,翌日,二人はお寺観光をしてお墓なんぞに行くんですが(お墓を観光してどうする?),ここで首吊り死体を見つけちゃいます。なんと,奥様を口説いたあの青年です。びっくり仰天のご夫婦は逃げ帰り,途中で婦警さん(杉本彩)に「首吊り死体があった!」と説明。そしてそのお寺の住職(石橋凌)が,「彼はこの寺の修行僧ですが,これ以上の説明はできません」という訳の分からない説明をします。

 ちなみに,杉本彩ねえさん,野暮ったい婦警さん姿のままでエロさは皆無。エロスの女王を自認するなら,西洋ねえさんたちに負けずに脱いで欲しかったです。そのための日本代表でしょうが!!

 その夜,奥様に修行僧の霊が夜這いをかけてきて,霊とのエッチにすっかり満足しちゃった奥様は彼が首を吊ったそばの洞窟(入り口がチンポコでない方の道祖神の形をしております)に入ります。翌日,目を覚ました旦那様は奥様が隣にいないのに気がつき,旅館の中を探したり,町を歩いている子供を捕まえて行方を探しますが,もちろん見つかりません。しょうがないんで石橋住職に相談すると,サラサラとお札を書き,あの洞窟の中に入ると奥さんがいるから,このお札を飲ませるんだ,と説明します。僧侶の石橋さん,弟子が起こした事件なんだから,師匠のお前が解決しろ!

 で,旦那様は洞窟に入りますが,そこでアラレもないお姿の奥様を発見。なんとここから映画はいきなりアニメになっちゃいます! そして,ジャパニーズ・エロ・アニメのお約束といえば「チンチンの形をした触手が女体に!」でございます。チンポコ触手,大写しになり,旦那様の首に巻き付きますが,旦那様は何とか奥様の口にお札を入れ,悪霊退散!

 それにしても,青年修行僧がなぜ首を吊っちゃったのか,意味不明。死んで怨霊みたいなのになって彼女とエッチするため? それはそれでありかもしれないけど,この奥様,どう見ても熟女さんど真ん中なんで,なぜこの女性のために自殺するのか訳がわからんのだよ。もしかしたらこのお坊さん,「白人の中年女性」が好みだったんでしょうか? もうちょっと,相手を選んで欲しいものです。


 第3話:親友の彼女は吸血鬼みたいな奴(監督:モンテ・ヘルマン。代表作は『断絶』『銃撃』)

 訳のわからなさにかけては,第2話とタメを張ります。まぁ要するに,最底辺の戦い,ってやつだ。

 映画の脚本を書いている若い男が,才気溢れる若い映画監督に仲良くなり,二人で映画談義をしたりチェスをしたりするんだけど,ある日彼のアパートに行くとすごい美人ちゃんがいて彼とイチャイチャしている訳よ。ところが友人はある日突然いなくなって,残された美人ちゃんと彼は仲良くなってベッドイン。その後,彼女も姿を消します。

 それから45年後,天才映画監督となったかつての親友が死亡し,彼の遺品のフィルムが送られてきます。そこには「彼女が吸血鬼であることを証明する証拠フィルムが見つかった」という友からのメッセージがあり・・・と,普通ならここからお話が展開するところなんですが,なぜかこの映画はこれでおしまい。お〜い,ヘルマン監督,この映画はこれでおしまいなんですか? 本当にこれでおしまいでいいんですか?


 第4話:双子の兄弟はサナダムシ!(監督はジョン・ゲイタ。代表作は《マトリックス・リローデッド》)

 このタイトルを見て内容を想像できますか。なんとこのタイトルそのままの映画です。

 冒頭,アメリカのどっかにフランスからの移民がやってきてブドウを作るというシーンから始まります。何やら,本格的映画みたいに見えますが,この後はいつものグダグダ映画になりますのでご安心。

 えーと,若い夫婦がいますが,旦那様は浮気者です。程なく奥様は妊娠に気付きますが,診察した産婦人科医は「おなかに赤ちゃんがいますが,もう一匹います。サナダムシです。普通なら鉄剤を飲ませて虫下しするんですが,流産しちゃうんですよ。だから,両方育てましょうね」とすごい説明をしてくれます。消化管内のサナダムシがどうやって子宮内に移動するんでしょうか。ワープでもしたんでしょうか。

 で,子宮内の胎児ちゃんとサナダムシちゃんは栄養の取り合いをしますが,お互いに連帯感みたいなものも生まれます。そして,父親は母の親友と駆け落ちして家を飛び出しちゃいます。でも,無事に女の子が産まれます。ちなみに,一緒に子宮で育ったサナダムシ君が出産時にどうなったのかは全く不明。

 その後,生みの母親が死んだため,家出していた父親が女の子を引き取って育てますが,お約束通りに継母と全くそりが合いません。そしていよいよもうダメ,という時に「サナダムシさん,サナダムシさん,助けて!」と叫んじゃいます。すると,今までどこでどう生活していたのかわからない超巨大サナダムシが何の前触れもなく父母の寝室に現れ,継母のあそこに入り込み,内臓を食っちゃいます。メデタシ,メデタシ! うわぁ,捻りも何もない結末でございました。


 エピローグ。彼らがこういうショーモナイお話をしてくれますが,案内人が「君たちはまだ話していない部分があるはずだ」といい,さらにショーモナイ彼らの未来の姿を明かします。本編のグダグダした内容にふさわしい,脱力感たっぷりのエピローグでございました。


 今後,このクズ映画に引っかかる犠牲者が出ないことを祈り,映画の内容を詳細に紹介してみました。「クズ映画なら観てみようかな?」という地雷源とわかってそこに足を踏み入れるのが好き,という蛮勇系の人にだけオススメとしておきます。良識ある映画ファンは絶対に観ちゃダメだぞ。

(2011/04/06)

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