新しい創傷治療:ネスト

《ネスト "The New Daughter"★★(2009年,アメリカ)


 ケヴィン・コスナーのデビュー30周年記念として制作された映画なんですが,これが愚にもつかないモンスター・ホラー映画。もちろん,そこらのB級以下のホラー映画よりは丁寧に作っていて,ストーリーもそこそこ良くできているんだけど,普通に言えば二級品以下の映画でしょう。30周年記念にこんな駄作を持ってくるか? コスナーさんは最近ヒット作に恵まれない印象ですが,ついにこんな映画にしか出演させてもらえなくなったんでしょうか。コスナーさんが熱演している分,余計に悲哀を感じさせます。

 それと最悪なのが《ネスト》という邦題。原題は《The New Daughter》なんですが,「ネスト」 ってネタバレしてるじゃん。なんでよりにもよってこんな無神経な邦題をつけちゃうかなぁ。これじゃ,どっかに「巣」があったらそれがそれが事件の本丸だ,って最初から見ている方にバレバレじゃないですか。しかも途中でご丁寧に何度も「アリの巣」が登場することだし・・・。

 ちなみに,日本でも劇場公開されていますが,小さな劇場でひっそりと上映されたのみで,公開が終わったらさっさとDVDが発売されたそうです。映画関係者にも映画ファンにも期待されていなかった作品だった模様です。


 というわけで,とりあえずストーリーを紹介。

 人気作家のジョン・ジェームズ(ケヴィン・コスナー)はつい最近,奥さんに逃げられたばかりで,ティーンエイジャーの娘ルイーサ(イバナ・バケロ)と幼い弟のサム(ガトリン・グリフィス)を連れて,ちょうど売りに出されていた人里離れた一軒家に引っ越してきたばかりです。なんでわざわざ人里離れたど田舎の一軒家に移り住むかなぁ,子供二人の学校や友達のこともあるんだから,なんでわざわざ引越しするかなぁ,という疑問を感じますが,「売りに出されているど田舎の豪華な一軒家」はホラー映画の鉄板の定石ってやつですから疑問に感じないように。

 ちなみに,生意気盛りの美少女ルイーサを演じるバケロは,あの大傑作ホラー・ファンタジー映画《パンズ・ラビリンス》の可憐な主人公を演じていた子役ですね。すっかり成長しております。また,サム役のグリフィスは《チェンジリング》で失踪する男の子どもの役ですね。

 そして屋敷に荷物が運び込まれ,それぞれの個室に落ち着きますが,ルイーサは自分の部屋にいく階段と廊下に足跡が続いていることに気づきます。これまた鉄板のシーンで笑っちゃますが,とりあえず「屋敷の中に何かいる」ことがわかります。そしてその夜,ルイーサの部屋の屋根を這いまわっている怪しげな人影が・・・。オイオイ,早々にモンスター様の登場か,と笑ってしまいますが,このあとはしばらく登場しないので「あれは何だったのだろう?」と不思議に思いながら映画をご鑑賞下さい。

 そして翌日,お子様二人が屋敷を探検して,敷地内に古墳のような古い塚があることに気づきます。ルイーサは構わず登りますが,寒は怖がって登ろうとしません。はい,この時点で「ネスト(巣)」の正体がバレちゃいました。ここに何かの巣があることはアホでも気づきます。そしてその夜,ルイーサは泥だらけになって帰宅します。何やら様子がおかしいです。そして彼女はシャワーを浴びますが,排水口に血が混じっています。何者かにレイプされたことはアホでも気づきます。バケロの表情はそのあたりの様子を無言で伝えています。

 一体何者がこの可憐な美少女を! と憤慨してしまいますが,学校でサムが「アリ観察セット」を渡され,そのセットを見たジョンが「女王アリは一匹だけいて子供を生むんだけど,寿命が尽きようとした時に新たな女王アリが選ばれるんだ」と息子に説明します。というわけで,ルイーサは次の女王アリとして選ばれちゃったことが,余程のアホでもなければわかります。なんとも懇切丁寧な演出です。

 そしてジョンは,娘の変化にどう対処していいかわからず,インターネットで調べたり(「思春期 娘 変化」 とか 「娘 子育て 失敗」 なんてキーワードで検索してもしょうがないだろうとツッコミが入るシーンです),娘の担任の先生(サマンサ・マシス)とちょっと親しくなったりするうちに,街のスーパーでレジ係が 「あんた,あの屋敷に入ったのか? 何も知らないの?」 という言葉を聞いたりします。ようやく,この屋敷に秘密があることに気づき,前の住人(母と娘の二人暮らし)に怪事件があったことを知ります。

 そしてついに,屋敷にある塚が古代から地下の闇世界に住む種族 「マウンド・ウォーカー」 であることを知ります。彼らは滅びようとしている種族ですが,そのたびに人間の若い女性を襲って 「女王アリ」 としてきたのです。ジョンはマウンド・ウォーカーに連れ去られた娘を連れ戻すべく,塚の洞窟に入っていきますが,彼がそこで見たものは・・・という映画でございました。


 というわけで,マウンド・ウォーカーですが,最後の15分くらいで姿を見せます。地底に棲むクリーチャーとしてはよくある造形ですが,これはもしかしたら,最後まで姿を見せず,気配だけの方が最後まで怖さが持続したんじゃないでしょうか。それまでは得体のしれない恐ろしさを描いたホラー・サスペンスだったのに,こいつが姿を見せたところで単なるモンスター映画になったからです。コスナー30周年記念映画としてはなんとも安っぽく感じるのは,こういうところです。

 「衝撃のラストシーンを見逃すな!」という宣伝文句がある映画で,たしかにアメリカ映画としてはちょっと珍しい終わり方かもしれませんが,これは映画の途中で「屋敷の前の持ち主の爺ちゃん」のセリフで予告されていた通りなんで,それほど衝撃的ではありません。多分,あのシーンで爺ちゃんは全てを語らなかったほうが良かったかも・・・。

 確かに,この手のアメリカ映画なら 「怪物を退治し,娘を取り戻し,家族は再び強い絆で結ばれ,ついでにジョンと先生は結婚しました」的なラストにするのが定石ですからね。ちなみに本作の映画監督はアメリカ人でなくスペイン人とのことで,この救いようのないダークなエンディングはアメリカ人から見たらショックでしょう。


 それと,ジョンの奥さんが浮気して家出したというエピソードが,物語全体と全く関係ないのも不満。このストーリーだったら,ジョンと奥さんと子供二人が引っ越してきた,ルイーサがなんだかおかしくなって,その変化の原因に母親がピンときて・・・という展開でも良かったような気がします。あるいは 「一家四人で引越してきたのに,ある夜,奥さんがいきなりいなくなり・・・」 とかね。折角,新旧の女王アリの交代という中心テーマ(?)があるんですから,そこにジョン一家の母娘関係を絡めるべきですよ。

 というわけで,なんでケヴィン・コスナーのデビュー30周年にこんな映画を作っちゃったのかなぁ,という残念感のみ漂う駄作でした。コスナーさんは次こそ,こんな安っぽいモンスター映画でなく,しみじみとした味わいの趣味のいい映画に出ようね。

(2012/09/26)

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