《サイレント・ワールド 2012 '2012: Ice Age'★★(2011年,アメリカ)


 アメリカのディザスターパニック映画のダメな部分だけ寄せ集めるとこうなっちゃうんだよね、というダメ映画。おまけに制作はあのアサイラムときてますから、見る前から評価基準がうんと下げとかないとダメですよ。見ていてガッカリ感に襲われたら「アサイラム、アサイラム、アサイラム」と3度唱えましょう。不思議に心が落ち着きます。


 舞台は2012年のアメリカ。ボストンに住む気象学者のビル(パトリック・ラビオートゥー)は娘のジュリア(ニューヨーク大学に通っている)を空港に送っていこうとしていたが、その最中にアイスランドにいる同僚から「ヘクラ火山全体が噴火しそうだ。このままだと氷河が崩落する」という連絡を受ける。ジュリアを飛行場に卸して研究所に向かうが、そこは大混乱だった。ヘクラ火山を覆っていた氷河が全て決壊して海に落ち込み、巨大な島のような氷塊になっていたからだ。それは19時間後に北米大陸東岸に到達し、東岸は壊滅状態になると予想された。とにかく、南に逃げるしかない。ビルは妻(ジュリー・マッカロー)と息子を連れて車で街を脱出し、ニューヨークの娘の元に急ごうと決意する。

 一方、ニューヨークに到着したジュリアを恋人のローガンが待っていたが、そこで政府からの緊急事態の発表を聞く。現時点ではニューヨークはまだ安全と判断し、ジュリアの住む寮に向かうが、押し寄せる巨大氷塊のために気候が激変し、真夏のニューヨークは雪に見舞われる。ニューヨークも安全でないと判断した二人は南に向かおうとするが、すでに交通網は麻痺し、移動手段が絶たれてしまう。そこでローガンはジュリアに地下鉄の構内に入って歩いて脱出しようと提案する。

 その頃アメリカ軍は、核弾頭と氷塊に打ち込んで溶かそうとするが、氷塊はびくともしない。そしてアメリカ東北部海岸が巨大氷塊に飲み込まれ、そこは氷の世界と化す。

 ニューヨークを目指すビルたち3人は無事にたどり着くことができ、ジュリアと再会できるのでありましょうか・・・ってなお話でございます。


 どっからツッコんだらいいかわからないようなレベルの映画なんですが、まず一番ダメなのが、主人公のビル役のパトリック・ラビオートゥーさん。この人は基本的にコメディー系の人なんですよ。ディザスター映画の主人公の科学者というよりは、映画冒頭にハンバーガーショップなんかでハンバーガーをパクついているところを襲われて、一番最初に犠牲になるタイプの顔です。あるいは、ハンバーガーショップの親父さんで、店に入ってきた強盗に最初に撃ち殺されるとかね。そういうパトリックさんが画面に登場するたびに「この人が科学者なんてないよなぁ」と違和感ありまくりです。


 この手の映画では、主人公の科学者が様々なデータとか知識を駆使して、何とか世界の崩壊をくい止める、というのが定石なんですが、何せパトリックさんですから、映画監督も「こいつに世界を救う科学者役は無理だな」と判断したらしく、研究所から早々に追い出され、あとはひたすら娘探しの旅となります。世界規模の大異変なのに、描かれるのは娘へ携帯電話がつながらないとか、ガス欠だとか、道が通れないだとか、そういうレベルのエピソードだけです。

 そのため、押し寄せる氷塊の爆撃を誰が決定したのかとか、アメリカ政府の様子とかは全く描かれていません。軍の戦闘機が飛んで行っては爆弾落とすだけ。それにしてもアメリカ映画ってのは、困ったことがあったら核爆弾を使うことしか考えつかないようです。


 オリジナルビデオとしてはCGはかなり頑張っている方だと思います。空から降ってくるビルサイズの氷塊とか、急速な寒冷化で歩いている人間が瞬時に凍結しちゃうとか、巨大竜巻とか、そこそこ工夫はしていました。ただ、常識的に考えれば、巨大氷河が海に流れ出して島よりでかい氷塊になったわけですから、そいつが襲来するより早く大津波が襲ってくるはずですが、この映画の制作者はそこまで頭が回らなかった模様です。


 そういうわけで、この映画は「離ればなれになった家族を見つける」物語なんですが、ムチャクチャ都合のよすぎる展開に大笑いの連続です。本当なら、ビルさん一家は次々に災難に見舞われて当たり前の状況なんですが、ビルさん一家だけ被害は軽微です。それこそ、ビルが額をすりむく程度です。ガス欠になれば都合よくガソリン満タンで乗り捨てられた車が見つかるし、道が故障車で塞がれていると運良く車の後ろから農薬が見つかって、即席の爆弾を作れちゃうし(それにしても、なぜあの程度の爆発で道が通れるようになったんでしょうか?)、車を奪われて歩いていった先の家にはすぐに乗れるように整備されたセスナ機があるし、もちろんビルさんはセスナが運転できるし・・・と、およそパニック映画らしくない展開の連続です。同様に、地下道を逃げるジュリアとローガンのカップルも危機らしい危機は訪れません。難なく歩いて向こう側に出られます。

 おまけに、ジュリアの持っている携帯電話はバッテリー切れなんて何のそののタフネスぶりで(この携帯電話はまじで欲しいっす)、おかげで弟がスマホの位置情報アプリを使って姉さんの居場所をピンポイントで探せたりします。一家の再会のシーンなんて余りに呆気なくて笑っちゃうくらいです。


 ちなみに、最後の方でジュリアとローガンが避難所に行くシーンがあるのですが、この避難所はどう見ても、[3.11] の被災地の避難所の様子を撮影したニュースの画面をそのまま使っています。これはあまりといえばあまりでしょう。確かにテレビ向けに作成したディザスター映画では実際に起きた災害のニュース映像を使うことがよくありますが、そこに映っている被災者がこの映画を見たらどう思うだろうか、という配慮に欠けています。この避難所のシーンは非常に短いワンシーンのみで,別に移す必要もないのですから,むしろ,なしにした方がよかったと思います。これは,いくらディザスター映画といっても [9.11] で崩れ落ちたビルのニュース画面を使わないのと同じです。

(2012/10/10)

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