新しい創傷治療:ヒドゥン・フェイス

《ヒドゥン・フェイス "LA CARA OCULTA"★★★★(2011年,コロンビア/スペイン)


 指揮者が主人公の映画と言うことで見たコロンビア製映画ですが、非常によくできたサスペンス映画に仕上がっています。最初の方はオカルティックなテイストが強く「これは幽霊ものかな?」と考えましたが、途中から正体が分かるんですね。それで一件落着かと思ったら、実はそこから先がもっと怖い。ヒロインのファビアナが鏡に向ける冷たい視線と笑みが凄すぎます。彼女が可憐で可愛いだけに、この笑みは文句なしに怖いっす。

 もしもこの映画を見るなら、ネタバレ感想は絶対に読まない方がいいです。そうすれば、最後の最後までハラハラドキドキが楽しめるはずです。

 ちなみに、主人公はオーケストラの指揮者で、役者さんは一応指揮者らしい動きはできていますが、曲と動きが合っていない部分があったり、ラフマニノフのコンチェルト冒頭をピアノで弾くシーンはもうちょっと練習した方が良かったと思います。ちょっと残念。


 スペイン人の指揮者アドリアン(キム・グティエレス)はコロンビアの交響楽団から指揮者のオファーを受け、スペインからコロンビアに移り住んでいた。そして恋人のベレン(クララ・ラコ)は「ずっと一緒にいたい」というアドリアンの言葉を受けて一緒にコロンビアで暮らすことにした。二人が住む家は人里離れた郊外にあり、家主によるとナチスの生き残りが追求を逃れて隠れ住んでいた邸宅だった。

 だが、生来の浮気者のアドリアンは楽団員にヴァイオリニストに声をかけて親しくなり、ベレンはそれを目撃してしまう。やがてベレンは別れを告げるビデオメッセージを残して突然姿を消す。アドリアンは失踪届を出すが、警察によると足取りはつかめず、スペインに出国した様子もない。

 失意のアドリアンはバーに飲みに行って泥酔し、ウェイトレスのファビアナ(マルチナ・ガルシア)に親切に介抱されたことから親しくなり、二人は恋に落ちる。ファビアナはほどなくアドリアンの屋敷で暮らすようになる。

 だが、そんなファビアナを怪奇現象が襲う。洗面台の排水溝から人の声のようなものが聞こえ、洗面台に溜めた水に波紋が広がり、シャワーを浴びていると突然熱湯が噴き出したりする。この家には何かがいる。この家は何かが取り憑いている。不気味なものを感じ始めたファビアナは、部屋の中から一つの鍵を見つける。そして、ついにファビアナは・・・という映画です。


 映画の前半はファビアナの視点で進みます。たまたま店に来た男が泥酔し、そのまま車を運転して返せないので自分が運転して自宅につれ(この時はエッチなし)、翌日、礼を言いに訪れた男から彼が指揮者であり、しかも家族も恋人もいないと告げられ、一気に恋に落ちるんですが、このあたりの展開は無理がないです。そして、自分の身に次々と降りかかる「ちょっと不気味な事件」と、アドリアンに浮気の相手がいることがわかり、次第に疑心暗鬼になっていきます。

 そしてここで映画は一気に過去の時点に戻り、ベレンの視点で説明されていきます。ここで、映画の前半にあった様々なエピソード(ファビアナが見つけた靴の型紙、犬の不思議な振る舞いなど)の意味が分かります。そして、ベレンがなぜ失踪したのかという謎が明かされ、ファビアナを襲った怪奇現象の正体が分かります。このあたりの展開は見事ですし、脚本が素晴らしいです。


 ファビアナ役のマルチナ・ガルシアさんは「南米のソフィー・マルソー」と呼ばれている女優さんでとてもきれいで魅力的。最初のウェイトレス姿の時はそんなに美人に見えなかったんだけど、アドリアンと愛し合うようになってからは恋のオーラ大放出で、どんどん美しくなっていきます。しかも、やたらと大胆に脱ぎまくり、ラテン系には珍しく(?)清楚な美乳(Aカップの貧乳だけど)を惜しげもなく披露してくれます。入浴シーンはほぼフルヌードでした(もちろんボカシありだけど)。DVDジャケットでは鏡の前でオッパイを揉まれるシーンですが、映画を見終わってみるとこのシーンの二重の意味が分かるという仕掛けになっています。決して、セクシー路線を狙った映画ではないですね。

 ベレン役のクララ・ラコもきれいな女優さんです。途中で一カ所、ヌードシーンがありますが、こちらの方は、側胸部のあばら骨が浮かび上がっていて(意味は映画を見ればわかります)、もしかしたらこのシーンのために体重を落としたのかもしれません。だとしたらアッパレな女優魂です。

 指揮者アドリアンのキム・グティエレスさんはイケメンではないです(南米基準ではイケメンかもしれないけど)。イケメンでないだけに、次から次へと女性を口説いていく姿が、この男のショーモない薄っぺらな内面を見事に描いているようです。
 あと、せっかく指揮者役として登場しているのですから、もうちょっと指揮者の動きに磨きをかけた方がよろしかったかと思います。特に、最初の方でカーステレオから流れるブラームスの『ハンガリー舞曲第8番』の音と彼の手の動きは全く合ってないです。これはちょっと失笑モノ。


 ちなみに、音楽中で使われている曲は次の通り。

  1. ブラームス『ハンガリー舞曲第8番 イ短調』
  2. チャイコフスキー『交響曲第6番「悲愴」 第1楽章』
  3. ラフマニノフ『ピアノ協奏曲第2番 第1楽章の冒頭』
  4. ベートーヴェン『交響曲第7番 第2楽章の後半』


 ちなみに、その脚本の見事さに目を付けたハリウッドが、既にリメイク版の制作に取りかかっているそうです。ハリウッドでは指揮者のアドリアン役をもうちょっと音楽の素養のある俳優さんにして欲しいです。そうしたら,ほぼ完璧なサスペンス・スリラー映画になるはずです。

(2013/09/07)

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