新しい創傷治療:エアポート トルネード・チェイサー

《エアポート トルネード・チェイサー》★★(2009年,ドイツ/オーストリア)


 配給会社のアルバトロス(B級以下のホラー映画,モンスター映画ばかり配給しているけど,忘れた頃に傑作映画も配給する変な会社)がフライト・パニック映画に「エアポート」シリーズと銘打って紹介していて,これもその一つです。もちろん,シリーズ物でも何でもなく,「なんとなく飛行機が舞台だし」という程度の共通点しかありませんけどね。

 今回の映画はドイツ製のテレビ向け映画なんですが,フライト・パニック映画ではなく,正体は「ちょっと飛行シーンがある恋愛映画」でございます。「エアポート」シリーズだから派手なフライトシーンがあるはず、と期待すると裏切られます。


 女性パイロットのアンドレア・シューベルトはアテネ発ミュンヘン行きのSA473便ジャンボ機の操縦をしていたが,ダッハシュタイン上空で突如発生した巨大な嵐に巻き込まれてしまう。レーダーは効かず,燃料は刻一刻と減っていき,機長のアンドレアは小型機専用の滑走路に見事にジャンボ機を着陸させて事なきを得るが,航空会社は突然発生した巨大な嵐というアンドレアの説明に納得せず,全て彼女の判断ミスとして彼女を無期限停職の処分を下した。

 しかしアンドレアは,突然発生する暴風がスーパーセルと呼ばれる現象であることを知り,スーパーセルの研究者から兄弟のセスナ機乗りがスーパーセルの調査を行なっていることを教えてもらう。彼女は自分の無実を証明するため,セスナ機兄弟を訪れるが・・・という映画でございます。


 映画が始まってすぐは悪くないんですよ。大型旅客機が暴風雨に突っ込みシーンから始まるんですが,ここは結構迫力があり,CGもかなり力を入れて作っているし,女性機長が管制塔の指示を無視して小型飛行機向けの滑走路に不時着するシーンもかなりの迫力です。「おお,これは面白くなるかも」と思っちゃいますが,何しろここで飛行機は不時着しちゃうわけで,再び飛び立てないわけですよ。飛び立てないから,ここから先は延々と地上シーンになるわけですよ。
 つまり,勘の良い人なら,この冒頭の不時着シーンを見ただけで,「これはフライト・パニック映画にはならないな」とピンとくるはずです。

 というわけで,無実の罪を着せられたヒロインが男社会である航空会社生活に疲れ,トイレが外にしかないような田舎にたどり着いて,二人のイケメン兄弟のお兄ちゃんの方とイチャイチャしたり,ラブラブになったり,ちょっとエッチしたりするわけですよ。そして,足を骨折して操縦できなくなった弟の代わりにアンドレアちゃんがセスナ機に乗り込んで,巨大嵐に突っ込むわけですね。

 「なんだよ,内容はそれしかないの」と言われそうですが、本当にこれしかないのです。あとは航空会社の聴聞会のシーン(オイオイ,聴聞会ってこの程度なの,というくらいチャチだけど)とか,リゾート開発を企む業者がセスナ機兄弟のお母さんの土地を狙っているエピソードとか,スーパーセル研究をしている教授が測定機器を持ち込む話とか,ユルユルの展開がまったりと続きます。

 最後のセスナ機でスーパーセルに突っ込むシーンはそこそこいいのですが,山崩れが起きて兄弟の母親の家が飲み込まれそうになるシーンは駄目っすね。アンドレアちゃんが操縦するセスナ機が着陸して危機一髪のところで母ちゃんを助けるんですが,オイオイ,このタイミングで着陸したって間に合わないよ,という感じでちょっと笑っちゃいました。

 主人公のアンドレアさんですが,旅客機の機長という役柄設定上,あまり若くはできないこともあり,30代半ばくらい(?)の女優さんです。顔立ちはとてもきれいな方ですが,体型的には胸とウエストの高低差が少ないと言うか,メリハリがないと言うか,そういう感じなんで,そっちの方の期待はしない方がよろしいかと・・・。


 この映画は「フライト・パニック映画のふりをしたラブ・ロマンス映画」なんで,フライト・パニック映画として面白くないと文句を言ってもしょうがないんでしょうが,冒頭の嵐のシーンの秀逸さを考えると,フライト・パニック映画に徹してくれたほうが良かったな,と思っちゃいます。フライト・パニック映画は要するに密室劇なんで,シナリオさえしっかりしていればそれほど金をかけなくても傑作映画になる確率が高いからです。

 何しろ,飛行機の中で何か事件が起きても外に逃げ出すわけにいかないし,外部との連絡は無線に限られるし,逆に外から敵が侵入してくることもなければ,味方が増えることもありません。また,落ちちゃえばオシマイだし,そのためには落ちないような工夫も必要だし,きちんと着陸できないとパイロットも乗客も揃ってお陀仏だし・・・と制限が多く,逆にそれを生かせばいくらでも面白い映画いできるはずです。しかも,飛行機内部のセットを作ってしまえばすべての撮影はセット内で完了しますから,結構安上がりに作れます。要するに,アイディア次第なんですよ。

 この映画の場合も,せっかくスーパーセルという気象上の大物を登場させたのですから,最後まで「大型旅客機 vs スーパーセル」で引っ張れたと思うし,そちらの方が多分面白い映画になった気がします。

(2012/02/08)

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