新しい創傷治療:悪魔の毒々パーティ

《悪魔の毒々パーティ "Dance of the Dead"★★★★(2008年,アメリカ)


 これぞB級魂,と言いたくなるおバカに徹したコメディー調ゾンビ映画。おバカだけどパワフルな映画が好き,というニッチな人々(=私)は超満足ですね。何より,映画監督がB級ホラー映画を知り尽くしていて,しかも楽しみながら映画を作っていることがよくわかります。前半こそテンポがユルユルですが,途中からは一気に加速してパワー全開になります。ストーリーの整合性なんて全然考えてなくて,とにかくノリのよさで最後まで突っ走っちゃえ,という姿勢が潔くてナイスです。

 決して他人様にオススメできるような映画ではございませんが,太平洋のように広〜い心でゾンビ映画を愛している人なら,この映画の良さがわかってくれるはずです。

 ちなみに《悪魔の毒々〜》というとトロマ社のシリーズ映画ですが,この作品は全く無関係です。


 舞台はハワイ。墓場の墓守がゾンビに襲われるシーンから始まります。しかし墓守さんはすごく強くてゾンビを一撃で倒します。どうやら,ゾンビが増えてきたため,今さら驚いたりしないようです。ゾンビの原因は町にある発電所の廃液らしいです。

 一方,地元高校では例年通りに卒業パーティー(プロムってやつね)が開かれようとしていて,誰が誰をエスコートしていくか,誰を誘うかで大騒ぎです。しかし,ちょっと冴えないジミー君は恋人に振られたばかりだし,オタクの集まりのSF同好会の面々や,口より手が先に出る腕力バカ君は相手すらいません。もちろん,この連中はプロムに参加できません。

 しょうがないんで,SF同好会は幽霊探知機を持って墓場探検にいきますが,ここでゾンビの群に襲われます。そして,ここでデートをしていたジミー君の元カノも襲われますが,元カノ+SF同好会は何とか逃げて建物に逃げ込みます。しかし,なんということでしょう・・・そこは遺体安置所だったのです。そしてゾンビの群れはプロム会場に押し寄せて・・・という映画でございます。


 ストーリーの紹介が淡泊なのは,正直,ストーリーはどうでもいいからです。最後のプロム会場に乗り込むまで,色々あるんですが,何だかよく思い出せないんですよ。多分,脚本自体が超テキトーだからでしょうね。

 でも,この映画の魅力はストーリーとかじゃないんですね。

 まず,登場人物(特に男子)が学校一の鼻つまみ者だったり,キモいオタクだったり,いつもおちゃらけているバカだったり,「演奏は下手だけどガッツはあるぜ」系ロックバンドだったりと,負け犬集団なんですよ。そいつらがゾンビ軍団と戦い,最後は仲間を救うためにゾンビで一杯の体育館に乗り込んだりするんですよ。でもって,単身でゾンビの群の中に入っていくんですよ。冴えない男子たちがちょっとずつ逞しくなっていくんですよ。あのジミー君なんて,最後の方は完全にヒーロー役だもんな。

 しかも,オタク集団のSF同好会の面々も,ラストシーンではプロム・クイーンたちとカップル成立しているし(あのシーンで助けられたら,オタク君だって素敵に見えるってもんだぜ),冴えない男子たちは本当に頑張ります。


 そして,この手の映画に欠かせないのがミリタリー馬鹿ですが,この映画では学校の体育教師がその役です。もうこいつが絵に描いたような武器マニアのマッチョです。自宅ガレージはほとんど武器庫になっていて,プラスチック爆弾までストックしています。さすがはアメリカンな市民です。
 こういう武器馬鹿が隣の家に住んでいたらイヤだけど,ゾンビ発生時には頼りになるんですよ。この体育教師がバッタバッタと気持ちいいくらいにゾンビ軍団を蹴散らしていきます。そのくせ,天井裏に爆弾を仕掛けるところでは,お約束通りに起爆スイッチを落としちゃいます。うっかり八兵衛役もきっちりと演じてくれます。

 格好いいと言えば,この映画で唯一のイケメンなのがロックバンドのボーカル君です。何しろこの映画のゾンビは疾走系で怪力の持ち主という厄介な連中ですが,唯一の弱点(?)がロックなんですよ。ロックを聞くと聞きほれちゃって襲うのを忘れちゃうんですね。ロックバンドの連中もゾンビで一杯のプロム会場に乗り込むんですが,マッチョ体育教師が 「お前たちも武器を持て」 というと,ボーカル君が 「俺たちの武器はこれだぜ!」 ってギターをかざすんですよ。気合が入っていて格好いいぞ。

 で,ジミー君と元カノ(というか,この頃はすっかりよりが戻っているから彼女と表記すべきかも)がマッチョ体育教師が落とした起爆スイッチを回収しにゾンビがウジャウジャいるプロム会場に入るんですが,あっという間にゾンビに囲まれて絶体絶命の窮地になるんですが,それを救うのがロックバンドです。バンド連中がムーディーなナンバーを演奏するもんだから,ゾンビたちがチークダンスを始めちゃって,それに紛れてジミー君たちもチークタイム! オイオイ,今はそういう場合じゃないだろ,とツッコみたくなりますが,幸せそうなジミー君たちを見ていると,ま,いいかな,って思ったりするんですよ。

 あと,ギャグシーンは思いっきりギャグに徹します。もぎ取ったゾンビの頭をバットで打ち返すシーンなんてよかったですよ。結構ブラックなジョークをとばすシーンもありましたしね。


 この映画を見てふと思ったのは,ゾンビの食事は糖質オフであることに気が付きました。ゾンビさんたちの食事は人体ですから,糖質はせいぜい肝臓に含まれるグリコーゲンくらいです。ということは,糖質過多食でデブデブのアメリカンサイズのおっさんやおばさんたちでも,ゾンビに変身すると「糖質オフ+高蛋白食」の糖質制限食になりますから,数週間で痩せるんじゃないかと思います。ってことは,アメリカ人はゾンビになった方が健康になるってことですね。


 あと,別のゾンビ映画でも書いたけど,「最後の審判で死者が蘇る」とか「死者がゾンビとなって蘇る」というのは土葬文化特有の恐怖じゃないかと思います。つまり,死んでからかなりたたないと白骨化しませんから,死んで間もない死者は腐りかけの体で蘇るわけです。これはかなり気色悪いし,地下にはまだ遺体がしっかり残っている間は,「あの姿で蘇るんだよね」とリアルに想像できます。だから,最後の審判のシーンがやたらと怖いんじゃないかと・・・。

 一方,火葬文化だと遺体はすぐに灰になっちゃって粉々に砕かれます。文字通りの灰です。だから,死者が蘇ると言われても実体はもうないわけで,せいぜい霊魂となって現れるか,生前の姿で登場する様子しか想像できません。というわけで,日本には純然たるゾンビ映画があまり多くないのかもしれません。

(2013/02/2)

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