新しい創傷治療:アイランド

《アイランド "siren"★★(2010年,イギリス)


 原題の siren,つまりギリシャ神話に登場するセイレーン(英語読みだとサイレンですね)伝説をベースにした映画であることが分かります。・・・ってことは,美しい歌声で船乗りを惹きつけては船を難破させる,というホメロスの『オデュッセイア』などで有名なあのセイレーンですな。
 「とはいっても,まさか今時,この伝説を忠実に映画に再現するわけがないよね」と思ってみたら,その「まさか」でした。なんと21世紀になったというのに,セイレーン伝説を何の捻りも入れずに,映画の素材にしちゃいました。「逆・意表を突かれる」パターンです。

 そして肝心の映画ですが,これがスゴくつまんないのです。幻覚と現実がゴチャゴチャに提示されていて,何が起きているのかがわかりにくいし,おまけに最悪なのが映画の至る所にある思わせぶりのシーンやエピソードがまるで生かされていない点にあります。77分と尺の短い映画ですが,意味のないシーンやエピソードを省いたら,多分40分くらいになるはずです。要するに,内容の無さを無駄シーンで水増しして,何とか77分映画に仕上げました,というのが真相でしょう。


 ストーリーはこんな感じ。

 若くて美しいレイチェル(アンナ・スケラーン)は恋人のケン(オーエン・マッケン),元カレのマルコ(アンソニー・ジャブレ)と3人で,ケンの上司の持ち船に乗り込んでクルージングに出発します。ケンはマルコに舵を任せ,キャビンでレイチェルとエッチします。もちろん,元カレにあえぎ声をきかせまくりです。

 と,その時,マルコは遠くの島に人影を発見し,そちらに舵を切りますが,溺れそうになっている男を見つけ,3人はその男を船に引き上げます。その男は言葉が通じず,耳から血を流していますが,突然,狂ったような表情を見せたかと思ったら死んでしまいます。そして,なぜか船も故障して動かなくなり,無線も通じません。3人はとりあえずその島に行って死体を埋めることに決め(この状況を警察に説明しても信じてもらえそうにないしね),島に上陸します。そこで3人は一人の若い女性(テレーザ・スルボーヴァ)を発見します。彼女はシルカという名前以外,何一つ記憶していません。

 その晩,たき火を囲みながら3人はたわいのない話をしていましたが,シルカが突然,美しい声で歌い出します。そして3人は次々に幻覚に襲われます。セイレーンの歌声を聞いてしまった3人は果たして生きて帰れるのでしょうか・・・というお話でございます。


 この映画を作った人がヘタなのは,タイトルをセイレーンにしてしまったことです。端的に言えばタイトルでネタバレしています。おまけに,クルージングに出発する際に「あのセイレーン伝説で有名な島ね」という会話まで登場します。お節介にもほどがある,というやつです。つまりこの時点で,3人の乗った船が何らかの原因でその島に向かい,島にいるセイレーンの声を聞いて虜になる・・・というストーリーが読めてしまいます。というか,これが読めない人はいないでしょう。これは映画の作り手のミスですね。

 その自らのミスを取り戻そうと,映画監督は二人の美人女優の裸をふんだんに入れることにしました。たとえば冒頭,胸の谷間も露わなミニスカのお姉ちゃんがヒッチハイクで男の車に乗り,トイレに行ったお姉ちゃんの後を付けた男とトイレでエッチする,というかなりエロいシーンから始まります。実はこれはレイチェルとケンで,こういう設定のプレイがお好き,ということらしいのです。おまけに,レイチェルはいざこれからエッチ,というときに「誰かが見ている」と言い出すんですよ。ところがこれが全く意味のないシーンだし,誰も見ていないのですよ。こんなシーンを入れるより,船に乗り込むシーンから映画を初めてよかったと思います。

 それ以外にも,レイチェルのシャワーシーンやら,レイチェルとシルカのレズっぽいシーンとか,二人が全裸で海に入っていくシーンとか,裸には事欠きません。しかもレイチェル役もシルカ役も美人でスタイルがいいので(特にレイチェル役は巨乳さん),ちょっと得した気分にはなります。しかし,そのすべてがバックショットのため(つまりオッパイシーンはなし),散々じらしといてその気にさせといて,あとは・・・なんですよ。この程度のホラー映画なら,それはないだろ,という気になりますね。


 あと,セイレーンの歌声を実際の声にして流すというのも,なんだかなぁ。だって,セイレーンの歌声ってこの世のものと思われない美しさのはずなんだけど,映画に使われる歌声はきれいなんだけどそれ以上でもそれ以下でもないのです。だから,「これがセイレーンの歌声?」と興醒めします。もうちょっと工夫してほしかったです。

 その歌声を聞いてから3人は幻覚を見るようになるんですが,その幻覚の見せ方が要領を得ていないため,ただただわかりにくいだけです。何が実際に起きたのかが分からないため,観客は混乱に放り出されたままラストシーンを迎えてしまいます。ラストでレイチェルはシルカを殺し,今度はレイチェルがセイレーンになっちゃって,船を誘っているシーンでおしまいなんですが,セイレーン伝説にこういう設定はないはずです。なぜレイチェルが二代目セイレーンを襲名(?)したのか,説明が必要ですよ(例:セイレーンを殺した女にはセイレーンの魂が乗り移るとか)

 ちなみにシルカはすけすけの白のブラウスとホットパンツ姿でしたが,この服はどうやって手に入れたのか,最後まで気になりました。


 というわけで,何から何まで中途半端なホラー映画でした。

(2013/06/28)

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