新しい創傷治療:コントラクト

《コントラクト "ROJO SANGRE"★★(2005年,スペイン)


 いろいろな映画を見ていますが,悪魔が登場する映画とは相性が悪いです。悪魔との距離感というか,どういうスタンスで映画を鑑賞したらいいのかがいまいちわからないからです。本当に悪魔を怖がって観るべき映画なのか,おとぎ話を描いたお子ちゃま向け映画なのか,その辺がよくわからないまま映画を観始め,観終わっても「だからこの映画って何だったの?」と疑問符だらけなのです。ゾンビとかヴァンパイアとかクリーチャーとか宇宙人だったらこんな感じを持たないのですが,悪魔さんだけは隔靴掻痒なんですね。

 もちろん,知識としては悪魔の親玉のルシファーは元々は天使だったとか,神様に追い出されて悪魔になったとか,悪魔との契約書にサインしたら魂がどーたらこーたらとか,そういうのは知っているんですが,どれも私にとってはオトギ話レベルの内容なんで恐怖の対象じゃないのですよ。ところが,本作のような悪魔映画を作っている人は,どうも本気で悪魔を怖がって映画を作っているとしか思えないのですね。

 要するに私にとっては「嘘をつくと地獄に堕ちて閻魔様に舌を抜かれるぞ」レベルの怖さというか,「雷様からお臍を取られる」レベルの怖さとどっこいどっこいなのです。怖さでいえば震度3の地震くらいかなぁ。でも,《エクソシスト》の映画の作り手って本気で悪魔を怖がっていて,この人たちは震度7の地震より怖がっている感じです。


 こういう違和感を感じながら,またも懲りずに「悪魔映画」を観ちゃいました。

 主人公は映画俳優のパブロで,若い頃は映画や舞台で主演を演じた俳優ですが,今ではすっかり落ち目でろくに仕事もありません。何とかオーディションを受けますが,若い映画監督からは「ろくに演技もできていない」と酷評される始末で,生活は困窮しています。

 そんな彼に一つの仕事が舞い込みます。高級クラブの入り口で「人間彫刻」として「イワン雷帝」やら「ジル・ド・レイ(殺人鬼@青髭侯として有名な人物)」の格好をして立つ,という奇妙な依頼でした。しかし,「1回1万ユーロ」という高給の魅力に負け,彼はクラブの支配人レフィカルと契約書を交わします。

 そしてその日からパブロは,「クソみたいな仕事をして高額の報酬を得る映画監督」,「監督と寝て仕事を取る女優」,「悪辣なプロデューサー」・・・など,映画界に巣くう悪党どもを次々に殺していくのでありました・・・という映画でございます。


 オイオイ,内容ってそれだけなの,もっと他にないの,と誰しもご不満でしょうが,本当にこんな感じなのですよ。もちろん他にも,レフィカルReficul,逆から読むとルシファーですね)との契約で殺傷能力のある仕込み杖を渡される話とか,日本の職人の作ったナイフを入手するエピソードとか,スナッフビデオ(本当の殺人の様子を撮影した映画)作りをするエピソードとかはあるし,ちょっとエキゾチックな美女とかも登場します。また,何度かパブロの娘が死んだ話が持ち出されたりもします。しかし,いずれも説明不足なためストーリー全体にうまく絡んでこないのです。

 そして,パブロが連続殺人に至る経過というか,彼が連続殺人犯になる理由がいまいちわかりません。契約書にサインした時点でも彼はそれが「悪魔との契約書」とは気がついていないわけですから,それが「気に入らないプロデューサーや女優を本当に殺す」契機にはならないはずです。となると,契約書にサインをした以外に何かのきっかけがないと,この老俳優がいきなり連続殺人犯に変身するのはあまりにも不自然すぎますが,この映画ではそれが全く描かれていません。

 そして,こういう「説明不足映画」の常として,ラストシーンも意味不明。まるっきり「あとは観ている人が適当に解釈していいよ」という感じで,頭の中は疑問符だらけです。行き先のわからないミステリー列車というのは到着した時点でどこに着いたかがわかるから成立するゲームでして,到着したけどそこがどこなのか運転士を含め誰もわからない,というのじゃ困るんですよね。ミステリアスというよりは無責任ですな。

 わからないと言えば,「イワン雷帝」やら「ラスプーチン」やら「ジル・ド・レイ」のコスプレをさせてクラブの前に立つというお仕事の意味。このお仕事というかエピソードがストーリーに全然生きていません。どうせなら,イワン雷帝や青髭の霊が憑依して殺人鬼になった,なんて説明がほしかったっすね。


 この映画は一応「オカルト系ホラー風サスペンス映画」に分類されると思うんだけど,爪の垢ほども怖くないし,やたらと殺害シーンはあるものの全くエグさはありません。喉を掻き切るシーンでも血が吹き出すわけでもないし,内臓を切り裂いてやる,というセリフの割にはそういうシーンになるとシルエットだけになったりします。なんだか,お上品なスプラッター映画を見せられている感じです。


 では,全く見所がないかというと,一つだけ取り柄があります。カットの切り替えシーンがやたらと凝っていることです。ワインを注ぐシーンではグラスのワインの表面に次のシーンが映し出されるし,別の場面切り替えでは動物の頭部をかたどった小道具がアップされたとたんに変形し,それが・・・という小技を見せるなど懲りまくっています。ただ,それが余りに多すぎるため,最後の方ではちょっとうるさい感じになっちゃいました。過ぎたるは猶及ばざるが如し,という言葉をこの映画監督に捧げたいと思います。


 私はこれまで「訳わからん映画」はかなり観ていますので,この程度ならまだマシな方だったな,最低レベルじゃなかったな,と思うだけですが,普通の映画ファンにオススメできるレベルの作品ではございません。レンタルショップの棚でこのDVDを見つけても,気付かなかったふりをして素通りする方がよろしいかと思います。

(2011/10/12)

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