新しい創傷治療:バンク・オブ・ザ・デッド

《バンク・オブ・ザ・デッド》★★★(2007年,アメリカ)


 低予算映画にしてはかなりよくできてるじゃん,むしろかなりいい方じゃん,というゾンビ映画風のホラー映画。「ゾンビ風」としたのは,登場するのはゾンビと言うより「肉食系吸血鬼」みたいな感じだからです。何より,低予算という制限を逆手にとった設定がうまいです。この映画の監督の名前は初めて見ましたが,予算がもうちょっと使えたらさらに面白い映画が撮れる人じゃないかと思います。


 チンピラやくざのマルコムは,前科22犯で刑務所暮らしの叔父から「アメリカの田舎町メイズヴィルの銀行には300万ドル以上の現金がある。あそこなら簡単に盗み出せる。あとは信頼できる仲間を集めることだ」と教えられる。マルコムは仲良し3人組で銀行に押し入ることに決め,武器を調達するため親分に話を持ちかけるが,マルコムでは頼りないと判断した親分はお目付役に元軍人を加える。元軍人は決行は翌日と決めて一人で銀行に下見に行くが,マルコムは元軍人を出し抜こうとして3人の仲間とともに銀行を襲撃する。

 マルコムたちの襲撃はうまくいったかに見えたが,たまたま銀行に居合わせた婦人警官ケイトが非常ボタンを押し,警察署に連絡が入る。銀行に様子を見に来た警官をマルコムは隙を見て射殺するが,それに動揺した仲間の運転手係は仲間を見捨てて逃亡してしまう。脱出手段を失ったマルコムたちは銀行に立て籠もり,その周りを警官隊が囲んで膠着状態となる。

 その時,外を囲む警官隊から悲鳴が上がる。窓を見ると警官が次々に何者かが襲いかかり,警官たちは次々と犠牲になっていく。一体何が起きているのか,奴らは何者なのかと混乱する彼らの前に,完全武装の男が銀行に入ってきて,外をうろつく怪物たちの正体を明かす。

 彼らは軍の研究で生まれた細菌に感染した犠牲者で,人間の血肉を求めてさまよい歩くゾンビだった。彼らは日の光と月の光を恐れていて,新月の晩にだけ群をなして町を襲い,次第にアメリカを南下しているのだった。この完全武装男は軍関係者でゾンビを滅ぼす命令を受けていたが,マルコムやケイトにゾンビを倒す方法を教える。そして彼らは生き延びるために武器を手にし,押し寄せるゾンビに立ち向かうのでありました・・・という映画です。


 まぁ,どっかで見たことがあるストーリーですね。似たようなストーリーのゾンビ映画でよければ,ファンならいくつもタイトルを挙げられるはずです。ゾンビ映画は基本的に〔外の世界はゾンビで一杯〕⇒〔建物内に籠城〕⇒〔そこにゾンビがなだれ込む〕⇒〔そこから逃げる〕⇒〔別の建物に〕・・・というパターンをとり,この映画はその基本パターンを踏襲しています。ちなみに,ゾンビ映画は低予算でも作れるのは,基本的に室内劇だからですね。

 この映画はゾンビ映画というか感染症スプラッター映画で,ゾンビとはちょっと違っている感じです。ものすごいスピードで走ってくるし,跳躍をして襲いかかってくるし,いわゆる「ロメロ・ゾンビ」とは似て非なるものです。メイクはかなりおとなし目ですが,目玉の色が特徴的なため見た目のインパクトは結構あります。低予算だけど工夫しているなぁ,センスがいいなぁ,と思うのはこういう部分ですね。


 ゾンビと言えば頭部を銃で吹き飛ばして倒すのがお約束ですが,この映画では前述のように頭部でなく心臓が弱点となっています。多分これも「低予算対策」です。頭なら1人倒す度に頭を吹き飛ばすシーンを入れないといけないけど,心臓だったら銃で胸を撃つかナイフで一突きするだけでいいからです。これはうまいこと考えたなぁ,と感心!

 最後の方では,両手に銃を持った「3人+1人」がゾンビの群の中に出撃するんですが,案の定,すぐに弾切れとなります。マシンガンじゃないんだから当たり前ですね。普通ならここでゾンビのお食事タイムとなるわけですが,ここからこの映画では「脛当てで防御した左前腕に噛みつかせて,その隙に右手のナイフで心臓をえぐる」という肉弾戦が始まります。ここで,最初の方のアーミーナイフを品定めするシーンが効いてくるんですが,ゾンビ映画としてはかなり新鮮な感じがします。


 もちろん,低予算ゾンビ映画の常として,ツッコミどころは満載ですよ。無数のゾンビの群をナイフ手にした4人だけで皆殺しにできるわけないじゃん,とか,完全武装男なら銀行ごと吹き飛ばす方法を選ぶ方がいいんじゃないの(・・・と書いたけど,銀行を爆破するシーンを入れる予算がなかっただけのことかな?),とか,ファミレスの店内で大声で銀行強盗の打ち合わせをするバカがいるかよ,とか,銀行から盗み出した大金入りバッグを持つマルコムを婦人警官ケイトは逮捕しないのかよ,とか,いくらでもあります。それと,ラスト2分で決着をつけるのはさすがに急ぎすぎで,呆気なさすぎですが,まぁ,予算を考えたらこんなものでしょう。そういう温かい目で見るべき映画なんですね。


 ちなみに,こういう映画を見ると「武器としての日本刀とナイフの違い」がよくわかります。日本刀というのは武器としてはきわめて華奢で,実践では使えない代物だったようです。目釘はよく緩んでガタついてきては抜けるし,刃は曲がりやすく折れやすいからです。まして,ミネの部分に打撃が加わると刀が折れてしまうそうです(だから,時代劇の「ミネ打ちじゃ。安心せい!」というのは嘘らしいです)

 武器としてのに本当の根本的な欠点は,刃の部分(=金属)と握る部分(=木製)の連結が「差し込んで目釘で留めるだけ」という力学的な弱点があるためのようです。その点,ナイフや中国の青竜刀,西洋の剣は基本的に刃と握りが一体成形されているため連結部分(=力学的な弱点)がなく,刃が折れない限り武器として使えるそうです。

 そういうわけで,この映画で武器が日本刀だったら,彼らは呆気なくゾンビの餌になっていたであろうと予想できます。

(2012/03/29)

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